見出し画像

まいにち易経_0826【一歩下がって二歩進む】尺蠖の屈するは、もって信びんことを求むるなり。龍蛇の蟄るるは、もって身を存せんとなり。[繋辞下伝:第五章]

尺蠖之屈。以求信也。龍蛇之蟄。以存身也。

尺蠖せきかくの屈するは、以てびんことを求むるなり。
龍蛇りょうだちつするは、以て身を存するなり。

ある企業の新人研修に招かれた老易学者が、
未来のリーダーを担うポストZ世代の若者たちに向かって語る

この言葉は、私たちの人生や仕事において、「一歩下がって、二歩前に進む」という考え方の大切さを教えてくれています。

まず、「尺蠖」という言葉が出てきます。これは尺取虫のことです。尺取虫って知っていますか?あの、体を曲げたり伸ばしたりしながら前に進む虫のことです。

尺取虫は、前に進むためにいったん体を縮めます。そして、その後で大きく体を伸ばして前に進みます。これは、私たちの人生にも通じる素晴らしい教えなのです。

皆さんも、新しいことに挑戦する時、最初はうまくいかないかもしれません。でも、それは決して後退しているわけではありません。次の大きな前進のための準備なのです。

例えば、新しい仕事を任されたとき、最初は戸惑うかもしれません。自信がなくなることもあるでしょう。でも、それは決して悪いことではありません。むしろ、そこで謙虚に学び、経験を積むことで、次には大きく成長できるのです。

次に、「龍蛇の蟄する」という表現が出てきます。これは、龍や蛇が地中に身を隠すことを意味しています。

龍や蛇は、なぜ地中に身を隠すのでしょうか?それは、身を守り、次の飛躍のためにエネルギーを蓄えるためです。

これは、ビジネスの世界でもよく見られることです。例えば、新製品の開発中は、外部からは何も動きがないように見えるかもしれません。しかし、その間にも社内では懸命な努力が続けられているのです。そして、準備が整った時に、素晴らしい製品が世に出るのです。

皆さんの中には、「でも、常に前進し続けることが大切なんじゃないですか?」と思う人もいるかもしれません。確かに、前進することは大切です。でも、時には立ち止まって、自分を見つめ直すことも同じくらい重要なのです。

私自身、長年ビジネスの世界で生きてきましたが、最も大きな成長を遂げたのは、失敗や挫折を経験した後でした。そのような時期は、一見すると後退しているように見えるかもしれません。しかし、その時間があったからこそ、自分を深く見つめ直し、新たな視点や知恵を得ることができたのです。

また、この教えは、チームリーダーとしての心構えにも通じます。部下が失敗したとき、すぐに叱責するのではなく、その経験から学ぶチャンスを与えることが大切です。そうすることで、部下は次により大きく成長することができるでしょう。

さらに、この考え方は、ストレス管理にも役立ちます。現代社会は常に前進、成長を求めがちです。しかし、時には「龍蛇の蟄する」ように、意識的に休息を取ることも必要です。休息は、単なる時間の無駄ではありません。心身を回復させ、新たなアイデアを生み出す大切な時間なのです。

実は、この「一歩下がって、二歩前に進む」という考え方は、自然界でもよく見られます。例えば、植物の成長を考えてみましょう。種は、まず地中に埋もれます。これは一見すると後退のように見えますが、実はこの過程が不可欠なのです。地中で根をしっかり張ることで、やがて地上に芽を出し、大きく成長していくことができるのです。

ビジネスの世界でも、同じようなことが言えます。新しい市場に参入する際、最初は慎重に様子を見ることが大切です。競合他社の動向を分析し、市場のニーズを深く理解する。そうした準備期間を経て、本格的に展開していくのです。

このように、「尺蠖の屈する」「龍蛇の蟄する」という言葉は、単なる古い格言ではありません。現代のビジネスや人生においても、非常に重要な智慧を含んでいるのです。


参考出典

屈伸
「信」は伸びる。「尺蠖」は尺取虫のこと。尺取虫は身を屈めて伸びて前に進む。前に伸びるために身を屈める。
「龍蛇」の龍は潜龍。龍や蛇が地中に身を隠すのは、身を保ち、来るべき時の準備をするためである。
屈する、かくるるは、エネルギーを溜めること。自分はまだ事足りないと、低く身を屈めれば、次に大きく伸びることができる。


#まいにち易経
#易経 #易学 #易占 #周易 #易 #本田濟 #易経一日一言 #竹村亞希子 #最近の学び #学び #私の学び直し #大人の学び #学び直し #四書五経 #中国古典 #安岡正篤 #人文学 #加藤大岳 #繋辞下伝


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?