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ねえ、忘れないでよ。

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ベーシストの想真と引きこもりの瑠衣。 ふたりは 思いもよらない出逢いを知って 思いもよらない別れを知る。 運命って信じますか? ねぇ、忘れないでよ。
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2019年9月の記事一覧

音よ届け#21

そんな簡単に
思い通りには
行かなかった。

プロと素人。
その壁は思ってたよりも大きくて、
何度も、もっかいアタマからいこうか?

私には音楽の才能が
ないんだと自責していた。

「そんな不安げな顔すんなよ。大丈夫。なんでも積み重ねが大切で、才能なんて1%くらいだよ?俺たちだって。」

「ルイさん、Cメロに
はいった時の聴かせる感じとかすごいですよ。ドラミング忘れそうになるほどで

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独りでは何もできない#20

ひとりで出来ること。考えられること。
それにはやっぱり限界があった。
雨の中を傘も差さずにそのまま海に潜っていくような日々。

ここにいたら、もしかしたらひょっこり戻ってきて
またあの笑顔で私の名前を呼んでくれる気がして。

彼のバンドメンバーに声をかけた。
もう考え尽くしてその策の中に溺れていた。
助けてほしかった。

「もしもし、瑠衣ちゃん?珍しいね、いや掛けてくるの
初めてか。なんかあった?

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病の理由と涙の理由#19

身長、体重に始まり、レントゲン、CT、脳波測定、
あれやこれやと検査は進んでいった。
合間をみてはピアノレッスンも進めていた。
高校の時の音楽教諭にお願いしていた。
声を聞くのも数年ぶりで少し抜けているような
所がある、なんだか憎めない教師だったのを覚えている。
義務的に教わるのも性に合わないので、
手元に楽譜があった、とあるゲームの音楽から
抜粋して教わることにした。
先生も音大卒なこともあり、

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紺色のダッフルコート#18

「ソウマか、おおきくなったな。」

「大きくもなるよ。もう20の齢になるんだから。」

「それもそうか。あれから20年か。」

「ここじゃ迷惑がかかるよ。父さんこそ、いくつなんだよ。」

「父さんか。良い響きだ。生まれて初めてってこんな歳になっても
あるもんなんだな。」

僕等はそんな話をしながら、カフェへと足を運ばせた。
約20年という歳月を取り戻すかのように。

「海外まで来て、日本展開されて

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確かな理由#17

雲を越えた先、そのはるか先に待っている。
誰かじゃない僕を待っている。

会えなくてもよかった。
でも僕はなんの偶然かそのチケットを手にした。

このままだと、もう残された時間が少ない。
誰にでもそれはそうだ。時間は限られている。
永遠なんてない。
見えているか、見えていないか、それだけだ。

残してきた彼女や、メンバーには申し訳ない。
まだその気持ちがある。まだなんとか生きている。
僕はまだ生き

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雨#16

止まらない。
止まらない。
降りだした雨が急に止むことはないように。
涙が止まらない。

失ってから気付いても遅いんだろう。
想いを伝えるチャンスはきっとあった。

子供の頃、大切にしていたぬいぐるみを
どこかで無くしてしまったとき。

「また、同じもの買ってあげるから泣かないの。」

わがままかもしれない。でもそうじゃない。
同じものならいいわけじゃなくて、あの子がいい。
あの子じゃなきゃ意味が

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欲しかった音#15

彼らが売れた理由の大きなひとつに
ヴィジュアルが良かった。というのもあると思う。
三人とも着てるものはもちろん、顔が整っていた。
顔で売れてるよな。なんてぼやく男子高校生の言うことは
まあ、間違ってはいない。
でもそれだけでバンドサウンドは完全に認めて貰えるほど
甘くない。どこか大衆を巻き込むメッセージ性やサウンド
多分そういうのも彼らにはしっかり備わっていたんだと思う。

ちなみに私は音楽評論家

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Moon Sing Girl #14

また歌ってる!!

後ろから声がする。シンラさんだ。
TPOをこの人は知らないのだろうか。
育ちが良さそうなのに。

「はい、歌ってましたけど、なにか?」

「なんでそんなあからさまいつも冷たいわけ?
しかも俺だけ、、、。」

「冷たくしておかないと調子に乗りそうなタイプだから?」

「理由がごもっともすぎて、、ね、、。」

夜風がなびく間、暫しの沈黙があった。
刀を斬り込んできたのはシンラさんだ

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ワインと青とサラダ#13

彼の部屋に入った時、人の気配というか
生活感のようなものが欠如しているように感じた。

覗かせてもらうと、ほぼ未使用のIHキッチンヒーター
冷蔵庫の中はワインとその仲間たち。

薄いブルーのライトがつくと

黒を基調としたガラステーブル

すぐそばには白のシックな二人掛けのソファー

そのしたにふわっとした白の絨毯。

他には特段何にもない。

「え、、これは白い普通のライトは点かない?」

「う

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