見出し画像

ワーカホリック

昔働いていた会社での出来事である。

そのときの上司のY氏はワーカホリックで
たまに私が週末に出勤した日にも,Y氏が仕事をしていることが多かった。
ほとんどの人は定時か19時頃に退社する会社であったため,
普段20時以降オフィスに残っている人はまばらだったが,Y氏はだいたい会社に残っていた。
私はその時どうしても間に合わせなくてはならない案件を抱えていて
1ヶ月ほど休日出勤や残業が続いていたが,Y氏もいつも夜中まで残っていた。

そんなある日のこと,Y氏は2週間ほど休暇をとることになり,ヨーロッパに旅立っていった。

Y氏がいないとオフィスは20時頃にはほぼ無人となる。
作業の大詰めが近い私は一人でオフィスに残って作業を行っていたのだが,ふとY氏の机のあたりから,時々パソコンのキーを叩くような音がすることに気づいた。

不審に思い,立ち上がりパーテーションの向こうにある上司の机をみるが
ライトは消えているし,そこにはだれもいない。
だが,座って作業をしていると,やはり時々パソコンの音や
椅子のきしむ音がする。
誰かが働いているような気配があるのだ。

そもそも私には霊感的なものはないのだが,
その時の気配は嫌なものではなく,
普段そこに座っているY氏が普通に働いているような感じがあった。
なんとなく不思議な気持ちにはなったが,
とにかく余裕がなかった私は考えるのをやめ,自分の仕事を片付けることに集中することにした。

そんな状態が何日か続いたが,次第に状況にも慣れ,
私は気にせず残業を続けていた。
努力の結果,抱えていた案件がようやく大詰めをむかえ,
仕上げのため,その晩は派遣のAさんとBさんが深夜まで残業をしてくれることになった。
フロアの全員が早々に退社し,
Aさん,Bさん,私の3名でもくもくと作業をしていたのだが,
その晩もY氏の机のあたりからキーボードの音がする。

状況にすっかり慣れていた私は気にも留めなかったのだが,
Aさんが恐る恐る
「なんかあっちから音がしませんか…?」
とBさんに話しかけ,Bさんは
「Y氏がいつものように残業してるんじゃないですか?」
と返答し,二人納得していた。
だが,Y氏はまだ休暇中である。

怯えさせるものいやだし
何より私自身早く帰りたかったので,そのまま二人の会話に口をはさまず,
全力で作業を終わらせることに集中した。

数時間後に長かった作業が終わった。
雑談をしつつ片付け,部屋を消灯し,施錠をしようとした私にBさんが
「Y氏,席を外しているだけではないですか?電気消して施錠してよいのですか?」と聞いてきた。

そこでY氏は休暇中であることを正直に告げたところ
「え…だってキーボードや椅子の音が…」
とAさんBさんは気味が悪そうに顔を見合わせていた。



ちなみに休暇を満喫したY氏はその数日後無事に戻ってきた。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?