Spoon

日々の生活の中で起こったなんとなく不思議に思うことを話にまとめています。

Spoon

日々の生活の中で起こったなんとなく不思議に思うことを話にまとめています。

最近の記事

東京タワーはどこですか?

その日は残業を終え,帰宅の途に就いたのは深夜2時頃であった。 喫煙室で一服し,他にも作業に当たっている社員に挨拶をしてエレベーターに乗る。 季節は秋,オフィスを出たときにひんやりとした夜気に包まれた。 会社を出てすぐの大きな交差点でタクシーが来るのを待っているとき,どこからか視線を感じた。 タクシーを待ちつつ,視線の主を探ると,少し先に白っぽい人影が見えた。 あたりにはほかに人影はない。 なんとなく違和感を感じて警戒しつつ,遠くからタクシーがやってくるのを見つけ,手を挙げ

    • 押し入れ

      昔,夏の間祖母の家に滞在していたことがある。 祖父母は小さなヨークシャーテリアと暮らしており,祖母はその犬を溺愛していた。 小型犬には珍しく,あまり吠えることのない犬で 足の不自由であった祖母の膝の上で良く寝ていた。 その頃の祖父は片頭痛が時々悪化して寝込むこともあった。 また,日に数回風呂に入るなど,少し変わった生活をしていた。 認知症の初期症状だったのだろう。 昼寝から起きるたび風呂に入りたがるため,お湯は常に沸かしていたがそれ以外には特に何の支障もなかった。 祖父は

      • 旅する石

        友人にご両親の代からの小さな宝石店を継いだフリーランスのジュエリーデザイナーがいるのだが,彼女は客を選ぶことで有名である。 客から購入の希望やデザインの依頼があっても,石との相性を見て,合わない場合は断るのだそうだ。 私自身はジュエリーに関係する依頼を彼女にしたことがなかったのだが,昔からの知り合いであることもあり,約半年に一度お茶をのんだり近況を報告したり,という関係である。 久しぶりに彼女から連絡をもらい,食事に出た時のことである。 その当時の私は,なんだかついていな

        • 学生時代,生態調査のボランティアのためにアフリカのケニアに1ヵ月ほど滞在したことがある。 初めての一人での遠出だったこともあり,ナイロビの空港に降り立った時,深く安堵したこと,不思議ななつかしさをおぼえたことが印象にある。 空港からタクシーに乗り込み,集合ポイントのホテルに向かっている途中のこと,手の甲にしずくが落ちてきた。 何だろう,雨?と思ったとき,自分がぼろぼろと涙をこぼしていることにはじめて気が付いた。 初めてのアフリカにこころは浮き立っていて,わくわくしているのに

        東京タワーはどこですか?

          3階

          つい先日のこと。 こどもの歯科検診のため,歯医者にいった。 かかりつけ歯科の入っているビルは 近代的で大きなオフィスビルの一角にある。 約30階建て,エレベーターは4基ある。 ビルの入り口で受付をすませエレベーターを呼ぶ。 扉の開いた一番右のエレベーターに乗ったところ, 上から降りてきたはずなのに3階がすでに押されている。 とくに気にせず,こどもと一緒にそのエレベーターに乗り込んだ。 しばらくしてエレベーターは3階に止まった。 到着とともに静かに扉が開き,明るいフロアが

          地下街の占い師

          今でこそ些末な出来事になったものの その頃23歳であった私にとっては人生観を揺るがしかねない出来事があった。 生理不順で何気なく婦人科を受診したところ,卵巣の機能があまりよくなかったらしく,その時の主治医が何の説明もなくさらりと 「このままだとたぶんあなたは妊娠できないね」 と私に告げたのであった。 就職したばかりで忙しく,子どもが欲しいと望んだことなどそれまでの人生において一度もなかった。 兄弟数の多かった私はむしろ子どもなど嫌いだと思っていたにもかかわらず 「子どもが産

          地下街の占い師

          深夜の電話

          南米の地方都市を旅行中のこと 最終目的地までの距離が遠く,また渋滞もあったため, 急遽ネットで宿を探すことになった。 アプリに掲載されている値段,レビューをもとにホテルに宿をとり, 1時間ほどのドライブの末,ようやくホテルに到着した。 無事にチェックインを終え,荷物を部屋に入れる。 レビュー通り清潔な部屋で,なかなか良さそうだと思ったのだが, ふと外を見ると少し先に真っ黒な廃墟があった。 建設途中で火事にでもなったのか側面が黒くすすけている。 見ていてなんとなく気持ちの良

          深夜の電話

          カーナビ

          Googleなどの地図サービスの向上により 現在では運転時のカーナビはほぼ必要ではなくなったが, 私が大学生であったころには地図とカーナビは必須であった。 カーナビは車の購入時の地図データしか掲載されていないため, 新しくできた道などは搭載されていなかったことから 遠出する際,新しいところに行く際にはかならず地図を携行し, カーナビに行先を入れていた。 その頃の私は家庭教師のアルバイトをしており, 主に車で生徒の家まで通っていた。 4月になり,新たな生徒が何人か増えたのだ

