見出し画像

地理旅#6「カタール編〜描かれない国を目指して」

2014年の暮れ、僕は世界の宗教対立の中心に立っていた。イスラエルの事実上の首都・エルサレムだ。この都市には、ユダヤ教徒とイスラム教徒、キリスト教徒の3つの宗教の聖地がある。とりわけ、イスラム教徒のパレスチナ人とユダヤ教徒(ユダヤ人)との間に勃発しているのが「パレスチナ問題」である。

ただし、問題の本質は、宗教の対立だけではない。中東周辺国や欧米諸国も巻き込んだ利害関係が、複雑に絡み合っている。

…というのは、教科書に書いてあること。お恥ずかしい話だが、社会科を教えている僕自身が「シュウキョウタイリツ」とか「コクサイフンソウ」という言葉に、全く実感を持てずにいた。だから口から出てくるのも教科書通りの用語だけ。授業をしている中で、どこか遠くの出来事・・・で終わらせてしまっていた。

ただ、多くの日本人にとって「宗教」や「民族」などといった概念は馴染みがないのも事実だ。僕にとっても、実感や切実さがなかったからこそ、次の旅先は中東に決めた。

世界一お金持ちな国

中東への旅はカタールの首都、高層ビルが立ち並ぶドーハから始まった。秋田県より狭い面積の小さな国。豊富な天然資源を背景に、一人あたりのGDPが一時は世界最高になったこともある。

アラブ首長国連邦(UAE)などと並んだ産油国だが、限りある天然資源以外の産業を興すために、貿易や観光業、スポーツにも力を入れている。2022年にはサッカーワールドカップが開催されることで知っている人も多いだろう。

完成したばかりのハマド国際空港には、自前の航空機がズラリと並ぶ。アジア・ヨーロッパ・アフリカの真ん中に位置しているという地理的優位性から、航空業も急成長を遂げている。

余談だが、カタール航空は座席も広く、備え付けのスクリーンも大きく、そしてご飯も美味しい。ドーハ市内の無料ツアーもあって、それでいて割安なため、個人的には「また使いたくなる」航空会社である。

wallpaperaccessより引用


世界一退屈な国?

ドーハの街を歩いていると、建物も自動車も、全体的にやたらと「白い」ことに気付く。

訪れた12月末は最高気温が20度ちょっとで過ごしやすかったが、夏になると平均でも40度を超え、過去には最高で67度を叩きだした灼熱の砂漠だ。

暑さ対策で、熱を吸収しにくい「白」が多く使われているのだ。

石油は水より安いと言われ、移動はもっぱら自動車。酷暑で夏場は外を歩くのが辛い。また、異様な数のエアコンが至る所に設置されており、屋内は寒いほど。

それにしても、スタジアムに冷房は設置されるらしいが、こんなところで夏場にサッカーやったら、どうなるんだろ・・・。

ちなみに、カタールは「世界一退屈な国」としてガイドブックに不名誉な紹介をされたことがある。とはいえ何かあるだろう・・・と思い、ドーハの街を散策することにした。

地理教師としては、礼拝所だったり、メッカの方角を示した案内板だったり、お酒が一切売っていなかったり、食料品がほぼ全て輸入品だったり・・・楽しめるポイントはたくさんあるのだが(笑)

そうは言っても、見た限りで娯楽と呼べるものはショッピングモールの中にあるスケートリンクくらいだった。これから、ますます発展が楽しみな国である。


国民に遭遇しない国

ところで、タクシーに乗っても、ぶらり歩いていても、あまりカタールに来たなぁ!という感じがしない。それもそのはず、街中で会うのは、インド人かフィリピン人かエジプト人か…。市場を歩くと、香水とカレーの匂いが鼻をつき、なんとも言えないカオスな雰囲気を醸し出している。

カタールの人口は約280万人だが、カタール「人」はおよそ1割の30万人程度しかいない。残りの9割近くは外国人居住者なのである。中東有数の産油国ということもあり、出稼ぎ外国人が圧倒的多数派となっている。

「世界一お金持ち」とはいえ、それは少数派のカタール人に限ってのこと。多くを占める出稼ぎ外国人とは大きな所得の格差がある。中東産油国に行ったら、見たこともないような宮殿がたくさんあって・・・というのは、勝手に妄想していた偏見だった。

ちなみにカタール人は、男性が白い民族衣装(カンドゥーラ)、女性が黒い民族衣装(アバヤ)を着用しており、見かければすぐに判別できる。


描かれない国を目指して

カタール滞在最終日に訪れたのが、MUSEUM OF ISLAMIC ART(イスラム美術博物館)である。外観は石灰岩で覆われ、館内には7世紀のコーランなど、15,000点以上の貴重なイスラム美術品が展示されている。

1枚の中東諸国の地図を前にして、足を止めた。あれ、ある国家が描かれていない。

・・・イスラエルが、ない。この地図では、Palestine(パレスチナ)と表記されている。

ああ・・・そうか。周辺のイスラム諸国は、ユダヤ教徒が建てたイスラエルを承認していないのか。イスラム教徒であるパレスチナ人は、ユダヤ人が建国したイスラエルに土地を追われている。同胞を迫害するイスラエルという国は許せん!という構図だ。もちろん、ユダヤ人にとっては「奪還」ということになるのだが・・・。

この目に焼き付けよう。正義と正義のせめぎ合いの舞台を。

この記事が参加している募集

旅のフォトアルバム

地理がすき

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?