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学生時代,生態調査のボランティアのためにアフリカのケニアに1ヵ月ほど滞在したことがある。
初めての一人での遠出だったこともあり,ナイロビの空港に降り立った時,深く安堵したこと,不思議ななつかしさをおぼえたことが印象にある。

空港からタクシーに乗り込み,集合ポイントのホテルに向かっている途中のこと,手の甲にしずくが落ちてきた。
何だろう,雨?と思ったとき,自分がぼろぼろと涙をこぼしていることにはじめて気が付いた。
初めてのアフリカにこころは浮き立っていて,わくわくしているのにこの涙は一体何なのか?


ぼろぼろ流れる涙はしばらく止まらず,私が泣いているのに気が付いたタクシーの運転手が心配そうにバックミラー越しにこちらを眺めている。


自分にも涙の原因はわからず,途方にくれた気持ちになる。
幸いなことにホテルに着くころには涙も止まり,何事もなくチェックインすることができた。


翌日調査グループと無事に合流し,さらに地方にある小さな湖に向かう。
カバやワニなどの野生動物の気配におびえつつ,調査網にかかったザリガニをひたすら網から外したり,魚の数を数えたり,虫の分類を行ったりと
地味な作業を毎日黙々とこなした。
夜には網にかかったザリガニをカレーにしたり,採った魚を食べたり。
世界各国から集まったボランティアメンバーをわいわい楽しい日を過ごした。

働いて,食べて,遊んで
あっという間に1ヵ月が過ぎ,帰国の日を迎えた。
この滞在で私はこの国が大好きになった。
帰国時には心の一部を置いていくような切なく寂しい気持ちになったが,必ずまたいつの日か戻ってこようと心に誓った。


その10年後,再びケニアを訪れる機会を得た。
駆け足での出張であったが,ナイロビの空港に再び降り立ったとき,
懐かしく,うれしい気持ちで胸がいっぱいになった。

空港からはタクシーを拾い,予約していたホテルまで意気揚々と向かう。
この10年ですっかり近代的に,きれいになった街並みを感慨深く眺めてつつ,これからの仕事について考えていたとき,ひざに雨粒のようなものが落ちたことに気が付く。

また泣いていた。
自覚のないままにぼろぼろと泣いていた。
原因はもちろんわからない。
でも前もこんなことがあって困惑したことをありありと思い出した。

同じ経験が繰り返されたことで
次回来るときも,同じようなところできっと私はまた泣くのだろう。
原因はわからないけれど,自覚もないけれど,この国の何かが私の魂の奥を震わせているんだろう,と変に納得したのであった。

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