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短編小説

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2023年7月の記事一覧

【めんどくさいやつら】

【めんどくさいやつら】

 僕の好きな君は、どれくらい「君」と言えるのだろうか。君の好きな僕を、どれくらい「僕」と言えるのだろうか。同じなにかを持ち合わせる誰かがいれば、替えが利くのではないだろうか。

「そういう、面倒臭いこと考えるとこが好き」

 そう言ってくれる物好きは、やっぱり君しかいないのではないだろうか。

【冗談】

【冗談】

「得意なことの欄に、冗談、と書いていますね」
「はい」
「やってみてください」
「面接官さん、浮気してるでしょ」
「はい?」
「丁度、隣のその人と」
「そ、そんなわけない」
「今もトイレに連れ込んでヤることしか考えてない」
「口をつつしめ!」
「やだな。“冗談”を言えと言ったのはあなたでしょう?」

凍らせ屋

凍らせ屋

 なんでも凍らせるとウワサの『凍らせ屋』という男がいる。彼は今、とある大金持ちの道楽に付き合わされていた。
「私の全てを凍らせてみせよ」
 大金持ちの要望を聞いた男は了承し、指を鳴らすと、
「今、あなたの全てを凍らせました」
 と言った。しかし、大金持ちには何の変化も無い。
 貴様、ほら吹きだな、と大金持ちが言いかけた、その刹那。側近が部屋へ飛び込んできて言った。
「主様、あなたの銀行口座が全て凍

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【恐ろしい人々】

【恐ろしい人々】

 昨夜のニュースでにぎわう職場。殺人、強盗、企業の不祥事うんぬんかんぬん。罪人や著名人に対し、憂さ晴らしの如く飛び交う罵詈雑言。

 我関せずと働いていると話を振られた。

「お前も恐ろしいと思わないか?」

 確かに恐ろしいと思う。

 赤の他人になら容赦なく石を投げられる、あなた方のような人たちを。

【それでも日々は続く】

【それでも日々は続く】

「明日から来なくていいよ」
 事実上のクビ宣告。これで何度目だろうか、バイトを辞めるのは。

 夢を抱き上京して数年、夢どころか生きるのがやっとの日々。
 ふらりと立ち寄ったタワレコで、一つも刺さらなかった昔のヒット曲を聞く。

 あれ、こんなに良い曲だったか。
 生きる辛さを、並べただけの歌詞なのに。

【同士討ち】

【同士討ち】

 ポストに郵便が。ストーカー男の手紙で、今夜うちに来るという。ぞわっと鳥肌が立ったところで携帯が鳴る。

『私メリーさん。もうすぐあなたの家』

 ああ、災厄がブッキングしとる……と絶望した途端ひらめいた。

 部屋中央に携帯を置き、押し入れに隠れしばし待つ。ストーカーが侵入すると、携帯が鳴り――

【力自慢】

【力自慢】

「ははっ、筋肉は全てを解決するッ」

 そう言い放つ力自慢に、地図を見せる。

「この国の名は?」
「アメリカ」
「ロシアな」

 間違えた力自慢は数秒間姿を消し、再び現れた。

「ニュース見ろ」

 言われた通り見てみると。

『とんでもないことが起きました!』

 二つの国の位置が、入れ替えられていた。

すれ違い

すれ違い

 季節は春。
 桜舞う中、大学の卒業式を数日後に控えたその日。

「30まで独身だったら結婚しよ?」

 卒業を前にして、幼馴染は語る。
 彼女とは小さい頃からずっと一緒だ。

「ははっ。30まで独身とか無いわ」

 俺は自信満々で答える。
 今まで彼女ができたことなんて無い。
 そんな俺でも、

「さすがに30まで未婚だなんてありえない」

 だってあと8年だぞ?
 社会人になれば大人の魅力も出

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高精度

高精度

 使い始めた匿名のチャットアプリ。
 相性のいい人とマッチングするらしい。

『会社にムカつく奴が居るんです』

 マッチングした相手にメッセを送る。

 ――すぐに返信がきた。

『いますよね、そういう人』

 私への同意。
 彼にもそういう人がいるのだろうか?

 更に返信をするべく、
 テキストを打ち込んで送信すると。

『でも、憎めない人なんです!笑』
『だけど、憎めないんですよね~』

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【寂しさよ、こんにちは】

【寂しさよ、こんにちは】

「ぼっちなの?」
「うん」
「ウケる。寂しそ」
「平気」
「じゃ、嫌がらせで絡んじゃおw」

 思えばそれが出会いだった。
 15年後、ヤツは今棺の中で安らかに笑う。
 平気じゃねえの? とからかうように。

「……平気じゃねえよ」

 最後まで嫌がらせしやがって。
 涙を拭い、したり顔に花を添えた。

【終わる友情、始まった恋、終わる恋】

【終わる友情、始まった恋、終わる恋】

 彼に告白された。

「それで?」

 彼と私の共通の友人がたずねる。

「OKした」
「そ」
「で、なんであんなことしたの?」

 彼女は先日、私の目の前で彼に告白し、フラれた。

「ああでもしないと進めないでしょ?」

 それに、と私を見て微笑む彼女。

「好きな人に幸せで居て欲しいから」

 その好意が、酷く痛かった。

【Bの諦め】

【Bの諦め】

 彼とは友達。
 そう言うと、友人は彼に思いもよらぬ告白をした。

「だったら私にもチャンスあるよね?」
「え」

 突然過ぎて動揺が隠せない。

「前から好きだったの。いいでしょ?」
「な、な……」

 なんで。嘘。

「ごめん、僕、好きな人いる」

 当の彼は私に言う。

「好きだ、君のこと」

 男女の友情は今、終わった。

【Aの決意】

【Aの決意】

 隣にいる彼女から、今まさに一線を引かれた。

「だったら私にもチャンスあるよね?」

 かと思えば、彼女との共通の友人に告白された。

「前から好きだったの。いいでしょ?」

 驚いたが、気持ちに嘘はつけない。

「ごめん、僕、好きな人いる」

 隣の彼女を見つめる。男女の友情なんざ知らん。

 僕は、君が好きだ。

【Cの告白】

【Cの告白】

 男女の友情は成立する。二人はそう言った。

「だったら私にもチャンスあるよね?」

 私は彼を見つめる。

「え」

 激しく動揺する彼女。

「前から好きだったの。いいでしょ?」
「な、な……」

 慌てふためく彼女。そこで、場を制すように彼が。

「ごめん、僕、好きな人いる」

 その視線は彼女を捉えて離さなかった。