斎藤肇

遠い昔にはプロの小説家であったり、同人誌作ったり、某ミステリコミュのまとめ役であったり…

斎藤肇

遠い昔にはプロの小説家であったり、同人誌作ったり、某ミステリコミュのまとめ役であったりもしていたが、今は時間が足りない介護の日々。 なお、プロフィル画像はそこそこ加工してあり。

マガジン

  • 最後の魔法物語

    「魔法物語ロウチ」のまとめ。ほぼ毎週書かれる新しい原稿が発表されるごとに追加してゆく予定。過去に講談社で発行された『魔法物語』上下の続編を最終的に完結させるために執筆中。

最近の記事

魔法物語 間奏曲1 No.20

 世界とは、届く限りの内側のことだ。  ただ足で歩き、走るしか行くことができないならば、生涯をもって到達できる距離がその世界となる。  数世代をかけて到達できる世界もある。それは、その世代を維持した一族の世界だ。  ただし世界は一本の線でできているわけではない。世界とは広がりでもある。生きて、暮らし、生かされるのに必要な空間と時間の広がりでもある。  そこに存在するさまざまな事物、事象をひとまとめにして、その関わりも変化も捉えて、ただ世界と呼ぶ。  ただし世界は、認知されるこ

    • 魔法物語 メイリ8

       だがルシフスはまだそこにいた。  ィロウチの小さな目から投影された映像に、暗い空に浮かぶ青い竜の姿があった。飛行艇と連動するように飛翔していた小さな目は、竜の姿を捉えることを優先したように静止している。  飛行艇は高度を下げ、すでにルシフスの後方に飛行している。それなのにルシフスは、まるで小さな目があることに気づいているように、その存在を面白がるかのように、同じ場所に留まっている。  どちらも、重なり合うかのようなふたつの世界の、メイリたちが属さぬ方にいる。  けれど小さな

      • 魔法物語 メイリ7

         そこに、ホーサグはいた。  突然、脳裏に浮かんだルシフスという名前に、全身が小刻みに震えていた。かつて経験した、砂嵐の印象と重なり合って、その特別な名を受け止めた。  嫌悪と恐怖、畏怖。自分でも滑稽なほど、その言葉に敏感だった。  それは意図せぬ変身のおぞましい記憶とも結びついている。変身については、その後魔法によって解いてもらえたものの、完全に元に戻ったわけではなく、納得できる自分になるために、時間をかけて鍛える必要があった。  そんな苦い記憶の鍵となる名前がルシフスだっ

        • 魔法物語 メイリ6

           朝が薄れてゆく。  太陽が高くなるにつれ風が止まった。  飛行艇は、動きだそうとして軋んだ。魔法により重さは消されているが、それだけでは浮かばない。内部には四人いる。その重さは消されていない。  それでも、飛行艇は動き出す。身じろぎするように震えて、地面をこすり、小さく弾み、どこかが地面に接している状況から、何度となく繰り返すうちに、ついに機体のすべてが空中へと離れる。  浮かんでしまえばすぐにでも、とはゆかずまた接地してしまい、けれど弾み、離れて、ふいっと昇った。  不格

        魔法物語 間奏曲1 No.20

        マガジン

        • 最後の魔法物語
          20本

        記事

          魔法物語 メイリ5(ホーサグ)

           出発まで三日を要した。  一日目は船の建造を、主にオクライが行った。魔法を使えば、建造自体は出来る。ただし、構造を検討しながらとなれば呪文を唱えればいいというわけにはゆかない。  試行錯誤が必要だった。  その間に、ィロウチが偵察をした。ソドウの街とテネアの島は魔法の通廊でつながっているが、そこは小さな目だけでは通れない。しかし、その通廊は船も通れない。従って小さな目による偵察は、ソドウの街と地続きの土地を中心に行われる。  あるいは空へ、という可能性もあったが、いきなりそ

          魔法物語 メイリ5(ホーサグ)

          魔法物語 メイリ4

           メイリは静かに立ち上がる。もうこの場所に寝ているわけにはゆかない。  まだ幼いが、裸であるのは問題だろうと、魔導師が魔法で着衣を用意する。  とはいえオクライにはなにをどう着せて良いかも分からない。大きな生成の布の中央に、頭を出す穴が開いている程度。あとは腰のあたりに紐を巻く。  魔導師は手先が不器用だった。  少女もやったことがなかった。  無駄に時間がかかる。  魔法で着せることもできたのだろうが、なにをどうすべきか理解できていないのに、魔法だからと上手な仕上がりを期待

          魔法物語 メイリ4

          魔法物語 メイリ3(セグロ)

           風に夜のにおいが溶け込む頃、男は店を開ける準備を始めた。 『青い猫亭』  このソドウという土地に来て、改めて店を開いた。以前は海辺にあったのだが、海に沈んでしまったのだ。  新しい店も以前と同じように、酒と簡単な料理、気安く過ごす時間を売りにしている。  独り身が長い。実の娘のように育てた訳ありの少女がいたが、成長し今では嫁いで、夜の短い時間だけ手伝いに来てくれる。そうと承知の客は、その頃合いを狙ってやってくる。  いつもの、あまり変わらぬ時間を、男は求めてきた。ついつい余

          魔法物語 メイリ3(セグロ)

