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まいにち易経_0829【怒りと欲の鎮静術:内なる平穏への道】忿りを懲らし欲を塞ぐ。[41䷨山澤損:象伝]

象曰。山下有澤損。君子以懲忿窒欲。

象に曰く、山の下に沢あるはそんなり。君子以て忿いかりをらし欲をふさぐ。

ある企業の新人研修に招かれた老易学者が、
未来のリーダーを担うポストZ世代の若者たちに向かって語る

「山澤損」という言葉を聞いて、どんなイメージが浮かびますか? 「損」というと、何か悪いことのように感じるかもしれませんね。でも、実はそうではないのです。

ここでいう「損」は、単に経済的な損失を意味しているわけではありません。むしろ、私たちの心の中にある怒りや欲望を減らすこと、つまり「自制心」を養うことの大切さを教えてくれているのです。

皆さんは、怒りや欲望に振り回されてしまった経験はありませんか? 例えば、友人との些細な行き違いで怒りが込み上げてきて、後で冷静になって「あんな風に怒らなければよかった」と後悔したことはないでしょうか。あるいは、欲しいものを手に入れるためについ無理をしてしまい、後で「あんなに欲しがらなければよかった」と思ったことはないでしょうか。

実は、このような経験は誰にでもあるものです。私自身、企業経営者として長年仕事をしてきましたが、怒りや欲望に振り回されて失敗したことが何度もありました。そんな経験を重ねる中で、この「山澤損」の教えの深い意味を理解するようになったのです。

「山澤損」の教えは、怒りと欲望ほど自分の徳を壊し、自分自身を滅ぼすものはないと言っています。これは本当に重要な点です。なぜなら、怒りや欲望に支配されてしまうと、冷静な判断力を失い、周囲の人々との関係も損なわれてしまうからです。

では、具体的にどうすれば怒りや欲望を抑えることができるのでしょうか。ここで、私の経験から得た実践的なアドバイスをいくつか共有させていただきます。

アンガーマネジメントとは、「怒りをコントロールするスキル」

次に、欲望を抑える方法です。欲しいものがあっても、すぐに手に入れようとせず、一晩寝て考えてみましょう。多くの場合、翌日になると冷静に判断できるようになります。また、自分の欲しいものリストを作り、優先順位をつけてみるのも良いでしょう。本当に必要なものが見えてくるはずです。

古代中国の哲学者である荀子の「性悪説」という考え方があります。これは、人間の本性は悪であり、教育や努力によって善に導かれるという説です。一見厳しい考え方に思えますが、裏を返せば、努力次第で誰でも善く生きられるという希望に満ちた思想でもあります。

「山澤損」の教えも、この「性悪説」と似たところがあります。つまり、怒りや欲望は誰にでもあるものだけれど、それを自覚し、意識的に抑制することで、より良い人間になれるという考え方です。

皆さんは将来のリーダーとして期待されています。リーダーには、冷静な判断力と高い倫理観が求められます。そのためにも、この「山澤損」の教えを心に留めておいてほしいと思います。

自分の感情をコントロールできる人は、周囲からの信頼も厚くなります。例えば、部下が失敗したときに、すぐに怒るのではなく、冷静に状況を分析し、建設的なアドバイスができるリーダーは、必ず組織から慕われます。

また、過度の欲望に振り回されず、長期的な視点で判断できるリーダーは、持続可能な成功を収めることができるでしょう。短期的な利益に目がくらんで、倫理に反する行動をとってしまうようなことがあれば、結局は自分自身も組織も傷つけてしまうことになります。

心理学では「エゴ・デプレッション」という概念があります。これは、自分の欲望や期待が満たされないことで生じる落ち込みのことです。しかし、「山澤損」の教えに従って欲望をコントロールできれば、このような落ち込みも避けられるかもしれません。

さらに、脳科学の観点からも、怒りや欲望をコントロールすることの重要性が指摘されています。怒りや強い欲望は、脳の扁桃体を活性化させ、理性的な判断を司る前頭前野の機能を低下させるのです。つまり、「山澤損」の教えは、最新の科学的知見とも合致しているのです。

最後に、この「山澤損」の教えを日々の生活に取り入れる方法について考えてみましょう。

まず、毎日少しの時間を使って、自分の感情や欲望を振り返ってみるのはどうでしょうか。瞑想やジャーナリングなどの方法を使って、自分の内面と向き合う習慣をつけることで、自己理解が深まり、感情のコントロールも上手くなっていくでしょう。

また、定期的に自分の価値観や目標を見直すのも効果的です。本当に大切なものは何か、何のために頑張っているのかを明確にすることで、不要な欲望に惑わされにくくなります。

そして、周囲の人々との関係性にも注目してください。怒りや欲望をコントロールできるようになると、人間関係も自然と良くなっていきます。相手の立場に立って考える習慣がつき、相手の気持ちを理解しやすくなるからです。

これらの実践を通じて、皆さんはより成熟した、バランスの取れたリーダーへと成長していくことができるでしょう。

「山澤損」の教えは、一見すると単純なものに思えるかもしれません。しかし、その奥には人生の深い真理が隠されています。怒りや欲望をコントロールすることは、決して簡単なことではありません。時には失敗することもあるでしょう。でも、それでいいのです。大切なのは、常に意識し、少しずつでも改善していこうとする姿勢です。

これからの人生で、様々な困難や誘惑に直面することもあるでしょう。そんなときは、この教えを思い出してください。自分自身をコントロールする力こそが、真の強さであり、リーダーシップの源泉なのです。


参考出典

怒りと欲は身を滅ぼす
山沢損の卦名「損」は損する、減らすという意味であるが、これは利益についてだけいっているのではない。
ここでは、自らの心に生じた怒りを静め、欲心を塞ぐことの大切さを教えている。
忿怒ふんぬと欲ほど自分の徳を破り、身を滅ぼすものはない。だから、身の修養を考える時には、まず怒りや欲を損し減らすべきであるといっているのである。

易経一日一言/竹村亞希子

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