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2021年後半に読んだ中で心に残った本11冊

こんにちは。
半年のタイムラグを経たものの、先日「前半」の10冊を書いたので、気持ちをリセットして「後半」で心に残った本をピックアップしてみました。

半年ごとのまとめ記事を書く時は、ずっと「10冊+おまけ」というスタンスでいたんですが、今回はどうしても切り捨てる事が難しく…。
そのため開き直って「11冊」にしました。
いいんです綺麗な数字の並びだし。

9月ぐらいからPS2のゲーム『ペルソナ3フェス』と『ペルソナ4』にハマってずっとプレイしていたので、下半期の読了冊数はいつもより少なめの52冊ですが。
それでも絞り込むのに難儀するぐらい、魅力的な本に出会えたのがうれしいです。

以下すべて読了順に並んでいます。
ネタバレだと感じられる表現もあるかと思われますのでご注意ください。



① 死神の精度

伊坂幸太郎/文春文庫
6月末にハリイ・ケメルマン『九マイルは遠すぎる』(ハヤカワ文庫)を再読したんですよ。いわゆる安楽椅子探偵モノと呼ばれるミステリーの傑作短編集です。
で、そこからの連想で無性に本書を再読したくなり、一気読みしてやっぱり面白かった!と大満足できた一冊でした。
「死神」という特異な存在を軸に、精確で美しい論理的帰結を堪能できる連作短編集。小難しい言い方をしてますが、伊坂さんならではの伏線回収の妙も含めて、それらを見事に成立させているところが素晴らしいのです。
伊坂さんの小説で特に好きなものを聞かれたら、本書か『チルドレン』(講談社文庫)か『逆ソクラテス』(集英社)のどれを挙げるかで真剣に悩む。それぐらい好き。
それにしても何度見ても美しい書名だと思います。装丁の良さも相まって、本棚に入れっぱなしにしておくのは勿体ないぐらい。



② 十角館の殺人

綾辻行人/講談社文庫
昔眺めた母の本棚で見かけた気がするんですよねこの文庫本…。でもずっと読む機会は無くて、恋人とこの小説の話になった事をきっかけに手に取ってみました。
そして衝撃を受けた。
初読の経験なんてものは生涯一度だけなので、余計なことは言わないに限ります。あの一行の凄さを、読んだ人同士でこっそり分かち合いましょう。



③ 絵と言葉の一研究 「わかりやすい」デザインを考える

寄藤文平/美術出版社
複雑なことを分かりやすく説明する能力って、一般的には善きこととして語られがちだと思うんですが、そこに異を唱えるという着眼点がとても新鮮だった一冊です。絵を生業とする著者ならではの視点で述べる「わかる」と「わかりやすさ」の違いとか。
感銘の言語化は少なからず解像度を落としてしまうという自覚と、複雑なものを複雑なまま、曖昧なものを曖昧なままで抱えておく勇気のどちらもを持ちたい。何らかのかたちで創作に携わるすべての人に推したい本です。



④ ドリアン・グレイの肖像

オスカー・ワイルド/光文社古典新訳文庫
絶世の美貌を誇る青年ドリアンと、ある画家が描いたドリアンの美しい自画像をもとにした物語。
自画像に描かれた方のドリアンは時の経過とともに少しずつ老いていくのに対し、現実のドリアンの美しさは歳を重ねても衰える事を知らず、それゆえに少しずつ追い詰められていく。
若さや外見に最大限の価値を見出す事は、未来の自分に解けない呪いをかけ続ける事に等しくて、いつか必ず過去の自分の愚かさに復讐されることになるもの。描かれた姿を通して自分自身を否定し続けたその行く末、壮絶です。



⑤ 月と六ペンス

サマセット・モーム/新潮文庫
なんとなく再読した齋藤孝『読書力』(岩波新書)に、読書によって培われる能力のうちのひとつに「矛盾し合う複雑なものを心に共存させること」があるという内容の記述があって、めちゃくちゃ感銘を受けたんですよ。
と同時に、その一文を読んで真っ先に連想したのがモームさんの小説もとい本作だったんです。そして無性に読みたくなって再読。
託すことまで含めて最期まで自らを貫いたストリックランドと、周囲の雑音も厭わず自分が本当にやりたい事を選んだエイブラハム。彼らの生き様を心の内に共存させることが、ままならない現実において自分自身を生かすことに繋がっていくんだと思う。



⑥ 回転木馬のデッド・ヒート

村上春樹/講談社文庫
短編集、って呼んでしまうことに何となく抵抗があるのは「原則的に事実に即した話」という前提があるからかな。
安直に「快・不快」のどっちかに分類するなら「不快」側に属する題材がいくつもあったにもかかわらず、読み終えて本を閉じた後に残っているのが、読んでいる時に感じた心地良さの余韻だったという不思議な一冊でした。
通底する優しさの正体を、読了直後はまだ言語化できなかった。こういう事なのかな、って実感できたのはもう少し後、⑧番目の本を読んでからです。



