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まいにち易経_0801【生々発展の六段階】時の六龍に乗り、もって天を御す。[01䷀乾為天:彖伝]

時乘六龍、以御天。

時に六龍りくりゅうに乗り、もって天をぎょす。

龍は雲を呼び、雨を降らす存在であり、「天」と「陽」を象徴する。易経六十四卦の乾為天の卦の時は、志達成までの変化の過程が龍に例えられ、六段階に変化する物語がダイナミックに描かれている。


ある企業の新人研修に招かれた老易学者が、
未来のリーダーを担うポストZ世代の若者たちに向かって語る

今日は、易経六十四卦の一つ、『乾為天』についてお話しします。この内容は、リーダーシップを発揮する上で非常に参考になると思います。皆さんが将来、どのように自分の道を切り開いていくか、そのヒントをこの話から掴んでほしいと思います。

『乾為天』は、龍を使って人間の成長と成功の過程を表現しています。なぜ龍なのでしょうか?東洋の伝統では、龍は雲を呼び、雨を降らせる力を持つと考えられてきました。つまり、天候を支配する力強い存在なのです。これは、優れたリーダーが組織や社会に大きな影響を与えることができるという考えと重なります。

では、龍になぞらえた6つの段階について、現代の視点から解釈してみましょう。

1.「潜龍《せんりゅう》」:高い志を抱き、力を蓄える段階

これは、皆さんが今まさに経験している段階かもしれません。新入社員として、まだ表舞台には立っていないけれど、大きな夢を抱いて日々学んでいる時期ですね。この時期は、自分の強みと弱みを知り、将来のビジョンを描くことが大切です。
例えば、スティーブ・ジョブズが大学を中退してガレージでコンピューターを作り始めた時期がこれにあたるでしょう。彼は表舞台には立っていませんでしたが、コンピューター革命を起こすという大きな志を抱いていました。

2.「見龍《けんりゅう》」:基本を修養する段階

この段階では、自分の専門分野の基礎をしっかりと固めることが重要です。技術や知識を磨き、周囲から信頼される存在になっていく時期です。
例えば、若き日の松下幸之助が、松下電器現パナソニックを創業した直後の時期がこれに当たるでしょう。彼は電気器具の基本的な知識と技術を徹底的に学び、品質の高い製品を作り出すことに注力しました。

3.「君子終日乾乾《しゅうじつけんけん》」:創意工夫し、独自性を生み出そうとする段階

この段階では、学んだことを基に、自分なりのアイデアや方法を生み出していくことが求められます。「乾乾」とは、絶え間なく努力し続けるという意味です。
トヨタ自動車の「カイゼン」の精神は、まさにこの段階を体現しているといえるでしょう。日々の業務の中で、常に改善の余地を探り、新しいアイデアを生み出し続けることが、トヨタの強さの源泉となっています。

4.「躍龍《やくりゅう》」:独自の世界を創る手前の試みの段階

この段階では、自分のアイデアや方法を実際に試してみる時期です。失敗を恐れず、積極的にチャレンジすることが大切です。
ソニーの創業者、井深大と盛田昭夫が、戦後の混乱期にトランジスタラジオの開発に挑戦した時期がこれにあたるでしょう。彼らは、まだ誰も成功していない技術に果敢に挑戦し、世界を驚かせる製品を生み出しました。

5.「飛龍《ひりゅう》」:一つの志を達成し、隆盛を極めた段階

これは、自分の努力が実を結び、大きな成功を収めた段階です。しかし、ここで満足してはいけません。さらなる高みを目指し、社会に貢献する方法を考えることが求められます。
例えば、任天堂の山内溥が、カードゲーム会社から世界的なゲーム企業へと会社を成長させた時期がこれにあたるでしょう。彼は成功に甘んじることなく、常に新しい挑戦を続けました。

6.「亢龍こうりゅう」:一つの達成に行き着き、窮まって衰退していく段階

これは、成功の後に訪れる危機の時期です。ここで重要なのは、自分の限界を知り、次の世代にバトンを渡す準備をすることです。
日産自動車の創業者、鮎川義介は、戦後のGHQによる財閥解体で日産グループから身を引きました。しかし、その後も日本の産業界に様々な形で貢献し続けました。これは、「亢龍」の段階を賢明に乗り越えた例といえるでしょう。

これらの6段階は、単純に順番に進んでいくものではありません。人生の中で、何度も繰り返し経験するサイクルだと考えてください。また、組織の中での自分の立場によっても、どの段階にいるかは変わってくるでしょう。

重要なのは、自分が今どの段階にいるかを常に意識し、その段階に応じた適切な行動をとることです。そして、次の段階に進むための準備を怠らないことです。

易経の教えは、3000年以上前の中国で生まれたものです。しかし、その洞察は現代のビジネス社会にも十分に通用します。なぜなら、人間の本質や組織の動きの基本は、時代が変わっても大きくは変わらないからです。

皆さんには、この『乾為天』の教えを心に留めながら、自分自身のリーダーシップを磨いていってほしいと思います。そして、単に自分の成功だけでなく、組織や社会全体の発展に貢献できるリーダーになってほしいと願っています。

最後に、私の経験から一つアドバイスをさせていただきます。リーダーシップの道のりは決して平坦ではありません。挫折や失敗を経験することもあるでしょう。しかし、そのような時こそ、この『乾為天』の教えを思い出してください。今の苦境は、次の段階に進むための試練かもしれません。諦めずに前を向き続けることが、真のリーダーシップの基本なのです。

皆さんの前途に幸多きことを祈っています。頑張ってください。


参考出典

龍は雲を呼び、雨を降らすといわれる。そこから龍は「天」と「陽」を象徴する生き物とされる。易経六十四卦の乾為天の卦には、龍になぞらえて、志の達成までの変化の過程が次の六段階で記されている。
○第一段階「潜龍せんりゅう」高い志を描き、実現のための力を蓄える段階。
○第二段階「見龍けんりゅう」基本を修養する段階。
○第三段階「君子終日乾乾しゅうじつけんけん」創意工夫し、独自性を生み出そうとする段階。
○第四段階「躍龍やくりゅう」独自の世界を創る手前の試みの段階。
○第五段階「飛龍ひりゅう」一つの志を達成し、隆盛を極めた段階。
○第六段階「亢龍こうりゅう」一つの達成に行き着き、窮まって衰退していく段階。
この六段階を「六龍りくしゅう」という。この六つの過程は朝昼晩、春夏秋冬の変化過程と同じであり、大願成就たいがんじょうじゅの天の軌道である。
その時その時に応じた働きがあり、その力を使いこなし、大いなる働きを成していくのである。

易経一日一言/竹村亞希子

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