Moon Sing Girl #14


また歌ってる!!

後ろから声がする。シンラさんだ。
TPOをこの人は知らないのだろうか。
育ちが良さそうなのに。

「はい、歌ってましたけど、なにか?」

「なんでそんなあからさまいつも冷たいわけ?
しかも俺だけ、、、。」

「冷たくしておかないと調子に乗りそうなタイプだから?」

「理由がごもっともすぎて、、ね、、。」

夜風がなびく間、暫しの沈黙があった。
刀を斬り込んできたのはシンラさんだった。

「月が、」 と掠れた声
シンラさんもあれという感じで喉を鳴らす。

「月が見える日は歌うんだな。しかも俺たちの歌。
それに俺たちでもソウマから貰ってない音まで覚えてる。
いまの ~みれるわけないだろ~
って少し聴こえたけど俺たちのだよなきっと。何曲くらいあるんだ?」

「総括的な返事として、はい。
それと何曲かまでは数えてないのでわからないです。
私のいま頭の中にあるだけだと、多分アルバム3枚分くらいかな。」

「そんなに隠してたのかソウマ、、。
ちょっとバールのようなもの買ってくる!」

「明日の新聞各社一面がどうなることやら、、。
シンラさんの赤髪でインク無くなっちゃいそう。」


二人で笑った。二人とも一人を想い、笑った。
特に最近のソウマくんはどこか消えていなくなっちゃいそうで。



「あいつ、何考えてんかな。」

「というと?」

「ソウマのガキの頃からの癖があってさ、隠してるってわけでもなく
嘘をつきたいわけでもない、言葉にするのが難しい考えが
頭の中にあるときは目を合わせないんだ。絶対。」

「絶対ですか。」

「ああ、なにかあったのか?とか聞いても
なんにもないよってその繰り返し。」

「ソウマくんらしいといえば、らしいような。」

「クロスケが死んだ時もそうだった。おばさんに聞いて
やっと解った。そこに居合わせたソウマは泣き崩れてた。
あんなソウマみたことなかった。独りでなんでもかんでも
背負うんだ。自分が全く悪くないことまで。
背負える荷物も限界がある。差し伸べようにも、手は二本しかない。
自分で手が一杯でも、ソウマにはそういうの関係ないんだな。
俺たちが休むことになって、心配してきてみたら、瑠衣ちゃん
いるからさ、安心したよ。定期的に顔合わせてたから何かあったら
そこで聞けるって思ってたことも、ソウマが今何をしているのかも
ここに来なくちゃ聞けなくなった。
男同士で何晩も寝泊まりなんて不健全極まりないからな。
いてやってくれな。そっちのが健全。うん。」

うん。と自分の言葉をひとつひとつ確かめるように肯いていた。

「これからシンラさんたちはどうするんですか?」

「どーする、かあ、正直わかんねえんだよな。情けないことに。
なーんにも話しあわないまま、こうなって。ソウマもトキオも
どうしていくのか。
子供みたいなあれだけどさ、音で語り合ってた時間が長かった。濃かった。
まだたいしたトシでもないのに、定年食らった気分だよ。」

「シンラさんらしくないですね。
ナイーヴな面も持ち合わせてるんですね。」

「誰だってあるよ。瑠衣ちゃんだって、皆そうだと思う。
マイクがなけりゃ、俺もただの人。いや、それより劣る。
オーディエンスがいて、スタッフがいて
隣にソウマがいて、後ろにトキオがいる。それで俺がギター
抱えて、マイクが待ってる。そんな状況でやっと俺が成り立つ。
人は独りじゃ生きられない。簡単には死ねないけど、
そんなに強くない。でも結局ソウマもトキオも俺にも
一つ、言えることは音楽しかない。
だからここから先もそれで生きていくのはきっと確かだと
思う。でも三人で一つの音だった俺たちが、まさかな、
こんなに早く、、」

公園の隣で仰向けで、寝そべり顔を覆っていたシンラさんは
そこから何も言わなくなった。きっと言えなくなった。

気づけば私は口ずさんでいた。

あいなんてーあいなんてーいらないんだよーこれいじょうー

シンラさんの涙声が重なる。

あいなんてーあいなんてーもとめてないのーわかるかなー

そこから大きく会場を揺らす、トキオさんのドラムの音はない。

それに重なるベース音も、ギターソロも。


私の声がそこに在ったことは無かった。

でもそこにシンラさんの声が在るだけで、
まるで私も初めから居たような、居て良かったような
そんな気がした。

公園の遊具に囲まれ、真ん中で、シンラさんの涙が
乾くのを待った。

ソウマから奪うとかそういうんじゃなくて、
ごめん、戻るのもう少し一緒に待ってくれ。って
シンラさんは言ったけど、

私、物でもないし、ソウマくんの何でもない。

でも待ってみた。
ソウマくんがいつも居た場所に居たら
ソウマくんのことが少しでも分かるような気がして。


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