斉藤詠一

小説家。2018年、『到達不能極』で第64回江戸川乱歩賞を受賞しデビューしました。 近…

斉藤詠一

小説家。2018年、『到達不能極』で第64回江戸川乱歩賞を受賞しデビューしました。 近刊は『パスファインダー・カイト』(ハルキ文庫)、『環境省武装機動隊EDRA』(実業之日本社)。 新作『俺が恋した千年少女』を「小説推理」(双葉社)で連載中。 日本推理作家協会会員。

マガジン

  • 『クメールの瞳』について

    2作目『クメールの瞳』関連記事のまとめです。

  • 『環境省武装機動隊EDRA』について

    5作目『環境省武装機動隊EDRA』関連記事のまとめです。

  • 『一千億のif』について

    4作目『一千億のif』関連記事のまとめです。

  • 『到達不能極』について

    デビュー作『到達不能極』についてのまとめです。

  • 『レーテーの大河』について

    3作目『レーテーの大河』関連記事のまとめです。

最近の記事

『パスファインダー・カイト』厨二病的着想のお話

5月の『環境省武装機動隊EDRA』、6月の『クメールの瞳』に続けて7月には『パスファインダー・カイト』と、まさかの3カ月連続刊行をいたしました。 (3カ月連続というのはたまたまタイミングが合っただけで、惑星直列みたいなものですが) じつはこの3作とも、環境問題をモチーフに組み込んだ物語になっています。 以前の記事(『環境省武装機動隊EDRA』環境テーマについてのお話)でもふれたように、僕はかつて自然保護NGOで働いており、いつか環境問題をテーマにした小説を書きたいと思ってい

    • 『クメールの瞳』着想のお話

      江戸川乱歩賞をいただいた後、僕は2作目の壁にぶつかり、「このまま乱歩賞史上初の一作で消えた作家になってしまうのでは」という未来予想図におびえていました。 そんな時、たまには普段と違うものを見てきたらと妻に促され、僕が訪れたのはそれまであまり馴染みのなかった東京国立博物館でした。 展示物を見て回っているうちに目に留まったのは、クメールの美術品。解説パネルには、『当館のクメール彫刻は、昭和19年、東南アジア文化の研究機関であったフランス極東学院との交換によって収蔵されたものです』

      • 『クメールの瞳』ハリウッド冒険映画の思い出のお話

        『クメールの瞳』は、カンボジアにあったクメール王朝の遺した秘宝をめぐる冒険ミステリーの物語である。執筆中は常に、1980年代から90年代に好んで観たハリウッドの冒険映画をイメージしていた。 ハラハラドキドキのアクションと、ほのかなロマンス。時折挟み込まれるクスリとする笑い。 「ハリウッド映画みたいな」という表現には、どことなく揶揄のニュアンスが含まれていることもある。それでも、たしかにあの頃、スクリーンの向こう側はキラキラと輝いていて、僕はその世界に胸を躍らせていた。 19

        • 『クメールの瞳』2作目の壁のお話

          3作目『レーテーの大河』以降、新刊の刊行にあわせてnoteに裏話を書くというペースでやってきたので、2作目『クメールの瞳』は裏話執筆のタイミングを逸していました。 (デビュー作『到達不能極』についてだけは、刊行時期とは関係なくデビュー時のあれこれを書いたもの) 今回、『クメールの瞳』文庫化ということで、ようやく裏話が書けます。 江戸川乱歩賞をいただき、『到達不能極』を刊行したのは2018年9月。 2作目『クメールの瞳』の単行本が刊行されたのは、それからじつに2年半後の、20

        『パスファインダー・カイト』厨二病的着想のお話

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          3本
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        記事