          カーナビ

          白檀の香り

          ある晩、本棚の奥から取り出した古い写真アルバムを整理していると、 ふと懐かしい香りが立ち上ってきた。 それは幼いころに何度か訪れた祖父母の家の匂いだった。 匂いは記憶と深く結びつくというが, 父と祖父の折り合いがあまりよくなかったため,数度訪れただけの祖父母の家の匂いを自分が認識できることを意外に思った。 白檀のようなその香りは祖母を思い起こさせた。 たまにしか訪れない孫であったにもかかわらず,祖母は私を溺愛しており, いつ着るともわからない着物やアクセサリーを買っては

          白檀の香り

          ワーカホリック

          昔働いていた会社での出来事である。 そのときの上司のY氏はワーカホリックで たまに私が週末に出勤した日にも,Y氏が仕事をしていることが多かった。 ほとんどの人は定時か19時頃に退社する会社であったため, 普段20時以降オフィスに残っている人はまばらだったが,Y氏はだいたい会社に残っていた。 私はその時どうしても間に合わせなくてはならない案件を抱えていて 1ヶ月ほど休日出勤や残業が続いていたが,Y氏もいつも夜中まで残っていた。 そんなある日のこと,Y氏は2週間ほど休暇をとる

          ワーカホリック

          月の大きさ

          体感的な月の大きさが変化することはよく知られているものの 多くの場合は錯覚であったり 地球の公転の軌道により月との距離が近づく「スーパームーン現象」によるものであったりすることはよく知られる。 ただ,一度いままでに見たことのない大きさの月をみたことがある。 外の明るさに誘われるようにベランダに出て ふと見上げた空には普段の月の10倍近い大きさの月がぽかりと浮かんでいた。 そのあまりの大きさに驚き,家族を呼び,皆でしばらく月をながめた。 家の中に戻り,調べてみるものの

          月の大きさ

          もう戻ってきたのかい?

          大学生のころ,休みのたび,一人で特に予定も決めずに海外に行っていた。 その頃はまだスマホも今のように一般的ではなく バックパッカーにとっては情報収集はもっぱらガイドブックや掲示板 という時代で その日に泊まる宿もガイドブックやタクシーの運転手などに聞いて決める,という旅行スタイルが一般的だった。 そのときも大学の中にある小さな旅行社で その時期にお勧めの旅行先を教えてもらい 予算をベースにスリランカに行くことが決まった。 航空券を買った足で書店に立ち寄り,地球の歩き方を入

          もう戻ってきたのかい?

          モテ期

          しばらく前の話ではあるが 唐突なモテ期のようなものを経験したことがある。 といっても相手は高齢女性で,皆75歳以上と推測される方々であった。 (ちなみにSpoonは女性であり,この時20代後半である) この奇妙なモテ期が始まったのは 出先から会社に戻ろうと地下鉄に乗った日のことであった。 車内は比較的空いており,打ち合わせの内容を携帯のメモにまとめていた。どこからともなく視線を感じて顔を上げると,視線の主は正面に座した満面の笑みの高齢女性であった。 向こうがこちらを見つめ

          モテ期

          「?」

          娘の習い事の待ち時間の間,買い物をすまそうと夫と2人で近くのスーパーに立ち寄った。 駐車場はまあまあにぎわっていて,買い物フロアである上階に上るエレベーターも混雑していた。 エレベーターは2基。 大きなカートの人が2名いたため,最初に到着したエレベーターを見送り, 続いてきたエレベータに夫と二人で乗り込んだ。 何気なく上階のボタンを押し,エレベーターの扉が静かに締まる。 扉が閉まったあと,エレベーターが少し下がるような感覚を覚えたが, エレベーターはそのまましばらく静止

          「?」

          自己紹介のようなもの

          日々の生活の中にも 時々うまく理解できない出来事は落ちているもので ふとそうした話をまとめてみようと思い立ち 登録後2年近く放置していたnoteに投稿を始めました。 ここに投稿するのは怖い話というわけではなく,考えてみると,あれはいったいなんだったんだろうなあ?変な経験をしたなあ,という程度の話をつらつらと綴ります。 現在南米在住です。 よろしくお願いします。

          自己紹介のようなもの

          刺すような日差しのなかの南米の幽霊譚

          友人A,Cと3人で食事に出た日のこと。 こどもについて,教育について,引っ越しについて他愛のない話をしていたのだが,ふと友人AがそういえばSpoonさんのお宅の近くに入居しないほうがよい物件があるらしいよ,と話をはじめた。 入居しないほうがよい物件はここサンパウロには山ほど存在する。 大家が強欲でトラブル対処が悪かったり,修繕が不十分で雨漏りがあったり,虫(特にアリ)がよく出る物件であったり。 その手のトラブルだと思い,話を聞くと そうではなく,幽霊が出るんだって と彼女

          刺すような日差しのなかの南米の幽霊譚