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まいにち易経_0729【麗沢】麗沢は兌なり。君子もって朋友講習す。[58䷹兌為澤:象伝]

象曰。麗澤兌。君子以朋友講習。

象に曰く、つらなる沢あるはなり。君子もっ朋友ほうゆう講習こうしゅうす。

大きな沼が連なるのが兌卦の卦象である。君子はここから啓発を受け、友と共に学び合う。
俗に「できる人より言える人の方が勝る」「英雄は口から、良馬は足から」と言うように、言葉の重要性が見て取れる。人と人との間で意思を伝えるには言葉が必要であり、そのため言葉は人と人との交流における重要なツールである。しかし、言葉巧みな人も、正道を守ってこそ吉祥が通じるのである。

ある企業の新人研修に招かれた老易学者が、
未来のリーダーを担うポストZ世代の若者たちに向かって語る

まず、「兌為澤」という言葉の意味からお話ししましょう。「兌」は喜びや楽しさを表し、「澤」は池や沼を意味します。つまり、この卦は「喜びの沼」とでも言えるでしょうか。面白いですね。

さて、この教えの核心は、二つの池が地下水脈でつながっているイメージにあります。一つの池だけでは、やがて水が枯れてしまうかもしれません。しかし、二つの池がつながっていれば、互いに水を補い合い、決して枯れることはありません。

これは、人間関係においても同じことが言えるのです。皆さんは、一人で全てをやろうとしていませんか? それは、やがて疲れ果ててしまうでしょう。しかし、信頼できる仲間と力を合わせれば、互いに助け合い、高め合うことができるのです。

リーダーシップというと、強くて孤独なイメージがあるかもしれません。しかし、真のリーダーシップとは、仲間と共に成長し、高め合うことなのです。それは、まるで二つの池が互いの水を補い合うように。

では、具体的にどうすればいいのでしょうか。ここで大切なのが「朋友講習」という考え方です。「朋友」とは心の通じ合う友人のこと。「講習」は、知らないことを学び、知っていることを繰り返し練習することです。

例えば、皆さんの中に数学が得意な人と、文学が得意な人がいるとしましょう。お互いの得意分野を教え合うことで、両方とも成長できますよね。これが「講習」です。

また、「講習」には別の意味もあります。それは、同じことを繰り返し学ぶことです。皆さんは「習うより慣れろ」という言葉を聞いたことがあるでしょう。これは、まさにこの「習」の精神を表しています。

私が若いころ、ある会社の新入社員研修に参加したことがあります。その会社では、毎朝全員で社訓を唱和していました。最初は意味もわからず唱えていましたが、毎日繰り返すうちに、その言葉の深い意味が心に染み込んでいきました。これも「習」の一つの形と言えるでしょう。

さて、この「兌為澤」の教えは、現代社会にも深く根付いています。例えば、学校や寮に「麗澤れいたく」という名前がついているのをご存知でしょうか。これは、まさにこの教えに由来しているのです。

「麗」は美しく並ぶこと、「澤」は先ほど説明した通り池のことです。つまり、美しく並んだ池々、というイメージです。これは、学生たちが互いに学び合い、高め合う様子を表しているのです。

皆さんの中には、「でも、競争社会の中で、そんな悠長なことをしていていいの?」と思う方もいるかもしれません。確かに、現代社会は競争が激しいです。しかし、だからこそ、この「兌為澤」の精神が重要なのです。

例えば、シリコンバレーの成功を見てみましょう。あそこでは、異なる企業の人々が頻繁に交流し、アイデアを共有しています。一見すると競争相手なのに、なぜそんなことをするのでしょうか。それは、互いに刺激し合うことで、業界全体が発展すると考えているからです。これこそ、現代版の「兌為澤」と言えるでしょう。

また、最近では「オープンイノベーション」という言葉をよく耳にします。これは、企業が自社だけでなく、外部のアイデアも積極的に取り入れてイノベーションを起こそうという考え方です。これも、「兌為澤」の現代的な解釈と言えるでしょう。

さらに、SNSの普及により、世界中の人々と簡単につながることができるようになりました。これは、まさに無数の「澤」がつながっている状態だと言えます。しかし、ここで注意しなければならないのは、つながりの質です。単につながっているだけでは意味がありません。互いに学び合い、高め合う関係性を築くことが大切なのです。

ここで、皆さんに問いかけたいと思います。皆さんの周りには、どんな「澤」がありますか?そして、その「澤」とどのようにつながっていますか?単に情報を共有しているだけではなく、互いに成長し合える関係を築けていますか?

リーダーとしての成長を目指す皆さんにとって、この「兌為澤」の教えは非常に重要です。なぜなら、真のリーダーシップとは、自分一人で全てを背負うことではなく、チームの力を最大限に引き出すことだからです。

そのためには、まず自分自身が「澤」となる必要があります。つまり、常に学び、成長し続ける姿勢を持つことです。そして、他の「澤」とつながり、互いに高め合う関係を築いていくのです。

最後に、私の経験から一つアドバイスをさせていただきます。
人生の中で、たくさんの人と出会い、別れを経験するでしょう。その中で、本当の意味での「朋友」に出会えることは、実はそう多くありません。しかし、そんな貴重な出会いがあったとき、その関係を大切にしてください。その関係こそが、皆さんの人生を豊かにし、リーダーとしての成長を支える、かけがえのない「澤」となるのです。

「兌為澤」の教えは、2000年以上前の中国で生まれました。しかし、その本質は現代にも、そしてこれからの時代にも通用する普遍的なものです。皆さんが将来、どんな立場になっても、この教えを心に留め、実践していってほしいと思います。そうすることで、皆さんは必ず、素晴らしいリーダーへと成長していくことでしょう。


参考出典

兌為沢の卦は沢が二つ重なった象を持つ。
「麗」は付く、並ぶ。二つの沢が地下水脈で通じて互いの沢を潤し、枯れることがない。同じように、君子は心の通じる友である「朋友ほうゆう」とともに切磋琢磨せっさたくまして、「講」知らなかったことを学んで知り、「習」すでに知っていることを繰り返して、身に付けていく。
学校関係の団体や寮に「麗澤」という名が多いのはこの言葉に由来している。

易経一日一言/竹村亞希子

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