見出し画像

優しい憂鬱

雨の日は泣きたくなる
どんよりとした重たい雲が
幾重にも重なり
太陽は消えてしまったのかと思うくらい
暗く深く黒くしんどい
 
そんな時いつも君は言う
その涙もいつか虹に変わる
 
彼女と出会ってから
幾度と降る雨の日
今日も朝から雨で
僕の目にも雨が滴る
 
挽きたてのコーヒーは彼女のこだわり
インディゴブルーのマグカップに注ぐ
雨の日は湿度でより濃い香りが部屋中を駆け巡り
雨に滴る僕を魅了する
 
さっきまでしとしと降っていた雨は
ザーザーと音を立てて泣く
僕と一緒だ
 
雨の音は僕の時間を止める
君の静かで落ち着いた声は
時を進めてくれる
コーヒーの香りは過去と未来を繋ぎ
君はいつもそばにいる
 
雨はいつも別れの予感を運んでくるけど
君といると別れは始まりになる
雨は憂鬱の色に染まっているけど
君といると憂鬱は優しい色になる
 
ゆっくりとソファーに並んで座る
あたたかいコーヒーを飲みながら
雨の絵をかいて君を見つめる
 
雨の日は泣きたくなるけれど
どんよりとした重たい空気は
コーヒーの香りと重なり
君は僕の太陽なのかと思うくらい
軽く美しく優しく微笑む
 
憂鬱さえ優しい
 
 
 


解説

主人公

画家を目指す21歳。優雨(ゆう)。
生まれた日が雨だったが
雨でさえも誕生を祝福していたように感じたので
優しい雨と書いて優雨(ゆう)と名付けられた
絵をかくこと以外に興味はなく
友人もいない

好きなことは
絵をかくことと
コーヒーを飲むこと

雨の日は憂鬱で
雨が降るたび近くの喫茶店に行く
雨の日のコーヒーは香りが濃くて
あたたかい淹れたてのコーヒーで
心と涙を満たす

出会い

半年くらい前、大学の帰り道
インディゴブルーの絵具が欲しくていろんなお店を巡っていた
自分の思った通りの絵具が見つかって僕は急いでお店を出た
今日は一日太陽が僕を応援してくれていたんだ
調子が良くて絵を描き上げることに集中できた
今日は本当に気分がいい
スキップをしたい気持ちを抑えて町並みを歩く

いつも下を見て歩いているから気づかなかったけど
路地裏に喫茶店を見つけた
気付けばコーヒーを頼んでいた

道路側の窓際。
少しだけ夕日が入ってレトロな雰囲気とジャズが更に僕の気分を上げてくれる
渋いおじさんが淹れてくれたコーヒーは香りが際立っていた

そろそろ帰ろうとしたとき、突然の豪雨となった
強い雨は嫌いだ
雨に対抗するように自然と涙が流れた

雨はすぐに止んだ
僕はすぐに席を立った
バイトのお姉さんが心配そうに見つめている
僕はニコッとした
普段は人にそんなことはしないのだけど
なぜかあの人には自然と笑みがこぼれた

それから僕は雨の日には通うようになった

きっかけ


今日は画材の買い出しに来ていた
いつものインディゴブルーの絵具がどこにもなくて途方に暮れていた
そんな時急な豪雨となった
僕は不安になってしまった、今日は雨模様じゃなかったのに。傘も持っていない。
強く降る雨は嫌いだ
家まで距離がある、僕はいつもの喫茶店へ走る

「今日は都合により17時で閉店とさせていただきます、またのお越しをお待ちしております」
時計を見る
17:15
僕はまた途方に暮れた

意図せず涙が出ていた
これは雨のせいだ

「すみません。今日は都合で17時までだった・・ん・・・です・・・」
バイトの女の子が走ってきた
僕を見て驚いてはいるが、いつものことだから彼女はニコッと笑っていた

「うちで、コーヒー飲みますか?」
僕は泣きながらうなずいていた

それから僕は自然と彼女の家にいることが多くなり
”付き合う”ということになった

彼女

彼女は二つ上で夢がなくて喫茶店で働いている
彼女はいつだって朗らかで穏やかで
太陽のようにあたたかい
名前は陽(よう)
無機質に見えるけど面倒見がよくて
コーヒーを淹れるのが上手だ
僕とは真反対で僕の子供っぽいところも全て受け入れてくれる
そんな陽が大好きだ


憂鬱とのたたかい

僕は雨が降ると憂鬱な気持ちになる
どこからも逃げられなくなるような
静かで孤独な憂鬱とたたかっている

雨は僕の時間を止める
何時間も何十時間も
だけど彼女がいれば
優しい雨に感じる

彼女の淹れるコーヒーがあれば
僕の過去も未来も手を握っている
君は僕の太陽なのかと思うくらい
軽く美しく優しく微笑んで
僕の憂鬱さえも優しくしてくれる

この時間が何よりも大切だ

違う角度から楽しむ

こちらは彼女バージョンのお話です
彼氏バージョンはこちらからどうぞ^^
また違った角度から見る同じ話は
より深く世界に浸れます


儚く/美しく/繊細で/生きる/葛藤/幻想的で/勇敢な 詩や物語を作る糧となります