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3階

つい先日のこと。
こどもの歯科検診のため,歯医者にいった。

かかりつけ歯科の入っているビルは
近代的で大きなオフィスビルの一角にある。
約30階建て,エレベーターは4基ある。

ビルの入り口で受付をすませエレベーターを呼ぶ。
扉の開いた一番右のエレベーターに乗ったところ,
上から降りてきたはずなのに3階がすでに押されている。

とくに気にせず,こどもと一緒にそのエレベーターに乗り込んだ。
しばらくしてエレベーターは3階に止まった。
到着とともに静かに扉が開き,明るいフロアが見える。
しばし停車したのち,再びエレベーターの扉が締まり,
われわれは目的階へと移動した。




何事もなく検診を終え,再びエレベーターを呼ぶと,今度は左から2番目のエレベーターが到着した。
こどもと話をしながら何気なく乗り込み,地上階のボタンを押し,壁際に移動する。

扉が締まり,エレベーターが動き出してすぐのこと。
「ピッ」という音とともに3階のボタンが点灯した。

こどもも私もエレベーターの奥の壁際に立っており,
ボタンが触れる位置にはいなかった。
われわれのほかに人は乗っていない。
しかも古びたエレベーターであり,しっかりと押さないと
ボタンは反応しないはずなのだった。


目の前で突然ボタンが点灯したため,こどもが驚き
「おかあさん,押してないよね?」
と声をかけてきたが,私はもちろん3階など押していない。

「誤作動じゃない?」とこどもには声をかけたが
正直,胸の内がざわつく。


そうこうするうちにエレベーターは3階に到着した。
扉があいた瞬間のフロアは真っ暗であったが,一瞬の間のうち
ライトがぱっと点灯しフロアが明るく照らされる。

すこし停車したのちエレベーターの扉が静かに閉まり,
何事もなかったのように地上階へ移動した。
オフィスビルを出ると外はからりと晴れていて,
こどもと話しながら徒歩で気持ちよく帰途に就く。




その日はそのままのんびりとした一日を過ごしたのだが,
眠りにつく頃,ふとエレベーターの誤作動について思い出し,
感じた違和感の正体に気が付いた。

あのオフィスビルのエレベーターフロアのライトは人が来た時だけ点灯するようにすべてモーションセンサーにより管理されている。
帰りのエレベーターが3階に到着した時フロアのライトは消灯状態で
扉が開いてすぐ点灯したのだがフロアは無人であり
そもそもエレベーターから降りた人もいなかったはずである。

あれは本当に誤作動だったのだろうか?


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