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箱庭日記9

2月●日  天井知らずの寒さ更新中
「美味しいご飯の作り方」

やっといい事があった。スクラッチくじで10万円当たった。
今までの人生で買ってきた宝くじの金額が、一気にマルっと回収出来たと思う。

宝くじの窓口で10万円を受け取った足で、電車に乗り1時間半の温泉街でパーっと使うことにした。
急遽取った宿の温泉に入り、夕飯も豪華な懐石料理にした。

昼間から休憩を取りつつ、何度か温泉と部屋を往復した。
体の隅々までデトックス出来たと思う。

あっという間に、楽しみにしていた夕食の時間だ。
私は色々ある食事の中で、やっぱり和食が好きだ。
自分で作る料理は、気分によってだが、乗らないと本当に栄養を摂るための最低限のものになってしまいがちだが、心の栄養にもなるような食事と言うのも大事である。

当たった10万円フルに使おうと、良い宿にしたので18時になると食事する為の個室へ案内された。

窓の外には、きちっと手入れのされた庭園と池。
綺麗な鯉が泳いでおり、先程庭園を散歩している際に気が付いたが、ここの鯉は近寄っても水面に口を出しパクパクしたりせず、優雅に泳いでいる。

普段から『人が来ると餌をもらえる』と言うシステムでない為だろうか。
そういった細かな気遣いがされているのも、良い宿らしい。

さて、まず運ばれてきたのは、食前酒と前菜。

食前酒には、梅酒。それと共に前菜として、蟹をメインに菜の花や菊花かぶらやら黒豆の松葉作りやら、色々細々とある。

どれもそれぞれ、美味しい。
特に食前酒のキンと冷えていて梅酒は甘酸っぱく、微炭酸。口にすると梅の花の香りとレモンのような爽やかさが鼻に抜けるフレッシュな後味だ。
味わいながら一気に飲み干すと、料理を運んでくれた人が『いかがですか?ここの料理の食材は変わった方法で作られているものもあり、お客様にとても喜んで頂けています。』
『こちらの梅酒の梅には、蕾になるくらいから毎日物語を聴かせて育てます。内容は冬のコンビニで学生2人が肉まんを半分こして交流を深めると言うものです。2人は学校帰りにコンビニのイートインで肉まんを半分こして、その日あったことを語り合います。そうして交流を深めると言う一冬の青春です。』『詳細は省きますが、こちらと2人の交流はとある事情で期間限定となっています。そんな所も甘酸っぱい思い出の味に繋がっています。』

「なるほど、植物に話しかけるとよく育つと言われているアレを使って、狙った味や香りを作り出しているんということですね?」

『そうそう、狙った仕上がりに仕込むのが難しくてね。では次の料理はお運びしますね。』
「お願いします」
どんどんと料理が運ばれてくる。

多分わかさぎ?

次は煮物椀。
真鯛の唐揚げに、敷き水菜、香り柚子が少し乗っている。

鯛の身がふわふわで、衣の中でとろけている。シャキシャキの水菜と柚子と共に口に入れるとより一層各々の良さが引き立つ。

『こちらの鯛、これはどのような話を聞かせて育てたと思いますか?』
「あー、そうですね。ふわふわトロトロの身になる様に、優しい感じの話ですか?」
『惜しいです。この鯛には柔軟剤と洗剤の擬人化恋愛小説を読んで聴かせました。』
「これはまた。そうでしたか。ちなみに読んで聴かせる話は、どなたが選ぶのですか?料理人達が会議をするとか?そういったソムリエの様な方がいらっしゃるとか?」
『半分当たりです。ここの料理人が話し合い、どういった物語を読んで聴かせるかを決めて、私が物語を作ります。』
『元々は料理人でしたが、食材にこだわり過ぎて行き着く先は小説家になってしまいました。今では包丁よりもペンを持つ方が多いです。』『料理人としても小説家としても、最後には美味しく召し上がるお客様を見てこそ最高の報酬です。』
「そうでしたか、どのお料理も美味しいです。また違う季節にも来たいなぁ」
『ははっ。そう言って頂けるのが何よりです。』

その後も次々料理が運ばれ、都度食材達に語られた物語のあらすじを聞いた。

だいぶ満腹になった。世の中は広く、私の知らないことだらけだ。全部の食材ではないが、メインになる食材には物語を聴かせて育てているそうだ。

今日のコースだけで『冬のコンビニ期間限定青春話』『柔軟剤と洗剤の擬人化恋愛話』『山奥で暮らす椎茸農家の老人と都会から越してきた馴染めない少年の話』『全ての人間が性別ごとに分けられた2種類の顔しか存在しない世界の話』など12話程あらすじの説明があった。

『さぁ次で最後。デザートをお持ちしますね。』

『今日のデザートのフランボワーズと食後のコーヒーをどうぞ。』

ふとお品書きを見ながら、振り返っているとお品書きの紙の裏にQRコードがあった。
「これは何ですか?」と尋ねるとよくぞ聞いてくれました。とばかりに目を輝かせながら『こちらのQRコードを読み込んで頂くと、本日のメニューの食材に聴かせた物語が全部読めます。帰りの電車のお供にぜひ。感想も頂けると励みになります。』『普段物語を書いても、食材達からの味や香りとしての反応はあれど、実際言葉で感想を言ってもらえる事がなくて。やっぱり物語の感想聞きたいなぁと。自分で物語の中で伝えたいと思った事と、相手に受け取られるものって違うじゃないですか。狙っていない反応も面白いのですが、食材を目標の味や香りに導くと言う仕事なので、狙った仕上がりにしたくて。是非読んだ感想くださいね!。』と念を押されてしまった。

言われた通りに、QRコードを読み込み帰りの電車のお供として語られた物語を読んだ。
大筋の感じ方は合うかもしれないが、やっぱり人の感じ方は千差万別。

作者としては『香り立つ濃い話』として読ませたかったらしい『洋館からの脱出パニックホラー』に関しては、次々と猟奇的な目に遭う登場人物達から『血の香り』と生き残った2人の『生き残りを賭けた濃いやりとり』から「これを聴かされた牛から出るミルク、鉄の香りと濃いめの塩味しそう」と思った。

宿代¥7,5000(夕食代とマッサージ代含めて)
往復電車代¥15,000
近くの射的場、スマートボール、お饅頭など買食い¥5,000
残りで、ご当地オススメふりかけ、駅弁、ホテルのロゴの入ったボールペン、職場への土産を買った。残金153円を、コンビニの募金箱に入れ宝くじで当たった10万円全てを丁度使い切った。

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