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凍らせ屋

 なんでも凍らせるとウワサの『凍らせ屋』という男がいる。彼は今、とある大金持ちの道楽に付き合わされていた。
「私の全てを凍らせてみせよ」
 大金持ちの要望を聞いた男は了承し、指を鳴らすと、
「今、あなたの全てを凍らせました」
 と言った。しかし、大金持ちには何の変化も無い。
 貴様、ほら吹きだな、と大金持ちが言いかけた、その刹那。側近が部屋へ飛び込んできて言った。
「主様、あなたの銀行口座が全て凍結されました」
 それだけ言うと、側近は大金持ちの館を去った。給料が貰えないとなれば、生きていくことができないからだ。
 それからメイド、庭師、執事。大金持ちに仕える誰もが次々と館を去った。大金持ちと彼らを繋いでいたのは金だ。金こそが、大金持ちの全てだった。
 去って行った彼らの代わりと言わんばかりに、取り立て屋やら、得体の知れない連中が、たたみかけるように館の扉を叩き始めた。
「なあ、助けてくれ!」
 ドンドンと戸を叩く音が館に響く中、大金持ちは乞うようにして、凍らせ屋に両手を合わせた。
「外にいる連中を凍らせてくれ。なんでもする!」
 大金持ちの懇願にも男は涼しい顔。
「すみません、ひとつ凍らせるのを忘れていました」
 男はそう言うと、玄関扉の鍵をゆっくりと開錠した。
「これで、全部」
 それと同時にならず者連中が館に押し入ってくる。大金持ちの顔が恐怖で凍り付いたのを横目に、凍らせ屋は口角をくい、と上げ、館を後にした。

<了>

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