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詩 『オーロラの宿る場所 』

作:悠冴紀

傷を秘めてきた君に
贈りたいものがある

心の一端を見せてくれたお礼に
オーロラを贈ろう

そう、夜の終わりを告げる
あの謎めいた曙の光だ

虹ほど馴染みやすくはないけれど
恐れる必要は少しもない

あれは空の贈り物
そして夜を耐えた者の中に
色彩豊かに宿るもの

冬が過ぎても 見ることはできる
君が自身の力を信じ
心の空を照らし出せば

私は彩り方を教えよう
言葉ではなく 在り方で
それが私にできる 唯一の贈り物


ずいぶんひどいものを見てきたんだね
君の身にそんなことがあったとは

けれど もう大丈夫
君の見た暗闇は 後ろに置いてきたもの
過去はここまで追いつけない

私の隣にいるといい

ここは四季を味方につけ
オーロラを絶やさぬ特異な場所
夜でも朝でもない貴重な景色が
望めばいつでも見られるんだ

胸を張って 声を大きく保ち
突き飛ばすように笑うといい
君を煩わすものが皆逃げていく

これが私の見いだした術
経験上最良のやり方なんだ


君が今は 笑っていて良かった
もう大丈夫だと 見ていればわかる
歳を重ねるのも 悪くはない

これからは 色んな場所に旅をしに行こう
まだ見ぬものを見て
互いの知らないものを伝え合い
心の向くまま どこへでも

君はもう大丈夫

オーロラのカーテンは 朝の幕開け
同じ夜は二度と来ない


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※2014年5月(当時37歳)の作品。

 この作品は、副業で知り合った友人の一人から、過去に、集団狂気の域にまで陥っていたブラック企業(←単に労働時間が長いとか、安給料で馬車馬のように働かされるとかいうだけでなく、会社の実態を他言すれば殺すとか、住まいや家族の情報はすべて握っているんだぞと脅しをかけたり、社員同士で監視し合わせ、密告させたりするレベルの異常な会社組織だった)と関わり合ってしまった壮絶体験を聞いた日に閃いた詩です。

 人の世では、そこここに罠や落とし穴があるもの。2012年刊行の私の作品PHASE(フェーズ)の中でもチラと書いていますが、「自分は普通に表の世界を暮らしてきた真っ当な人間なのだから、自分に限ってそんなひどい目には絶対にあわない、そこまで怪しげな連中と関わり合うことなど有り得ない」などという安全神話は、幻想なのです。表社会も裏社会も、物理的には同じ世界に属するもの。不可視で不明瞭な境界線のためにそれと気付いていないだけで、遠い世界の他人事と思っていた「あちら側」の問題は、実はすでに目の前にあって、日常の中で知らず知らずすれ違っていたり、接触したりしているものなのです。

 一寸先は闇。そんな危うい現実を、早い時期に身を持って体験したことを、勇気を出して打ち明けてくれた友人のために、私はこの詩を作りました。

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注)シェア・拡散は歓迎します。ただし、この作品を一部でも引用・転載する場合は、「詩『オーロラの宿る場所』(悠冴紀作)より」といった具合に明記するか、リンクを貼るなどして、作者が私であることがわかるようにしてください。自分の作品であるかのように配信・公開するのは、著作権の侵害に当たります!

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(本作も収録されています)

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