          魔法物語 メイリ2

           自分の名を呼んでみる。 「メイリ」  良い名である、とは思わない。悪いとも思わない。ただしっくりしない。  名前なんてそんなものだ。分別もつかないほど幼い頃からずっと呼ばれて、少しずつ馴染んでくるものだ。  今さら自分の名前だなんて言われても、ほとんど呼ばれたことがないのだから、しっくりくるはずがない。だから、しかたない。 「どうした」  と問いかけてくるのは、そう、オクライ。なんとなく、偉い人。ただ、ひとつ大切なことがある。オクライは、もう、自分の中にいる、ということ。今

          魔法物語 メイリ2

          魔法物語 ロウチ12,メイリ1

           少女は停まっていた。  ソドウと呼ばれる街の大樹に封じられて、もうずいぶん長いこと凍結された状態にあった。  命を受けた時、すでに八歳ほどの身体と知能を持っていた。そのような少女を、魔法によって複製することで与えられた仮初めの命だった。  元になった少女は、大いなる運命の魔法を身に宿していた。その魔法そのものを奪おうとした魔導師によって、少女は複製されたのだ。  いわば嫉妬によって生み出されたことになる。だが、そんな複製の魔法を行った魔導師は知らなかった。元になった魔法、“

          魔法物語 ロウチ12,メイリ1

          魔法物語 ロウチ11

           身体の目を閉じる。小さな目は、宿の建物の上にあった。その場で街を見回す。  光が、まだあちこちにあるが、少し減ったようだ。グラウゼもまた、ようやく就寝の準備にかかったらしい。  その全体を見たくなって、小さな目を高く運ぶ。見下ろしながら、後退するように昇って、夜の風景をまとめていった。明かりがあるのはグラウゼの中だけ。周囲は深い闇に包まれている。  ロウチは、少し予定を変えた。このまま大地をどこまでも真っ直ぐに進み、あの夜に見た世界の果てを、その先を目指すつもりだった。が、

          魔法物語 ロウチ11

          魔法物語 ロウチ10

           遠い昔になにかがあった。  けれど、なにがあったのか語り継がれてはいない。  魔物の軍と人の軍が戦ったという。結果、数万の人命が失われた。そのような、おおまかな話でしかない。  失われた兵士、将校たちの命。その家族にもたらされた数々の悲惨な運命の物語ならいくらでもある。けれど、いかにして戦いが行われ、どう決着したのかが分からないのである。  たとえば戦いの最中に、その戦場に、星が落ちてきたのだと語る者があった。すべてが焼き払われ、なにもかもが消滅したのだと。  さらには、落

          魔法物語 ロウチ10

          魔法物語 ロウチ9

           夕食付きの宿に入って、ひとりきりで食事を済ませた。思えば初めての経験だった。  そういえば母は若い頃、こうした宿に勤めていたはずだった。が、ロウチはその宿の名前も覚えていなかった。  武器商の店は、このグラウゼの街にそうたくさんはないはずだ。偶然、マベラの店に入れたとしても、そんなに不思議ではないだろう。だが、宿泊する場所ともなれば、旅の街と呼び習わされるこのグラウゼ、きっと数十軒くらいはあるだろう。母が勤めていた宿に出会える可能性は低い。  ただ空想することは出来る。夕食

          魔法物語 ロウチ9

          魔法物語 ロウチ8

           その前に、確かめておこう、とロウチは考えた。  臆病と思われるかもしれない。けれど、ロウチには特別な能力がある。あえて使わないことが賢明であるとは思えなかった。  たとえ実際に行かなければ分からない何かがあったとしても、その途上にも苦難はあるだろう。いくつでも事前に障害を知れれば対策を立てられる。  そのためには、母から話を聞き、まずはどのような道のりを越えてゆくかを知る必要がある。なんらかの地図を手に入れ、場合によっては自分で描いてもいい。  そんなふうに準備して、その日

          魔法物語 ロウチ8

          魔法物語 ロウチ7

           長姉の名は祖母から取ったという。  ロウチも、それくらいのことは知っていた。けれど、それ以上は教えられていない。父も母も、その名を大切に思っているのは間違いなかったが、あえて語りたくはない事情があるようだった。  たとえば父方の祖父の名が出てこない。いや、それどころか、祖父というのはいないと聞いたことさえある。いない、と言われても、いったいなにがどう「いない」のか。ただ分からないというだけなのか。案外、魔法によって産まれて、親というものが存在しないのかもしれない。  どのみ

          魔法物語 ロウチ7

          魔法物語 ロウチ6

           目が覚めたら、現実はまだ夢ではなくて、思い描くことができても、すぐにそこまで行くことはかなわない。  朝食を済ませて、フキオルは出立していった。 「いずれまた会うこともあるだろう」  約束ではなく、そう言われた。  ロウチは、まだ自分が足りないと気づいていた。  もし、このままフキオルと一緒に行けば、様々なことを教えてもらえて、たちまち成長できるのかもしれない。けれど、それはただ、教えてもらって覚えるだけだろう。そうではなくて、教えてもらったことを自分なりに解釈したり、時に

          魔法物語 ロウチ6

          魔法物語 ロウチ5

           その晩遅く、雨が降った。風も強く、嵐が来たかのようだった。  ロウチは寝台に横たわり、小さな目を雨の中に送り出す。それは、奇妙で心躍る経験となる。  小さな目は、見るだけだ。音も聞こえない。雨に濡れる様子もない。風に吹かれて押されることもない。  ただ稲光があって、時おり強く景色が浮かぶ。雲の中に稲妻が動き回っているのも分かる。  竜に誘われるのではなく、星も見えず、ほぼ暗い中を勝手に飛ぶのだ。自分で空を飛んでいるのとは違うだろうが、ロウチにとってそれは初めての経験であり、

          魔法物語 ロウチ5