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まいにち易経_0510【険を逃れる】遯は亨るとは、遯いて亨るなり。[33䷠天山遯:彖伝]

彖曰。遯亨。遯而亨也。剛。當位而應。與時行也。小利貞。浸而長也。遯之時義大矣哉。
彖に曰く、遯は亨る、遯(しりぞ)いて亨るなり。剛位(ごうくらい)に当って応ず。時と行くなり。小貞(しょうただ)しきに利あり、浸(ようや)くにして長ずるなり。遯の時義大(じぎおお)いなる哉。


天山遯(てんざんとん)

『遯』は逃れることを意味し、退避や隠れることを示す。これは通常の解釈において、陰(小人)が成長する一方で陽(君子)が退避する状況を形成する。そのため、『遯』と名付けられ、六月の卦とされる。

一方『䷂水雷屯』は若さと未熟さからくる困難を乗り越え、建設的に解決を図るものであるが、『遯』の卦は邪悪に基づく社会の暗部から身を守るための策を示す。特に九五の位置にある陽剛が君位にあり、これに対応する六二が支援を提供している。これにより、理想としては世を救う努力が可能であるとされる。しかし、小人が二爻も存在し、さらに力を増す可能性があるため、君子は避けざるを得ない状況にある。

判断では「亨る」とされ、「小貞に利あり」とも言われる。ここでいう「小」は陰、すなわち小人を指し、『䷊泰』の卦辞にある「小往大来」の「小」も同様である。そのため、占断は相手に応じて異なる解釈が成立する。この卦を得た人が君子であれば、隠遁することが適切とされる。表舞台から退くことになるが、その清らかな操守を守り抜くことが、最終的には「亨る」ことにつながる。
一方で、問う人が小人である場合、「貞に利あり」とされる。つまり、勢いが増しても、それに乗じて君子を圧迫することなく、正道を堅持することが求められる。

大きな危機が迫る際には迅速に身を退くべきであり、必要があれば地位や財を捨て隠遁し、適切な時を待つ必要がある。一方、「時義」は各卦が示す時間とその意味を表し、「義」は刀を用いて判断することを意味する。逃れるべき時は自身に対して厳しい決断が求められるのだ。

遯卦が成功とされるのは、退くことをもって君子が清らかな気持ちを享受するためである。九五の剛爻が「中正」の位置にあることから、下卦の「中正」六二と応じており、この九五の態度は隠遁だけを目指すのではなく、時の流れに沿って、政権に携わるか、または隠遁するという柔軟な生き方を示唆している。

小利貞とは、小さなもの、すなわち陰が水のように徐々に広がる時、陰に対して正しい道を守るよう警告している。小人が漸進する際、君子がどう身を処するかは非常に困難である。この卦は隠避を意味し、その中には時間と意義が大きく示される。

中国においては、隠遯を讃美する傾向が存在する。特に老荘思想はその点で顕著である。儒家も経世済民を理想としながらも、混乱した世に対しては容易く背を向けることがある。政治を汚れた仕事と見なす観念は広く共有されており、朝廷が編纂した歴史書に隠遯者の列伝が盛んに記されるのも、儒家における隠遯讃美の思想に基づくものである。

参考出典


「遯」は豚に走ると書き、退避、隠遁の意。非常なる危険が迫っている時は素早く退避すべきであり、また、隠遁すべき時は地位や財産を捨ててでも退き、時期の至るのを待つべきである。
君子の進退として、「退く時は義をもって退く」という言葉がある。「義」は刀をもって伐(き)る、裁くこと。つまり、逃れる時は、自分の身を伐るような決断を要す。天山遯の卦は、逃れるべき時は自分の意志や欲を捨てて逃れよ、と教えている。

易経一日一言/竹村亞希子
遯之時義大矣哉

『遯』は退避、隠遁の意。非常なる危険が迫っている時は素早く退避すべきであり、また、隠遁すべき時は地位や財産を捨ててでも退き、時期の至るのを待つべきである。
『時義』は、それぞれの卦の代表する時間と意義。『義』は刀をもって伐る、裁くこと。つまり、逃れる時は、自分の身を伐るような決断を要す。
遯卦が亨ると判断されるのは、遅くことによって君子の清い気持ちが享るのである。
九五の剛爻が「中正」(五は外卦の中、陽爻陽位で正)の位にあり、下卦の「中正」六二と「応」じている。この九五の態度は、必ずしも隠遯ばかりしようというのでなく、時の動きと並行して、或いは政権につき、或いは隠遯する柔軟な生き方を示す。小利貞とは、小すなわち陰が、水の浸すようにだんだん伸長して来る時なので、陰に対して、貞しき道を守れと戒告するのである。すなわち小人の漸進する時に、君子が身を処すること、最もむつかしい。隠避を意味するこの卦に現わされる時間と、その意義と、大きなものがある。
大体、中国では隠遯ということを讃美する傾向がある。老荘は最も甚だしい。儒家は経世済民理想とするので、政治に情熱的であるが、それでも余りにも乱れた世には、あっさりと背を向ける。政治というものを汚い仕事とする観念が共通にあるようだ。朝廷で編纂した歴史の中に、隠遯者の列伝が堂々と載せられるのも、儒家にさえある、隠遯讃美の通念によるのである。

易(朝日選書)/本田濟

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