          『環境省武装機動隊EDRA』環境テーマについてのお話

          デビュー作以来、史実と絡めた歴史冒険もの(ミリタリー風味やや多め)を書いてきましたが、『環境省武装機動隊EDRA』ではそのテイストも残しつつ、環境問題をテーマに取り上げています。 じつは、『環境省武装機動隊EDRA』には原案ともいうべき作品がありました。2014年の第60回江戸川乱歩賞で二次通過した作品がそれです(※1)。 その作品の「近未来、環境破壊がもとで第三次世界大戦が勃発、生存の危機に瀕した人類にとって環境保護こそが最大の正義となる……」という大まかな背景設定は生か

          『環境省武装機動隊EDRA』環境テーマについてのお話

          『環境省武装機動隊EDRA』マニアックなネタのお話

          長編5作目『環境省武装機動隊EDRA』は、当社比でいちばんマニアックなネタ(特にミリタリー。ちょっぴり鉄道)を投入した作品になりました。 過去作をお読みいただいた方は薄々勘づいておられるかもしれませんが、僕はまあそれなりにマニアです。オタクといってもよい。 それにしてもオタクがこれほどまでに市民権を得る世の中が来るとは、30年くらい前は想像できませんでした。 思い起こせば高校生の頃、1991年1月17日。 席替えで、当時気になっていたコの前の席になりウハウハな日々を過ごしてい

          『環境省武装機動隊EDRA』マニアックなネタのお話

          『環境省武装機動隊EDRA』タイトルのお話

          2作目『クメールの瞳』以降、『レーテーの大河』、『一千億のif』と、タイトルは『●●の●●』というパターンだったのですが、ここにきて流れを切ることになりました。 (ちなみに、「の」の法則というのがあるそうですね。今まで意識してなかったけど) 『レーテーの大河』、『一千億のif』は、作中のキーワードを用い、読了後に「そういう意味だったのか」と思ってもらえるタイトルを意図したものです。 今作も初めはその線でタイトルを考えていて、候補の中にはまたしても「●●の●●」パターンのもの

          『環境省武装機動隊EDRA』タイトルのお話

          『一千億のif』取材のお話

          『一千億のif』は、亡くなった二人の大叔父から着想を得たということを前に書きました(『一千億のif』着想のお話)。  ※産経新聞のインタビューでも触れています→こちら そういうわけで第1話については、主人公たちが祖先の軍歴を調べる部分など、ほぼ実体験に基づいています。これは、小説のための取材というよりは、自分の祖先への義務感に駆られておこなったものでした。 そこから先、第2話以降は完全なるフィクションですが、やはり多少は過去の経験をもとにしており、改めて取材した部分もありま

          『一千億のif』取材のお話

          『一千億のif』と他作品とのつながりのお話

          以前、『お話とお話のつながりについてのお話』という、ちょっと何言ってるかわからないタイトルの記事にも書きましたが、違うお話の中に別のお話のキャラクターや設定が入ってくるのが好きです。 そういうわけで、新作『一千億のif』でも仕込みました。 まず、あらすじに名前が出ている主人公・坂堂雄基は南武大学という大学の三年生ですが、この南武大学、僕の過去作品『クメールの瞳』の主人公・平山北斗が在籍していた大学なのですね。学部は違うとはいえ、雄基は、北斗の後輩にあたるわけです。 ちなみに

          『一千億のif』と他作品とのつながりのお話

          『一千億のif』着想のお話

          おかげさまで4作目の長編となる『一千億のif』が刊行されました。 大学生の主人公が、曾祖父の遺品をきっかけに歴史の謎にせまっていくミステリ。祥伝社「小説NON」2022年7月号・8月号掲載の第1話「帰還」に、書下ろしの第2話~第4話を加えて単行本化したものです。 そもそもは祥伝社の担当氏から「連作短編書いてみませんか」というお話をいただいて始まった企画なんですが、書いているうちに全体を通しての謎の比重が大きくなり、ほとんど一繋がりの長編になってしまいました。 物語の、主人公

