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詩 『氷の道標』

作:悠冴紀

蒼白い雪を被った鋭い針葉樹林を
私は手探りで駆けていく

どこから来たのか
どこに向かっていたのか
時折わからなくなる自分がいる

今はそれでも
走るほかない


凍てついた樹海の奥から
狼たちの遠吠えが聞こえてくる

あれは血に飢えた冬の捕食者
かつての私に 似た奴らだ

目印もない雪原の中
私には君だけが道標みちしるべだった

君の雪山に語りかけ
木霊こだまする声の反響で
己の立ち位置を知ることができた

身動きできない君に代わって
私は大地を駆け回り
この目で捉えた世界を伝えた

黄金色に暮れていく
縹渺ひょうびょうとした冬空に
君と歩んだ月日を重ね見る

粉々に舞い散る
冷厳とした氷雪ひょうせつ
君からのいましめを顧みる

あれが友情でなく信頼でもなかったなら
私たちの関係は一体何だったのか……


君が先だったか
私が先だったか
霧に閉ざされた大気の中
どちらかが視力を失って以来
足を引っ張り合うだけの関係に堕ちてしまった

私は君にとって何だったのか……
もはや私には知る手だてもない



確かなのは 一つだけ
四半世紀もの間
君は私の道標だった

君に代わる存在など
後にも先に見出せはしない

君は今も道標
私たちは二人とも
樹海を彷徨う氷の孤児みなしご



せめて二人の軌跡だけは汚れぬよう
私は君との記憶を凍結した

氷の木々から樹液を搾り
琥珀こはくのごとく固めて埋めた

地中深くに掘った穴で
君の欠片かけらを留めていく

溶けない氷をそのままに
褪せることない記憶の中で ──



**********


※2013年(当時36歳)の2月に書いた一作。

作中の「君」というのは、以前UPした詩作品天狼~ハティシベリアの狼私の中のラグナロク等に登場してくる「君」や「貴女」と同じ人物、幼馴染の親友Sのことです。一見失恋の詩のように見えるかもしれませんが、これも友達関係の作品です。


この親友のことを書いた作品は、これからもまだまだ無数に登場してきますので、辛抱強くお付き合いください 。何しろ私にとっては、これまで出会った中で最も影響力の強かった人物 ─── 私を文学の道へと導いた人物ですから。


※ちなみに、下の曲↓は、私がこの詩を書くときに聴いていた曲です。イチオシのシンガー・ソングライター Casey Strattonケイシー・ストラットンの「Midwinter」。皆さんも是非BGMにどうぞ▼

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注)シェア・拡散は歓迎します。ただし、この作品を一部でも引用・転載する場合は、必ず「詩『氷の道標』(悠冴紀作)より」といった具合に明記するか、リンクを貼るなどして、作者が私であることがわかるようにしてください。自分の作品であるかのように配信・公開するのは、著作権の侵害に当たります!

※プロフィール代わりの記事はこちら▼


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📓 詩集A(十代の頃の旧い作品群)
📓 詩集B(二十代の頃の作品群)
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