まいにち易経_0724【閉塞の時代】否はこれ人に匪ず、君子の貞に利ろしからず、大往き小来るとは、すなわちこれ天地交わらずして万物通ぜざるなり。[12䷋天地否:彖伝]
彖曰。否之匪人。不利君子貞。大往小來。則是天地不交而萬物不通也。
天地の交流が断たれ、万物が疎通しない状況を示している。君主が高位にあり、臣下が低位にあるため、国家が治まらないのだ。内側の卦は坤で陰、外側の卦は乾で陽、内は弱く外は強い。これは、小人の道が強くなり、君子の道が弱まっていることを表している。
このような状況では、君子が正道を守るのは不利である。孔子の人生がその典型例だ。孔子は仁義道徳を広めようとしたが、周室が衰退し、諸侯が権力を競い合う中で、仁義道徳に頼ることはできなかった。五代十国の時代には、人々が互いに食い合うほどの混乱があり、道徳は社会を治める力を持たなかった。こうした時代では、小人が栄え、君子は美徳を隠して災難を避けるべきである。この時代を「大往小来」と呼び、陽の力が衰え、陰の力が盛んになることを示している。秋が訪れ、冬に向かう時期である。
このような時期には、美徳を隠し、災難を避けることが重要であり、栄誉や俸禄を追い求めるべきではない。春秋時代の老子を代表とする隠者たちは、賢明な君子であり、隠遁して小人の災難を逃れたが、天下の情勢を観察し、時勢に応じて行動する準備をしていた。これが君子のあるべき姿だ。
ある企業の新人研修に招かれた老易学者が、
未来のリーダーを担うポストZ世代の若者たちに向かって語る
「否」という字は、儀式の際に神に捧げる祝詞の入れ物の「口」に「不」、つまり蓋をして、天との交流を断絶するという意味があります。この卦は、まさに閉塞の時代を表しています。陰と陽が交わらず、人々は背き合い、何も生まれない。国も家庭も崩壊する、そんな暗黒の時代を指しています。
この『天地否』の状況は、現代でも見られます。例えば、企業が内部で対立し、部門間で協力がなくなると、生産性が低下し、最終的には会社全体の業績が悪化します。これも一種の『天地否』の状態です。コミュニケーションが途絶え、協力がなくなり、全体が機能しなくなるのです。
また、家庭においても同様です。親子間、夫婦間での対話がなくなると、関係が悪化し、家庭内がぎくしゃくしてしまいます。これも『天地否』の一例と言えます。
では、どうすればこの『天地否』の状態を乗り越えられるのでしょうか。まず大切なのは、対話と理解です。企業であれば、部門間の対話を促進し、共通の目標を持つことが重要です。家庭でも、相手の立場を理解し、互いに尊重し合うことが大切です。
また、『天地否』の時代は、人災によってもたらされるとされています。これはつまり、私たち自身の行動や選択が、状況を悪化させることがあるということです。リーダーとして、常に自分の行動がどのような影響を及ぼすかを考え、慎重に行動することが求められます。
皆さんは「森の法則(生物多様性と生態系の安定性の法)」というものをご存知でしょうか? これは、森林生態学の分野で知られている法則で、多様性のある森ほど健全で、環境の変化にも強いというものです。
一見すると、易経の「天地否」の教えとは関係ないように思えるかもしれません。しかし、よく考えてみると、組織の在り方にも通じるものがあるのです。
多様な樹木が共存する森では、それぞれが異なる特性を持ち、互いに影響し合いながら成長します。同様に、多様な意見や背景を持つ人々が共存し、互いに影響し合える組織は、環境の変化に強く、創造的な解決策を生み出す力を持つのです。
逆に、「天地否」の状態は、単一種の木だけで構成された人工林のようなものかもしれません。一見整然としているように見えても、実は環境の変化に弱く、病害虫の被害も受けやすいのです。
これから社会に出ていく皆さんには、この「森の法則」のように、多様性を尊重し、異なる意見を歓迎する姿勢を持ってほしいと思います。そうすることで、「天地否」の状態を避け、健全で創造的な組織を作り上げることができるでしょう。
参考出典
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