          『一千億のif』着想のお話

          『到達不能極』に到達するまでのお話④

          江戸川乱歩賞をいただくまでをまとめておこうと書きはじめた時は、2、3回で終わるかなと思っていたのに、ずるずると4回目。 そんなに細かいとこまで書かなくてもよかったかな?と反省しつつ、僕が投稿していた頃はこういう話を知りたかったからなあ、なんて思いもあるので、引き続き書きますね。はたして今回で終わるでしょうかーー。 江戸川乱歩賞3次予選の結果、僕の『到達不能極』を含む4作品が最終選考に進んだことが、2018年5月下旬に発売された「小説現代」6月号で発表されました。 講談社の編

          『到達不能極』に到達するまでのお話④

          『到達不能極』に到達するまでのお話③

          そうして2018年1月末、僕は南極を舞台にした冒険ミステリー『到達不能極』を第64回江戸川乱歩賞に投じました。 それまでの多くの投稿と同じように、会社へ行きがけにレターパックをポストに入れた記憶があります。 〆切りギリギリに郵便局の時間外窓口へ駆け込んだら、封筒の「応募原稿在中」の文字を見た係の方が、その日の消印を押したところを見せて「はい、たしかにお預かりしました」なんて微笑んでくれたことも昔あったのだけど、そういうちょっといい感じのエピソードはこの時はなかったと思います。

          『到達不能極』に到達するまでのお話③

          『到達不能極』に到達するまでのお話②

          江戸川乱歩賞に初めて応募した第60回では2次通過したものの、その後は2年連続で1次通過どまり。今度こそという望みと、まあダメだろうなあという諦めのあいだで揺れながら第63回に投稿した後の、2017年2月下旬。 万が一受賞するにせよ、また来年挑戦するにせよ、そろそろ次の作品の構想に取りかかる必要があるというのに、僕はうまいアイデアをなかなか思いつけずにいました。(※1) それよりも、自分ももう40代半ばだし、投稿もそろそろ潮時かもな、なんてネガティブな考えが頭をよぎったりして。

          『到達不能極』に到達するまでのお話②

          『到達不能極』に到達するまでのお話①

          江戸川乱歩賞をいただいた当時、いろんなところで聞かれたり書いたりしたのですが、デビューまでのお話を一応このnoteでもまとめておこうかなと。 僕が小説家を目指しはじめたのは1990年代、大学生の頃でした。(※1) 入っていた旅行サークルで、旅行記のようなものを書いたらわりと皆にウケて気を良くしたのと(今思えば本当にウケていたのだろうか)、迫りくる就職活動から逃げ出したいというモラトリアムで(こちらのほうが大きい)、文章を書いて食っていけたらいいなあ、なんてぼんやり思ってしま

          『到達不能極』に到達するまでのお話①

          お話とお話のつながりについてのお話

          ちょっと何言ってるか分からないタイトルですね。 昔から、お話の中に別のお話のキャラクターが登場してくるとすごく燃える性質です。 ウルトラマンAのピンチに他のウルトラ兄弟があらわれたり、銀河鉄道999の鉄郎を助けるためにキャプテンハーロックやクイーン・エメラルダスが駆けつけたり、ドラえもんでのび太が夢中になっているアイドルがパーマンに出てくる星野スミレだったり。 小説でも、伊坂幸太郎さんの作品などは「この人、他のお話にも出てきたな」ということがあり、気づくとちょっと嬉しくなり

          お話とお話のつながりについてのお話

          『レーテーの大河』取材のお話

          トップの画像は物語と直接関係ありませんが、参考にするため訪れたある駅で撮影したものです。闇の奥になにがひそむのか。 取材といっても、正直なところそれほどのことはしていません。 鉄道のシーンの現地を確認しに行ったくらいです。 ネタバレにならないよう具体的な路線名や駅名は控えますけど、こんなとことか。 時刻表をみれば、列車がある区間を走行するのにどのくらいの時間がかかるかはわかりますが、登場人物の会話が周囲の状況にあわせて成り立つかまではわかりません。実際に乗って確かめるのが

          『レーテーの大河』取材のお話