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とりとめのない日記6
11月●日 小雨が朝から続いている
「旅行記」
先日二泊三日で、海沿いの町へ旅行に行った。
都内よりもかなり寒く、寒がりな私は重装備で挑んだ。
旅行の醍醐味である「朝何となく早く起きて散歩」をしていると、子どもが10人程縦1列になり歩いている。
「参加されますか?」と後ろから声をかけられた。振り返ると顔に半紙をつけた人が「よかったら是非」と同じような半紙を私に差し出した。
どうやら地元の行事のようで、面白そうだし折角なので参加することにした。
簡単にルールを説明された。
参加する者は顔に先程の半紙を付けて、子どもと手を繋ぐ。
そして10分ほど歩いて海沿いの鳥居まで行き、最後に貝を海に投げ1年の豊漁を願うというものだ。
注意しなければいけない点があり、半紙を付けたら終わるまで取ってはいけない事。また途中で抜けられない事。それさえ守れば、参加者にも相応の良い事が与えられるそうだ。
参加者が少なく、部外者の自分にお声が掛かったのも納得である。少し気味が悪い。
少し悩んだが、不安を上回る興味と他参加者からの切望の目を拒めず参加することにした。
半紙をつける前に、ちらと子供の方を見た。
10人ほどの子供達は、同じような白い甚平?を着ており、顔には半紙が貼り付けてあり波の様なマークがそれぞれ書かれていた。
妙なことに、小学生低学年くらいの子ども達が集まっているのに喋り声一つ聞こえなかった。
私も半紙を顔に付ける。視界が悪く自分の足元しか見えない。子どもの手が私に触れ、ぎゅっと握られた。
そのまま、手を引かれ歩き始めた。
皆一様に無口に進んだ。
どのくらい歩いただろうか、一度止まるように言われ、口に液体を含まされた。
これを『良い』と言われるまで、口に含み続けて。との事だった。
液体は甘みがあり、日本酒の様な香りがした。
その辺りから、握られている手がネチョつく様な感じがした。
生暖かい風が首に絡んで、暗がりに入ったのがわかる。
ざりざりざり、と無言で歩く。
音が反響している事と、暗くなった事でトンネルか何かに入ったのだと思う。
ざりざりざり、手のネチョつきが手首から肘の辺りまで来ている。口には液体があり声を出せないし、途中で止めるのも怖い。
ざりざりざり、足音は複数するので私以外の参加者も、ちゃんといるのだろう。いるのだろうか?
ざりざりざり。
視界が明るくなったのを感じた。
『もうすぐ着きますよ』『口の中のものは地面に出しちゃって大丈夫です。』と続けて言われ、それに従った。
手に絡みつくものも、いつの間にか無くなり、私の手の中には5センチ程の硬いものが握られている。
不意に後ろから手を添えられて『ではここから、手の中のものを投げちゃってください。それで終わりですので。』
添えられた手に従って、手の中のものを投げた。
ぽちゃ、ぽちゃ。
あちこちで同様の音が聞こえ、他の参加者も何かを投げている様だった。
『ではこれで、今回のハシラビラキは無事終わりです。』『ありがとうございました。』
顔に付けられた半紙を剥がされ、眩しさに耐え目を開ける。
眼前に穏やかな海が広がっており、私は崖の上に立っていることに気がついた。
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『飛び入りで参加してくれて、助かりました。最近は年々参加者が減っているんです。是非来年もご参加下さい。』『この後の食事会にも参加して行って下さい。』口々に飛び切りの笑顔で誘われたが断った。
「この後すぐ出発なので」そそくさとその場を後にした。振り返る事も出来なかった。
声をかけられている時に、ちらと海を見ると、おびただしい数の貝が浮いていた。口を開けて。
ホテルに帰りすぐチェックアウトをした。右腕の肘までナメクジが這った様な汚れが付いた上着は捨てた。
寒さに負けホテルのロゴが顔になったゆるキャラが入ったパーカーを着て帰る羽目になった。¥6500の手痛い出費となった。
追記 ホテルの温泉がとても素晴らしかった。
雨が降っている中、露天風呂に入った。
どうせ濡れているのだから、いいだろう。
雨がそこら中の草を叩いて湿った匂いがのぼる。雨樋に沿って雨が小さな滝になっていた。
どちらかと言えば都会育ちの私は、この雨と草
の湿った匂いで林間学校を思い出す。
何をしたのかは、覚えていない。
断片的な風景が記憶にあるだけだ。
匂いは記憶を思い起こす。
今の景色も、この匂いと共に記憶に残るとい
い。
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