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【毎週ショートショートnote】洞窟の奥はお子様ランチ

お題:洞窟の奥はお子様ランチ


 俺はブログを書いている。ひっそりと長年続けてきたそれは、今では名前を出せば皆が、「あー!あれね」と言って作った拳で反対の手のひらを叩き、人さし指を立てるものとなった。

 その名も、「ランチハンター」だ。

 サラリーマンたるもの、ランチとは休息であり娯楽であり戦争だ。僅かな資金を握り締め、如何に安く如何にうまい店に辿り着くかが最重要項目。そしてその戦争を勝ち抜く為には、ネットの荒波と言う情報戦を勝ち抜く事も必須。
 そこで全世界のサラリーマンに、確固たる情報を渡すべく俺はこのランチハンターを始めた。まあ発端は単なる趣味ブログだったのだが。

「よし、行くか!」

 あれよあれよと言う間に、気付けばインフルエンサーギルドに入ってしまっていたランチハンターは趣味の域を飛び出した。案件と言う形で手に入れた資金で、本日挑むのは沖縄の洞窟。何でもこの中にランチ限定で最高級のお子様ランチがあるらしい。
 そんな大物、ランチハンターとして見逃す訳にはいかない。スーツをびしっと決め、飛行機で沖縄へひとっ飛び。店からもらった地図を頼りにタクシーを乗り継ぎ、人気のない海辺へ行くと、凪いだ海と麦わら帽子の男。

「ランチハンターさんですね。どうぞこの舟に乗ってください」

 最高級お子様ランチとは程遠い、洞窟への冒険には心許ないモーターが申し訳程度に搭載された舟。乗り込めば適度な揺れが、最高級とは程遠い事を再確認させてくる。
 しかし事前の連絡通り、店は本当に洞窟の奥にあるようだ。凪いだ海を突き進む舟はLEDランタンを光らせながら、ランチ帯とは思えない程暗い洞窟へと突入する。洞窟内はぽつりぽつりと灯りが点いており、暗いながらもわくわく感を煽る。

 そしてついに到着した店に思わず大きく口を開いた。洞窟内の雰囲気を壊さないように設計された店は外観も内装も、まさに男の冒険心をくすぐるの一言に尽きる。ごつごつとした無骨さを残しながらも、確かに大人向けに作られた上品さに覆われていた。
 鼻を刺激する肉の焼ける匂いにたまらず生唾を呑む。落ち着けランチハンター。良いランチなんてこれまでたくさん食ってきただろう。こんな程度ではしゃぐんじゃない。
 案内され席に着き、自分に言い聞かせる事約十五分。じゅわっと鉄板の焼ける音が耳を掠めると同時に、肉と脂の匂いが俺に襲いかかる。

「当店自慢のお子様ランチです」

 テーブルの上に置かれたそれを見て、勢い良くナイフとフォークを掴んだ。マナーも作法も、食欲の前では形を成さない。大きなワンプレートにはその一角を熱々の鉄板が陣取っており、そこで脂を跳ねさせながら牛百%のハンバーグが俺を待っていた。フォークを突き刺すだけで肉汁が滝のように流れ出す。
 その鉄板の隣、ふわふわとろとろの半熟玉子で覆われたオムライス。ケチャップソースの赤みが俺を誘っている。ほくほくの厚みのあるフライドポテト。からっと揚がった大ぶりな唐揚げとエビフライ。シンプルながらも欠かせないポテトサラダにスパゲッティ。そして瑞々しいオレンジ・苺・シャインマスカットの添えられたデザート小鉢。

 こう言うので良いんだよ。それの最上級がここには確かにあった。

「どうでしたか?私ランチハンターさんの大ファンで、ブログに載るのが夢だったんですよ~」
「最高でした……俺はこの夢のようなお子様ランチに出会う為に、ランチハンターをしていたのかもしれません……」

 サラリーマンのランチと言う大冒険の末に、俺はついに出会ってしまったのかもしれない。最高のお宝に。しばらく沖縄に住もう。


冒険小説風になったのかどうか……。
究極のお子様ランチ、食ってみてぇなあ……。


下記に今まで書いた小説をまとめていますので、お暇な時にでも是非。

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