『パスファインダー・カイト』厨二病的着想のお話
5月の『環境省武装機動隊EDRA』、6月の『クメールの瞳』に続けて7月には『パスファインダー・カイト』と、まさかの3カ月連続刊行をいたしました。
(3カ月連続というのはたまたまタイミングが合っただけで、惑星直列みたいなものですが)
じつはこの3作とも、環境問題をモチーフに組み込んだ物語になっています。
以前の記事(『環境省武装機動隊EDRA』環境テーマについてのお話)でもふれたように、僕はかつて自然保護NGOで働いており、いつか環境問題をテーマにした小説を書きたいと思っていました。
NGOで仕事をしていた二十代から三十代にかけて経験したことや考えていたことをもとに、エンタテインメントとして楽しんでもらいつつ、自然保護についても知ってもらえるような物語。それが、ここに来て実現したわけです。
『環境省武装機動隊EDRA』では、人類が環境問題に大した手を打たないまま温暖化が進み、海面が上昇してしまったディストピア的な世界を描きました。
『クメールの瞳』は既刊の文庫化ですが、主人公はネイチャーカメラマンで、自然保護NGOとも付き合いがあるという設定。
そして、それらとはまた別のアプローチをとったのが、『パスファインダー・カイト』です。
今作は、初の文庫書き下ろしということでオファーをいただきました。
ラストには明確に「つづく」と記載していませんが、かなりの数の伏線が未回収であり、シリーズを前提とした構成になっています(1冊で完結だと思って読んでくださった方、すみません)。
文庫シリーズということで、これまでの作品に比べるといくぶん気楽に、さらっと読めるようにしたつもりです。そのために、主人公をちょっとヒーロー的な造形にしています。
構想段階で編集者さんと話していた物語の枠組みは、
・主人公は特別な能力で毎回謎を解決していくのだけれど、普段そのことは隠している
・そのことでの周囲とのギャップを描写する
というものでした。
変身こそしませんが、スーパーマンとかウルトラマンみたいなヒーローものの王道ですね。
それに、環境問題をモチーフにしたいという思いをどう絡めるか。僕は考えました。
中学生くらいの時、教室に乱入してきたテロリストと戦う……みたいなことをよく妄想していました。
まあ典型的な厨二病でして、たぶん中学生男子の八割くらいが一度は考えたことがあるのではと思いますけど(根拠はない)、その際、テロリストと戦ったことで褒め称えられるよりも、それを隠してたら格好いいな……と突っ込んだ設定まで考えていたものです。
その凝った妄想は、高校に進んでからも大学時代も社会人になってからもアップデートしつつ続きました。常に僕は学校や会社にテロリストが乱入してくることを夢見ていたわけで、某NGOにいた頃もそうでした。当時の同僚には申し訳ないですが。
で、今作の構想を固めていくにあたり、僕はその頃の妄想を思い出したのです。なんだ、もう設定はできてたじゃないかと。
自然保護NGOに就職した主人公。とある過去を背負った彼は、秘密の任務を帯びている。そのことは、誰にも言うわけにはいかない。同僚たちと環境に関わる仕事にあたっていく中で、バレないように任務を遂行していく。その任務とは……。
もちろん作中の「月読記念財団」と、僕の元勤務先にはなんら関係はありませんし、登場人物に誰か特定のモデルがいるわけではありません。
本には、この物語はフィクションです、という例のひとことがないので、ここで念のため。