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まいにち易経_0804【潜龍の寂寥:秘めた力が輝く瞬間を待つ】龍徳ありて隠れたる者なり。世に易えず、名を成さず、世を遯れて悶うることなく、是とせられずして悶うることなし。[01乾為天/文言伝:第二節(人事)初九]

龍徳而隱者也。不易乎世、不成乎名、遯世无悶、不見是而无悶。

子曰く、龍徳ありて隠れたる者なり。世にえず、名を成さず、世をのがれていきどおることなく、是とせられずしていきどおることなし。

潜龍とは、君子たる資質を備えながらも、その才覚を未だ発揮し得ていない者を指す。潜龍の段階にある者は、世の中の変遷に関わらず、社会的に認められることがない。時には、人前から姿を消したくなるほどの冷遇を受けることさえある。いかに努力し、工夫を凝らしても、一人前としての評価を得られないのである。それでもなお、潜龍の段階にある者は、どれほど冷遇されようとも、社会から隠遁することなく、憂いを抱くことも許されないのである。

ある企業の新人研修に招かれた老易学者が、
未来のリーダーを担うポストZ世代の若者たちに向かって語る

孔子は、「潜龍とは龍の徳を持ちながら、それを隠している者である」といいました。ここでいう「龍」は、中国の伝統的な想像上の生き物で、神聖で強大な力を持つ存在です。つまり、大きな可能性や才能を秘めているということを表しているのです。

大きな才能や可能性を持っていながら、あえてそれを表に出さず、じっと力を蓄えている状態を表しています。みなさんも、新入社員として会社に入ったばかりの頃は、まさにこの「潜龍」の状態だと言えるでしょう。

かつて中国の春秋時代、呉という国に孫武という軍師がいました。彼は後に「孫子」として知られる人物です。孫武は若い頃、その才能を隠し、農民として地味に暮らしていました。しかし、彼は常に学び、戦略について深く研究を重ねていたのです。そして、時が来て呉王に仕えることになった時、彼の才能は大いに花開き、「孫子の兵法」として今日まで語り継がれる戦略を生み出しました。

また、外部の環境に左右されず、自分の信念を貫くことの大切さも教えています。
社会に出ると、様々な誘惑や圧力に直面することがあるでしょう。しかし、そういった時こそ、自分の志を忘れずにいることが大切です。

例えば、スティーブ・ジョブズを思い出してみてください。彼は一度、自ら創業したアップル社を追われましたが、そのときも自分のヴィジョンを変えることなく、新たな挑戦を続けました。結果として、再びアップル社に戻り、iPhoneやiPadなど、世界を変える製品を生み出すことができたのです。

今の時代、SNSの影響もあり、早く結果を出さなければ、すぐに評価されなければ、と焦ってしまう傾向があります。しかし、本当に大きな仕事をするためには、地道な準備期間が必要なのです。

イチローは、メジャーリーグで大活躍する前、日本のプロ野球で7年間プレーしていました。その間、彼は毎日同じルーティンを欠かさず続け、基礎を徹底的に磨き上げました。その結果、メジャーリーグデビュー時には、すでに完成された選手として華々しい活躍をすることができたのです。

このように、「潜龍」の時期は決して無駄な時間ではありません。むしろ、将来の大きな飛躍のために欠かせない、貴重な準備期間なのです。

では、具体的に「潜龍」の時期に何をすべきなのでしょうか。

  1. 基礎力の向上:どんな仕事でも、基礎がしっかりしていないと応用が効きません。自分の職域に関する基本的な知識やスキルを徹底的に磨きましょう。

  2. 広い視野の獲得:自分の専門分野だけでなく、様々な分野の知識を吸収しましょう。異分野の知識が思わぬところでブレイクスルーを生むことがあります。

  3. 人間関係の構築:周りの人々との良好な関係を築きましょう。将来リーダーになったとき、この人脈が大きな力となります。

  4. 自己分析と目標設定:自分の強みと弱みを客観的に分析し、明確な目標を立てましょう。目標があれば、日々の努力に意味が生まれます。

  5. 失敗からの学習:失敗を恐れずにチャレンジし、そこから学ぶ姿勢を持ちましょう。失敗は最高の教師です。

  6. 健康管理:心身ともに健康であることが、すべての基盤となります。規則正しい生活と適度な運動を心がけましょう。

これらのことを地道に続けていくことで、みなさんは確実に力をつけていくことができるでしょう。そして、いつか必ず、その力を発揮する時が来ます。

ここで一つ、注意してほしいことがあります。「潜龍」の教えは、ただ黙々と努力を続けるだけでよい、というわけではありません。常に周囲の状況を観察し、自分の出番がいつ来るかを見極める目も必要です。そのためには、日頃から世の中の動きにアンテナを張り、自分の知識や技能がどのように役立つかを考え続けることが大切です。

最後に、私からみなさんへのメッセージです。若い時期は、誰もが焦りや不安を感じるものです。自分の成長が遅いように感じたり、周りと比べて劣っているように思えたりすることもあるでしょう。しかし、そんな時こそ、この「潜龍」の教えを思い出してください。

今は、あなたの龍が水面下で力強く泳いでいる時期なのです。その姿は誰の目にも映りませんが、確実に力をつけています。そして、いつかその龍は水面から勢いよく飛び出し、天高く舞い上がるのです。その日まで、焦らず、諦めず、しかし着実に前進し続けてください。

みなさんの中から、未来を切り開くリーダーが生まれることを、心から期待しています。今日の話が、そのための一助となれば幸いです。ありがとうございました。


参考出典

潜龍は世に潜み隠れるように修養を積む。世の流れが変わっても志を変えず、名を成そうともしない。また、認められなくとも悶々としない。
無理に世に出ようとせず、来るべき時に備え、ひたすら修養に励み、志を不動のものにし、実力を蓄える期間が人間には必要である。

易経一日一言/竹村亞希子

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