⑦ 謎ときサリンジャー ――自殺したのは誰なのか

竹内康浩・朴舜起/新潮選書
サリンジャーは本当に好きな作家のうちの一人なので、手許にある小説を繰り返し大事に読んでいるのですが…。
新たな解釈を通してサリンジャーの作品世界を旅する感激をくれる、間違いなく掛け値なしの一冊でした。と同時に、ひとりの作家とその作品世界を研究する事の深遠さにも触れられる凄みをもった本でもある。新たな解釈って簡単に書いたけど、そのためにはここまで深く読み込む必要があるのか……という、人間の探求心に対する率直な畏敬の念。
今年のやりたいことリスト内に「鈴木大拙の著作を読む」を入れてあるのですが、そのきっかけをくれた本でもあります。禅について知るために。



⑧ 断片的なものの社会学

岸政彦/朝日出版社
「社会学」に触れるのは多分初めての経験だったけれど、誤解を恐れず言うなら読んでて素直に癒される一冊だったんです。
その理由を考えた時に思い至ったのが、自分がマイノリティ(バイセクシャル)であるが故にこれまで感じてきた居心地の悪さが、本書を読む上では皆無だったという実感でした。
だって「多様性を尊重しよう」「寛容さを持とう」なんて声高に発信されるって事実は、現状におけるそれらの欠落と同義じゃないですか。
当たり前すぎてわざわざ言葉にする必要もないぐらい、自然に備わった人の視点と文章だった。だからそういう読後感になったんだと思う。
その優しさに癒されつつ、目指したい境地でもあります。これからも繰り返し読みたい本。



⑨ 香水 ある人殺しの物語

パトリック・ジュースキント/文春文庫
⑤『月と六ペンス』同様に、齋藤孝『読書力』(岩波新書)きっかけで再読した一冊。この新書でとにかく面白い小説が読みたい!!!という欲求を煽られまくった事で、私にとって「とにかく面白い小説」の条件を満たすのはどれだろうって部屋の本棚を眺めながら考えたんです。そしてこれが一番ぴったりだって直感に沿って再読したらやっぱり面白かった。大満足。
見たくないなら目を閉じればいいし、聞きたくないなら耳を塞げばいい。でも呼吸を伴う以上、人間が匂いから逃れる事は不可能とも言える。その事実を踏まえて、言葉で構成された世界で様々な匂いを嗅いだり浴びたりしながら、ひとりの男の数奇な生涯を駆け抜ける小説です。
そして改めて再読したら文章が読んでてすごく気持ちよかった(翻訳が池内紀さんと知って納得です)。映画は観てないんですが、終盤のあの場面はどこまで原作に忠実に再現されてるんでしょう?怖いもの見たさで気になる…。



⑩ 京大 おどろきのウイルス学講義

宮沢孝幸/PHP新書
1月中旬に岸田首相が「新型コロナは変異を繰り返すという事が特筆すべき部分ではないかと思います」と発言している動画を見て耳を疑ったのが記憶に新しいです。ウイルスは変異するものですよ新型コロナに限らず…。
というふうに違和感を持つ事が出来たのは、昨年末にこの本を読んでいた影響も絶対にある。
正直な話、2021年になるまで私は細菌とウイルスの違いすら知らなかったし、知ろうともしてなかった。正しく恐れるためには知ることが絶対に必要で、その助けとなってくれる一冊です。新型コロナに限らず、身につけた知識が未来の自分を生かす場面がきっとあるはず。
そして社会学同様にウイルス学も初めて覗き見るジャンルだったんですが、過去から未来を数億年単位で行き来するダイナミックな学問だと知れた事もすごく面白かったです。好奇心煽られまくったよ。



⑪ 頁をめくる音で息をする

藤井基二/本の雑誌社
たまたま覗いた上野駅の明正堂書店で本書の背表紙を見かけて、タイトルが気になって手に取ってみたら「著者は広島県尾道市で深夜23時に開店する古本屋の店主」とのこと。
ポルノグラフィティさん大好き人間なので広島県尾道市には並々ならぬ思い入れがあり、加えてその土地にある古本屋、しかも営業時間が深夜23時??(あの長閑な街でそんな夜遅くに営業…?)と気になってたまらず、表紙の紙の質感も心地よかったのでそのまま購入。
コロナ禍を生きる古書店主の日常に訪れる、さまざまな本と人との邂逅と別離、思索と述懐、そこに様々な詩が散りばめられていて、何とも独特な随筆でした。とてもよかった。
本書をきっかけに詩集に手を出してみたくなりました。携えるかメモをとるなりして詩集売り場を覗いてみたい。




まとめ&2021年のランキング

今回挙げた11冊それぞれに思い入れがあるんですが、中でもヘッダ写真にした3冊は、ジャンルこそ違えど各々が呼び合うような繋がりを感じた本たちです。目の前の光景を眺める眼差しの優しさが共通点だと思う。
小説になるか社会学の本になるか古書店主の随筆になるか、というのは聞き手(受け手)が誰だったかという程度の違いなのかな、自分目線だと平凡に思えてもみんなそれぞれの日常が掛け値なしなんだよな、、、という事を考えるきっかけをもらった。いい読書でした。



読書メーターの機能で、その年の「おすすめランキング」を作る事ができるんです。
振り返るかたちで、読了登録した中から特別だった本を選べるランキング。今年も作成しました。

ままならない事も多かった2021年でしたが、読書に関しての充実度合いには胸を張れます。
2022年もよき出会いがたくさんあるといいなあ。




※前回の記事はこちら。



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