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役に立たない45歳からのベトナムひとり旅

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まったく旅慣れていない中年男が、2週間ひとりでベトナムを旅行するとどうなるのか、という実験レポ的旅行記。
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出発前

出発前

初めての海外旅行は23年前。バブル絶頂期の1991年だ。

大学の友人HとTと3人で1ヵ月半、中国に行った。中国の最南端である海南島の三亜を目的地とした。目的地はあるけれど目的はなく、時間はあるけれどお金はない旅行だった。よく歩き、よく食べた。計画は他の2人が立て、それに「ついて行く」だけの旅行だったけれど、十分楽しかった。その証拠に、翌年も同じメンバーで1ヵ月半、今度は中国北部の内モンゴル自治区

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ルール&ルート

ルール&ルート

(←Vol.00を思い出す)

ひとり旅は、短歌に似ている。(言い忘れていたけれど、僕は「猫歌人」と名乗って短歌を作っている)

限られた中で、自分なりのルールを(意識的であれ、無意識的であれ)設定していく手探りな感じがそっくりだ。どんなルールを設定しても、誰にも文句は言われない。途中でルールを変えてもかまわない。結果として、どんなものになるのか、わかるようなわからないような感じも似ている。

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ボラーレ・ホーチミン!

ボラーレ・ホーチミン!

※「ボラーレ」はイタリア語で「飛ぶ」の意味。

(←Vol.01を思い出す)

2014.4.7出発の日の朝は、とまどっていた。

ホーチミンへは17:25成田空港発ANAの便で飛ぶことになっていた。ネットで予約して、もろもろできる手続きはすべて事前に済ませたはずだ。はずだけれど、何時までに空港へ行けばいいのかよくわからない。ANAのサイト(写真参照)を確認するも、「オンラインチェックイン」と「オ

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長く歩く渇く

長く歩く渇く

(←Vol.02を思い出す)

2014.4.89:00にホテルをチェックアウト。明晩乗る寝台列車ゴールデントレインズの切符を取るため、サイゴン駅へ向かった。Googleマップで調べると、「2.7km(徒歩33分)」とある。ほうほう、割と近いではないか。
……が、しばらく歩いたあと、観測隊として南極に行った友人の言葉を思い出していた。

「吹雪いているときは、ほんの数メートル先の棟に行く渡り廊下で

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For PHO

For PHO

(←Vol.03を思い出す)

2014.4.8(続き)目覚めたら、17時だった。晩御飯を食べに行かねば。ロビーへ行くと、さっきの気のいいベルボーイが話しかけてくれた。

「明日はどこに行くの?」
「汽車でニャチャンに行くんだ。あ、汽車のチケットって、このホテルで手配できたりする?」
「(少し考えて)ニャチャンに行くならバスにすれば? 明日の夜に出て、バスで眠っていれば、翌朝6時には着くよ」
「ち

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街とドラえもん

街とドラえもん

(←Vol.04を思い出す)

2014.4.9朝食は優雅にホテルでいただいた。きのう散々歩いたので、きょうは少し学習をして、行きたい店や場所を前もってGoogleマップ上に保存しておいた(これ、いい方法なのだけれど、保存した地点にメモなどを付記できるともっと使い勝手がよくなるのに。実はできるのだろうか)。

気のいいベルボーイによると、今晩19:30にこのホテルのロビーに来れば、明日の朝にはニャ

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雨月物語 in Nha trang

雨月物語 in Nha trang

(←Vol.05を思い出す)

2014.4.9〜4.10ロビーに入ってきた女性が、ベルボーイに話しかけている。しばらく談笑した後、ベルボーイが僕に言った。

「彼女についていって」

別れ際、ベルボーイに「親身になって相談に乗ってくれて本当にありがとう」の意味を込めて、何度も「サンキュー」と言った。何度もくり返す以外に「サンキュー」より上の「ありがとう」を伝えるすべがなかった。「帰りもこのホテル

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一度出会ったから大丈夫

一度出会ったから大丈夫

(←Vol.06を思い出す)

2014.4.10ニャチャン駅の簡易トイレで、人生で2回目となる、なかなかの精神的ダメージを負いながらも、実はまだこの時点で朝の7時30分。ホテルのチェックインまでまだ5時間もある。不安定なお腹を抱える身としては、果てしなく遠い。まずは、ダナン行きのチケットの確保だ。ニャチャン駅のチケット売り場に行く。チケットを取るときには、必要事項を紙に書いて渡すのが一番手っ取り

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TommyとMassage

TommyとMassage

(←Vol.07を思い出す)

2014.04.11(続き)朝食後、Tommyさんが「近くの市場に行ってみませんか?」と誘ってくれた。「市場に行くなら、魚や野菜が届いたばかりの早朝に限る」と、すぐにホテルを出た。

ホーチミンで立ち寄ったベンタイン市場とは、全然違う小さな小さな、生活のための市場だ。
市場は、活気があって、飾り気がなくて楽しい。食に対する欲がむき出しなのが、心地よいのかもしれない。

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It is my first kiss CHE

It is my first kiss CHE

(←Vol.08を思い出す)

2014.04.11(続き)列車内は快適だった。
2段ベッドの上段だと、窓から風景が見づらいのが難点といえば難点。都市と都市の間にも、町がある。車窓を流れるのどかな田園風景の中で暮らしている人もいる。日本に帰れば、自分だって海外からの観光客などほとんど見かけない町で暮らしているくせに、そんな当たり前のことに気づく。この辺でふわっと降りて食堂なんかに入ると、みんなに珍

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千と千尋のホイアン

千と千尋のホイアン

(←Vol.09を思い出す)

2014.04.12(続き)ダナンは、大理石の産地らしく、ハン川という川沿いに大理石像がいっぱい並んでいた。……と、いきなり滑稽な写真でお茶を濁しているのは、ダナンは本当に通過程度で、何もしていないからだ。

ふと目を上げると、黄金の龍をかたどった橋がある。夜になると、ライトアップされ、週に2回くらい火を噴くらしい。橋が火を……。無駄にでかくて、馬鹿馬鹿しくて、いい

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ランタンの向こう側

ランタンの向こう側

(←Vol.10を思い出す)

2014.04.13自転車を借りて、ビーチに行くつもりだったが、直前で億劫になりホテルの送迎ワゴンに乗ることにした。同乗者は、みな比較的若い欧米人だった。

10分ほどで到着したビーチにいたのも、ほぼ全員欧米人だ。ホイアンにいると、どこに来ているのか、ちょっと分からなくなる。送迎ワゴンは、14時30分に同じ場所に迎えに来てくれるらしい。

さて。
海には来たものの、

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試される

試される

(←Vol.11を思い出す)

2014.4.146:00に起きて、散歩に出た。
朝の市場に行ってみたかったからだ。朝の市場は、ガッツがあって圧倒される。色も音も匂いもダイレクトで、日本ではあまり出会わない種類のものだ。しばらく歩いていると、てらいのない生々しさに当てられて、頭がぼぉっとしてくる。これを「市場酔い」と名付ける。

そのまま朝食を食べに行く。フォー屋さん。フォーしかないので、座ってし

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日本人の墓

日本人の墓

(←vol.12を思い出す)

2014.4.14(続き)日本は、老いている。

靴にも、服にも、髪型にも、まるで頓着がない。「頓着がない」と書くと、鷹揚に構えていてよいことみたいだが、つまりは怠惰なのだ。アンテナを伸ばすことを面倒くさがっている間に、45歳になってしまった。

そんな僕でも靴屋では足元に、服屋では着ているものに意識の焦点が合うし、床屋では否応なく髪型が気になる。「場」によって強制

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