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まいにち易経_0905【事業】化してこれを裁する、これを変と謂い、推してこれを行う、これを通と謂い、挙げてこれを天下の民に錯く、これを事業と謂う。[繋辞上伝:第十二章]

化而裁之。謂之變。推而行之。謂之通。擧而錯。之天下之民。謂之事業。

化してこれをさいする、これをへんい、してこれを行う、これをつうと謂い、挙げてこれを天下の民にく、これを事業じぎょうと謂う。

聖人は陰陽の変化に従い、その変化を適切な裁ち切って見せる。これを「変」という。さらにその変化を推し進め、その働きを完全にすることを「通」という。聖人はこの変と通を、形のある卦や言葉に表し、それをすべてまとめて人々が手に取れるようにし、実際に役立てる。これが聖人の事業である。

ある企業の新人研修に招かれた老易学者が、
未来のリーダーを担うポストZ世代の若者たちに向かって語る

繋辞上伝:第十二章が教えてくれる大切なことは、「変化」と「通じること」、そしてそれらを通じて「人々のために尽くすこと」です。これらは、どんな時代でも、どんな場所でも、リーダーにとって欠かせない要素なのです。

「化してこれを裁する、これを変と謂い」
この部分は、「状況に応じて物事を適切に判断し、必要な変化を起こすこと」を意味しています。

例えば、みなさんが会社で新しいプロジェクトを任されたとしましょう。その時、これまでのやり方にこだわるのではなく、現在の状況をよく見極め、必要があれば新しい方法を取り入れる。そういった柔軟な姿勢が「変」なのです。

思い出してください。スマートフォンが登場した時、多くの企業が戸惑いました。しかし、この変化をいち早く受け入れ、ビジネスモデルを変えた企業が今、成功を収めています。これこそが「変」の力です。

「推してこれを行う、これを通と謂い」
次に、この部分は「決めたことを着実に進め、目標に向かって突き進むこと」を意味します。

変化を起こすだけでは不十分です。その変化を実際に行動に移し、目標達成まで粘り強く続けることが大切なのです。これが「通」です。

例えば、環境問題に取り組む企業を想像してみてください。彼らは、単に「環境に優しい」と言うだけでなく、実際に製品開発や製造プロセスを変え、長期的にその取り組みを続けています。これが「通」の実践です。

「挙げてこれを天下の民に錯く、これを事業と謂う」
最後に、この部分が最も重要です。これは「その変化と継続的な取り組みを通じて、社会全体のために尽くすこと」を意味します。

つまり、私たちの仕事や事業は、単に利益を追求するためだけのものではないのです。社会に貢献し、人々の役に立つことこそが、本当の意味での「事業」なのです。

これは、現代のSDGs(持続可能な開発目標)の考え方にも通じます。企業が単に利益を追求するだけでなく、社会や環境にも配慮する。そういった考え方の原点が、実はこの古代中国の教えの中にあったのです。

さて、ここで少し視点を変えて、日本の伝統的な考え方と比較してみましょう。

日本には「三方よし」という近江商人の教えがあります。「売り手よし、買い手よし、世間よし」というこの考え方は、易経の教えと驚くほど似ています。ビジネスは単に自分の利益だけでなく、取引相手や社会全体の利益も考えるべきだという思想です。

これらの東洋の知恵が教えてくれるのは、真のリーダーシップとは、単に組織を効率的に動かすことではないということです。それは、時代の変化を敏感に感じ取り(変)、粘り強く目標に向かって進み(通)、そして最終的には社会全体の幸福に貢献すること(事業)なのです。

皆さんは、創業から200年以上続いている企業が日本に多いことをご存知でしょうか。これらの長寿企業の多くが、この易経の教えのような哲学を持っています。彼らは時代の変化に柔軟に対応しながらも(変)、自社の理念や技術を大切に守り続け(通)、そして常に顧客や社会のために尽くすことを忘れない(事業)のです。

例えば、創業1300年を超える旅館「法師」は、時代とともにサービスを進化させながらも、「おもてなし」の心を守り続けています。また、300年以上の歴史を持つ「虎屋」は、和菓子の伝統を守りつつ、新しい味や商品開発にも積極的です。これらの企業は、まさに易経の教えを体現しているといえるでしょう。

みなさん一人一人が、これからの日本を、そして世界をリードしていく存在です。その時、利益だけでなく、社会への貢献を常に意識してください。変化を恐れず、しかし軸をぶらさず、そして常に人々のために。それが、古代中国の知恵が私たちに教えてくれる、真のリーダーシップの姿なのです。

今日学んだことを、ぜひこれからの人生に活かしてください。みなさんの活躍を、心から期待しています。ありがとうございました。


参考出典

事業
時に応じて物事を切り盛りし、適宜に処置して変化させ、さらに推進して物事を通じさせる。
この変通の道理によって社会の道を整え、民を導くことを事業という。
これは「事業」の語源となった言葉である。本来、事業とは社会貢献を指すものであった。

易経一日一言/竹村亞希子

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