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リアル書店だけの遭遇に固定観念バキバキに砕かれた話

ジュンク堂書店の池袋本店が好きです。

地下一階から九階まで、建物全体がひとつの店舗という規模の大きさに加えて、品揃えも多種多様で本当に重宝しています。

私で言えば雑誌『週刊プロレス』を確実に手に入れたい時を筆頭に、欲しい本が決まっているなら、ここに来ればほぼ間違いなく手に入る。
そして欲しい本が特に無くても、気になるジャンルの棚をなんとなく眺めるだけで、新たに好奇心をくすぐられる一冊に出会えたりする。

だけど先日は、また少し違う感銘に出会えました。
今回はその話。



恋人と一緒に行くとだいたい3階の文芸フロアを眺めるので、一人だと欲しい本が決まっている時以外は、他のフロアに行くことが多いです。
5階のビジネス書エリア、4階の人文書エリア、2階のライフスタイルエリアとプロレス本エリアと料理本エリア、そして1階の新刊コーナー。
時間的余裕の度合いによって、どこを眺めるかを決めています。

その日は欲しい本が決まっていたので3階に直行して、目的の単行本を発見しました。

ジュンク堂書店池袋本店のレジは1階にあって、どこのフロアに置いてある本でも、お会計は1階でまとめて行う必要があります。
そこで真っ直ぐ1階のレジに向かっても良かったのだけど、エスカレーターを降りている時にスマホで時刻を確認したら待ち合わせまでまだ余裕があったので、2階のライフスタイルエリアを見に行くことにしました。

前述した通り2階にはプロレス本エリアがあって、スポーツ全般の書籍を扱っているフロアでもあります。
その日通りかかった2階エスカレーター横の大きな平台は、スポーツ全般に興味のない私でもすぐにピンとくるぐらい、北京五輪関連の書籍一色でした。

興味がないから足を止める理由もないです。
ただこの日だけは違いました。

完全に偶然、視界に入った一冊の本に目を奪われました。
厳密に言えば、視界に入った一冊の本の「書名」に。



織田信成さんのことは存じているものの、織田さんに限らずフィギュアスケートというスポーツを観たことは全く無く、ルールなどに関する知識もいっさい無い。
だからこそ、の衝撃だったかもしれません。

「”生き様”を観る」

この表現はまさに、プロレス観戦に対する私の価値観と一致するものです。



といっても正直に言えば、自分の中から紡ぎ出したものではありません。
映画『パパはわるものチャンピオン』で、仲里依紗さん演じるプロレス好きの編集者が発した言葉です。

この映画をきっかけにプロレスという世界を知った影響もあり、私のプロレス観戦における視点は、一般的な人よりもメタ寄りだと思います。
好きな理由を述べることが、語る必要のないことを言語化する行為に直結する。だから言葉を尽くさずとも伝わる相手の前以外では、多くを語らないようにしています。
(ひとえに私の言語化能力の無さに起因する話とも言えるけれど)

そういう経緯もあって、しっかり選手たちの名前も覚えた上で、ちゃんと気持ちを入れて観れた二度目の視聴時。
「プロレスは生き様なんです!!!」
の一言に、どうしようもなく胸を打たれました。

端的で、簡潔で、そして明快。
形無く曖昧に漂っていた感情が、最適な言葉によって居場所を得た。そんな貴重な感銘でした。

それ以来「選手の生き様を観る」は、プロレス観戦における最優先したい価値観として胸に据えられています。



フィギュアスケートは全く詳しくない。
なのに店頭で織田さんの本のタイトルを見た瞬間、自分の内側に湛えているプロレスへの感情と熱量が連想されたと同時に、偶然ならではのドラマティックな相似をもって一気に興味が湧いてしまいました。
それほどの言葉で表現されるスポーツなら、その世界を覗いてみたい。

迷わず手にとって、そのまま1階のレジへ向かいました。



再び乗ったエスカレーターで。
もしかしたら、と考えたこと。

「もし今日このタイミングでここに来なかったら、一生手に取ることのない本だったかもしれない」

北京五輪の期間だからこその平台展開と、私自身の気まぐれの両方が作用した結果の出会いです。
これまでフィギュアスケートを詳しく知らなかった以上、ウェブで検索したことだって一度も無い。この飛躍と連想は、ネット書店が表示できる「あなたへのおすすめ」では決して到達できない境地とも言えます。

理解していたつもりだったけれど。
改めて、リアル書店の「場」だけが持ち得る偶然性と、そこに飛び込むことがいかに重要かを思い知りました。

それらを全部含めた「場」ならではの力は、必ずしも大規模な書店だけのものとは限りません。
劇的な「運命の一冊」が出会いの時を待っているとしても、50冊の中に紛れているのと500冊の中に紛れているのとでは、見つけられる確率はだいぶ変わってきます。
大規模書店の利点は冒頭に書いたとおりですが、それとは別に自分サイズの「推し書店」をいくつか持っておくことが、そうした切り口で新しい世界の扉を開くきっかけになったりもするのです。

自宅で欲しいものを注文できる。
そんな利便性が身近にあるのと同時に、物理的距離を保つことを推奨されるややこしい時代だけど。
こういうこともあるのだから、私はきっとこれからも本屋さんに行くことはやめないんだろうな、とつくづく感じる次第です。




おまけ。

織田信成さんの本、だいぶ読み進めてそろそろ読了するところです。胸打たれたりドキリとさせられたり、かなり面白い。
その道のプロフェッショナルが本一冊分の言葉を尽くして徹底解説してくれているのだから面白くないわけがないよなぁ……という、書籍ならではの魅力の原点に立ち返った一冊です。

と同時に、最近は↓の動画を繰り返し観ています。

重力が存在しないみたい…。
織田さんは羽生選手のスケートを「舞う」と表現していましたが、本当にその表現がぴったり。ひとつひとつの所作が優美そのもの。

せっかくこうして知るきっかけを得た世界なので、少しずつでも潜ってみたいです。公式動画としてYouTubeで観られるのもいい時代だ。




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