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For PHO

←Vol.03を思い出す

2014.4.8(続き)

目覚めたら、17時だった。晩御飯を食べに行かねば。ロビーへ行くと、さっきの気のいいベルボーイが話しかけてくれた。

「明日はどこに行くの?」
「汽車でニャチャンに行くんだ。あ、汽車のチケットって、このホテルで手配できたりする?」
「(少し考えて)ニャチャンに行くならバスにすれば? 明日の夜に出て、バスで眠っていれば、翌朝6時には着くよ」
「ちなみにバスだといくら?」
「ちょっと待ってて」
デスクから資料を取り出して調べたあと「35万ドン。それ以外一切お金はかからないよ」と、笑顔で教えてくれた。
(いい人が言うことには乗っとけ!)と、ほぼ勢いで「じゃあ、そうするよ」と答えた。たぶん「それでも汽車で行く」と言い張るのが、億劫だったのだ。
「明日19:30に、このロビーに来て」
ベルボーイが、バスのチケットを渡しながら言った。
(俺ひとりのために、ホテルまでバスが来てくれるのか?)
訝しみながらも「OK!」と答えてホテルを出た。

我ながらフレキシブルすぎる。
この提案に乗ったことで、後々えらい目に遭うのだけれど、それはベルボーイのせいではないし、僕のせいでもない。


ここまで書いて改めて驚くのは、ベトナム語はまるで話せず、英語も片言しか話せなくても、上のようなやりとりが成り立つことだ。聞き手がちゃんと聞こうとしてくれれば、意外と通じるものなのだ。

ここまで食事についてまったく書いていない。旅行のルールとして、「【4】1日3食、必ず食べる」と掲げているにも関わらず、だ。実は、この時点までに食べたものは、朝食として、イートインのパン屋さんで食べたチョコガナッシュ、フランクドーナツ、ダークチョコマフィン、オレンジジュースだけ。昼食は抜いた。

なんだこりゃ! 全然ベトナムじゃない! 渋沢(自宅の最寄り駅)の「HOKUO」で食べられる! もちろん「【5】1日1チェー(ベトナムのスイーツ)」だって守れていない。旨そうな食堂はいくらでもある。チェーも結構見かけた。ただ単に気後れして、どの店にも上手く入れなかったのだ。

「言葉のわからない外国人など、面倒くさい客だろう」という面倒くさい自意識。45歳の僕は、旅の恥すらかき捨てられない。誰にかっこつけようとしているのだろう。不自由だ。

とにかくベトナムの食べ物を食べないことには、旅行が始まった気がしない。ひと眠りして、気持ちも新たになったところで、繁華街ドンコイ通りに繰り出す。約1時間、行ったり来たりして、意を決して入ったのは「PHO24」(フォー24)というフォー(麺料理)のファストフード店的な店。店の前にメニューの看板があり、写真も値段も示してある。セットメニューなんかもある。システマチックで無機質な雰囲気にほっとさせられる。メニューを指さして「フォーボー(牛肉入りフォー)」と「お茶」のセットを頼む。

まず、お茶と皿に盛られた植物がテーブルに置かれた。こ、これは……なんだろう? 作法が分からない……。周りを観察すると、どうやら植物はちぎってフォーに入れるようだ。なるほど。

ほどなくしてフォーがやってきた。2日目の夜にしてようやく(ややインチキくさいが)ベトナムっぽい食べ物だ。

他の人たちのまねをして、葉っぱを枝からちぎって、どんぶりに放り込む。続けてもやしを投入。ライムも絞って、あとこの赤いのはなんだろう? よくわからないが全部放り込む(こういうとき、確かめもせず全部入れてしまうクセが抜けない)。汁をひと口すする。あ、これ旨い。あっさりしているけれど、いい出汁の味がする。なにこれ、とても繊細でちゃんとしてる! 牛肉は、今ひとつな気がするけれど、あんまり気にならない。なるほど、こんなファストフードっぽい店でこのレベルか……。ベトナム、旨いかも。ただ、食べているうちにちょっと我慢できないほど、唇がひりついてきた。辛いというか、熱い。たぶん赤いのが犯人と思われる。フォーを食べる際には、赤いのの入れ過ぎに注意!

全然関係ないけれど、この後に滞在したホイアンで、眞鍋かをり著『世界をひとりで歩いてみた 女30にして旅に目覚める(電子書籍版)』(祥伝社)を読んだ。タンソンニャット空港からタクシーでぼられて、ベトナム最初の食事がドンコイ通りの「PHO24」というところまで僕と同じだったことに驚愕。眞鍋さんはタクシーで日本円にして5,000円くらい払ったらしく、自分のほうが傷が浅かったことに慰められた。眞鍋さんに感謝。

ようやくベトナム気分が盛り上がり始めたところで、「は! ベトナムといえば……」と思い立ち、買って帰った。

「333(バーバーバー)ビール」! それと、未知の飲み物にとても興味がわく性質(ジュースの新製品などは積極的に購入して、失敗するタイプ)なので、見たこともないミリンダ(SARSI……って何?)を買ってみた。

333ビールは、普通のビール。そもそもビールの味の違いはよくわからない。ミリンダは、どうしよう、うまく形容ができない。甘くて、不味いけれど、飲み慣れたらくせになりそうな味。くせになる前に、もう飲まないが。

あしたは夜までホーチミン市内を散策(というか流浪)して、バス車中泊でニャチャンへ移動。調べたところによると、ニャチャンはビーチリゾートの街。海なんて、何年ぶりだろう。次の汽車移動に備えて、ニャチャン駅からほど近い格安のホテルを予約して、眠った。

Vol.05に続く→


そんなそんな。