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ラスト・メッセージ

『早希さん、こんにちは
3月になり気候も少しづつ春めいて来ましたね。
その後お元気にしてますか?
僕は今、ひとりで北の方の町を旅しています。
旅の目的は伯父の法事だったのですが、そちらはもう無事に済ませました。
この伯父には僕が小さい頃たくさん世話になったのです。実の母と折り合いが悪かった時期には、何度か助言を頂いたりしたものです。
大人になってからも何かと相談に乗ってくれましてね、まぁ、ある意味僕にとっては恩人の一人とも言える方でした。
早いものでもうこれで七回忌になりました。時々はこうしてお墓参りに訪れ、花を手向けてやらなければいけませんね。

それは兎も角、先日は突然の僕の申し出に早希さんは多分びっくりされた事でしょうね。
貴女にとっては唐突なお話だったかも知れませんが、僕にとってはもうかなり以前から考え抜いた末の事だったのです。
ご承知の通り僕の仕事の方も一時の深刻な事態から今は脱却して軌道に乗りつつあります。当初予定していたよりは随分遠回りしてしまった気分は否めませんが、これくらいの事で負ける訳には行きません。
そういう強い気持ちで過ごせて乗り越えて来れたのもやはり、僕にとっては早希さんの存在が大きかったのです。
思えば貴女と出逢ってこれで4年目の春ですね。その間、常に一緒にいた訳ではないけど、不思議と節目節目の大切な所で繋がりがあった様な気がします。
そういった縁はこれからもずっと大切にして行きたいと僕は思います。
ただ、それにしてもやはり唐突な申し出だったかもしれませんね。ちょっぴり反省しています。お許しください。
出来ましたらもう少し時間をかけてゆっくり話し合って行きましょう。


それとお借りしていた村上春樹の本も読了しました。最後はもしかしたら「あちら側」に行ってしまうのかなとも思いましたが、そうではなかったのですね。でも幻の様に消えて行った彼女にはやはり早希さんが仰った様に何かしらの魅力を感じてしまいます。これまでの僕の生き方から考えてみると、僕も「あちら側」の存在だったかもしれないです(苦笑)

もう暫くの間お休みを頂いているので、これから数日かけゆっくり南下して行って来週のはじめあたりに横浜へ戻るつもりでいます。
その頃にまたどこかでお会い出来ればと思います。桜木町のあのお店にもまた二人で行きたいですね。今度は辛口のキーマカレーに挑戦してみようと思います。
それからお花見にも行きましょうね。大岡川の桜も綺麗ですよ。
それまであと少しですね。
今は互いのしあわせを願いつつ、もう少しの間、僕はひとりローカル線の旅を続けます。
東北の春はまだ肌寒いです。でも空気が澄んでてとても気持ち良いです。
海岸沿いに雰囲気のある町家風カフェを見つけたので、今から少し遅めのランチです。

早希さんの方も年度末で何かとお忙しいとは思いますが、風邪など召さぬ様お気を付けてください。
ではまた次回会える日を楽しみにしています。

2011.3.11
陸前高田市の港にて  賢一より


追伸  二隻の船がデザインされたスカーフを見つけたので貴女へのお土産として買いました。気に入って貰えるといいな』

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