まいにち易経_0923【生かす力】天地の大徳を生という。[繋辞下伝:第一章]
天地之大德曰生。
ある企業の新人研修に招かれた老易学者が、
未来のリーダーを担うポストZ世代の若者たちに向かって語る
「天地之大德曰生」。これは、「天地の最も大きな徳は、生きとし生けるものを生かすことである」という意味です。
私たちの住むこの地球、そして広大な宇宙。毎日、太陽が昇り、沈み、四季が巡り、星々が輝いています。これらは全て、規則正しく動いていますね。そして、その中で無数の生命が生まれ、育ち、そして次の世代へとつながっていきます。
この壮大な営みの中で、天地、つまり自然界が最も大切にしているのが「生かすこと」なのです。木々は光合成をして酸素を作り出し、私たち動物はその酸素を使って生きています。海は魚たちの住処となり、山は多くの生き物の家となっています。全てが互いに支え合い、生かし合っているのです。
では、私たち人間はどうでしょうか。特に、これからリーダーとなっていくみなさんは、この「生かす」という考え方をどのように活かせるでしょうか。
例えば、会社の中でチームを率いるリーダーを想像してみてください。そのリーダーの役割は、単に利益を上げることだけでしょうか。もちろん、それも大切です。でも、それ以上に大切なのは、チームの一人一人が持っている能力や可能性を最大限に引き出し、「生かす」ことではないでしょうか。
ある会社で、新しい商品開発のプロジェクトを任されたリーダーがいたとします。そのリーダーは、チームメンバーの一人一人と丁寧に話し合い、それぞれの得意分野や興味を把握しました。そして、その情報をもとに適材適所で仕事を割り振りました。さらに、メンバー同士が自由に意見を交換できる環境を作り、互いの良いところを認め合える雰囲気を醸成しました。
その結果、チームの一人一人が生き生きと仕事に取り組み、それぞれの能力を存分に発揮しました。メンバーたちは、自分の意見が尊重され、能力が認められていることを実感し、モチベーションが高まりました。そして、予想以上に革新的で魅力的な商品が生み出されたのです。
これこそが、「天地之大德曰生」の教えを実践した例と言えるでしょう。リーダーは、自分の部下や同僚、さらには取引先や顧客までも含めた全ての人々を「生かす」ことを考え、行動することが求められるのです。
古代中国の思想家である孔子も、この「生かす」という考え方を重視していました。孔子は「己を修めて人を安んず」という言葉を残しています。これは、自分自身を磨き、そして周りの人々を安らかにする、つまり「生かす」ということです。孔子の教えと易経の教えが、このように見事に重なり合っているのは興味深いことですね。
さて、「生かす」という考え方は、ビジネスの世界だけでなく、私たちの日常生活にも当てはまります。例えば、家族との関係を考えてみましょう。家族の一人一人の個性や希望を尊重し、互いに支え合い、励まし合う。そうすることで、家族全員が生き生きと自分らしく生きていける。これも「生かす」の実践と言えるでしょう。
また、地域社会との関わりでも同じです。地域の清掃活動に参加したり、お年寄りや子どもたちの見守り活動をしたりすることで、地域全体が活性化し、住みやすくなります。これも、地域社会を「生かす」ことにつながっているのです。
さらに、環境保護の観点からも「生かす」ことを考えることができます。地球温暖化や森林破壊、海洋汚染など、私たちを取り巻く環境問題は深刻です。しかし、一人一人が環境に配慮した行動を心がけることで、少しずつではありますが、地球環境を「生かす」ことができるのです。例えば、ゴミの分別やリサイクル、エコバッグの使用、節電など、身近なところから始められることはたくさんあります。
このように、「天地之大德曰生」の教えは、ビジネス、家庭、地域社会、そして地球環境に至るまで、私たちの生活のあらゆる場面に適用できる普遍的な知恵なのです。
環境の4法則
アメリカの生態学者バリー・コモナーは、「4つの生態学の法則」というものを提唱しました。その中の一つに「すべてのものは、どこかに行かなければならない。自然界に《無駄》はなく、物を投げ捨てられる《どこか遠くの場所》などない」というものがあります。
Everything must go somewhere.
There is no "waste" in nature and there is no "away" to which things can be thrown.
これは、私たちが捨てたものは決して消えてなくなるわけではなく、必ずどこかに行き着くという意味です。この考え方は、「生かす」という易経の教えとも通じるものがあります。私たちの行動は、必ず何かに影響を与え、それが巡り巡って自分たちに戻ってくる。だからこそ、常に周りのものを「生かす」ことを意識する必要があるのです。
さて、ここまでお話ししてきて、みなさんの中には「それは理想論で、現実の厳しいビジネスの世界では通用しないのでは?」と思う方もいるかもしれません。確かに、競争の激しい現代社会において、常に他者や環境のことを考えて行動することは、簡単なことではありません。
しかし、長期的な視点で見れば、「生かす」ことを意識して行動することが、結果的に自分自身や組織の持続的な成功につながるのです。なぜなら、周りの人々や環境を大切にし、生かしていく姿勢は、必ず信頼と尊敬を生み出すからです。そして、その信頼と尊敬こそが、ビジネスの成功や人生の充実につながっていくのです。
参考出典
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