深夜の電話

南米の地方都市を旅行中のこと

最終目的地までの距離が遠く，また渋滞もあったため，
急遽ネットで宿を探すことになった。
アプリに掲載されている値段，レビューをもとにホテルに宿をとり，
1時間ほどのドライブの末，ようやくホテルに到着した。

無事にチェックインを終え，荷物を部屋に入れる。
レビュー通り清潔な部屋で，なかなか良さそうだと思ったのだが，
ふと外を見ると少し先に真っ黒な廃墟があった。
建設途中で火事にでもなったのか側面が黒くすすけている。
見ていてなんとなく気持ちの良いものではなかったので
そのままカーテンを閉め荷ほどきを行った。

移動の疲れもあり，夜はでかけずにピザをオーダーし
部屋で食べ，早々に寝支度をする。
10時前には家族とともに就寝していたと思う。

夢も見ずにぐっすりと眠っていたのだが，
その深夜，けたたましい音で目が覚めた。
部屋の電話が鳴っている。

ただ，自分の部屋だけではなく，まわりの部屋のすべての電話が鳴っていた。

何かの誤作動か
電話を取るべきか。

疲れていて布団は心地よいし，起き上がりたくなかった。
寝ぼけた頭で考えているうちに電話が止まった。
時刻を見ると深夜2時すぎ。

翌日フロントに文句を言おうと心に決め
トイレにだけ行き，ベットにもどり，私はまたすとんと眠りに落ちた。

翌朝のチェックアウトでフロントの女性に昨夜の出来事を話したところ
別の宿泊客からもクレームが入っていたそうだ。
ただ，その時間を担当していたフロント係の話では，
フロントから一斉に電話をかけた履歴もなく，
なぜそんな時間にそんなことが起こったのか皆目わからないと告げられたようだ。

「このホテル，たまにそういうことが起きるのよね」
と他人事のように彼女は続ける。

「前にも深夜にフロア全体に一斉に電話が鳴ったことがあるんだけど，業者に調べさせても原因はさっぱりわからないのよ。
誰かが電話をとると音が止まるらしいんだけど，
電話をとった人の話では『ゴーッ』という風のような音がするだけなんだって」