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つまり、あなたと一緒にいたい。


真夜中のデニーズで、レモンパフェを食べながら背徳に敬礼している。

上の部分はあんなに美味しかったのに、下にいくにつれてバニラアイスに浸りきった甘ったるいフレンチトーストしか出てこなくなって飽きた。
「ミニパフェにしといたらよかったな。」なんて、都合がいいか。自分で選んだくせして後悔してるところがまるでダメだ。

『奥の方まで全部好きかは、奥底までちゃんと知ろうとしない限り分からない。』

そんなことは、真夜中0時のデニーズに、教えてもらうようなことではなかった。



【愛】

誰か1人の人の人生と、自分自身の人生を、ちゃんと深く交じり合わせようとするとこんなにもしんどいんだなと思う。

好きだとかいうそんな気持ちに、怖さすら感じる。

私が相手に思う好きという感情も、相手が私を思ってくれる好きという感情も、両方、80%くらいあればそれで十分だった。

100%の好きは辛い。

好きがいっぱいになると苦しい。

自分で自分を制御できなくなる感覚が耐えられない。心臓はただの臓器なのに、好きな人を思うと途端にギューッとなるあれが嫌だ。

運命なんて、自分がそうなのだと自認さえすれば、勝手に仕立て上げることのできる勘違いの産物だ。

そんなもの、あるがわけない。

そうやって、自分に言い聞かせながら、もう年単位の時間が経ってしまった。



【罠】

嫌いになる理由が特に無いことが辛いだなんて、そんな最低な悩みをもった。本当に好きなのか確かめる為に好きなところだって100個書いたし、それがちゃんとスラスラ出てきたことに安心したし、このままそれなりに幸せになれそうだし、それでいっかって、そう思っていた。

好きという感情は、辛い。

余裕がなくなるのがすごくすごく辛い。
その人なしじゃ生きられなくなるのなんて苦しいに決まっている。

いちいち心配したり、妬んだり、やきもきしたり、不安になったり、一喜一憂したり、そういう感情の起伏に左右されることが心から本当にしんどい。


運命の人になんか、出会わないのが1番だ。
心からそう思う。

だから、それなりの好きな人でいい。

赤い糸なんてのは幻想だ。

運命への過度な期待と、自分本位の勘違いの産物だ。

そう思っていた方が、よほど安らかでいられるんだ。



【美】


ストロベリームーンが、見えなかった。

「恋が叶うとされています」だって。

「今夜20:52に苺色に染まった満月が見られます」だって。


月を見上げただけで叶う恋があってたまるかよ。

そう、思うのに、それなのに、iPhone左上の20:52の表示を見たとたん、脊髄反射的に空に月を探していた。


夏目漱石も見つめていたであろうあの月が、いくつもの時代を超えても、私に「月がきれいですね」と、言わせたがっていた。



【with】


結局、曇天の空に、ストロベリームーンは現れなかった。

人生なんて、そんなものだ。
「もしかしたら」とか「現れたら運命だと思い込もう」だとか、そんな上手く愛されちゃうわけがないじゃない。

ストロベリーパフェやけ食いしたら、少しは報われるのだろうか。

そう思って押し開けたデニーズの扉。
それだのに思わず頼んだのは、ストロベリーじゃなくて、レモンのパフェだった。

小さすぎる抵抗が、虚しくて、哀しくて、情け無かった。

バニラの溶けたフレンチトーストを噛み締める。

この甘ったるさがまるで自分みたいだった。


【優】


親友から召集がかかった。

彼女たちの顔を思い浮かべる。

きっと彼女は自分の正しさにちゃんと自信があって、軸をちゃんと持っていて、私の間違いにもずっと気が付いていた。

出会った時のままの破天荒さなら、もうとっくにビンタされていたと思う。「自分の心に嘘ついたまま生きんな」って。そういうヤツなのだ。

ビンタされなかったことが、もうお互いに大人になったってことを気付かせてくれた。大人になるってことは、つまらなくなるってことかもしれない。

そのかわり、電話で「ちょっと悩んでてさ」ってそれだけ言っただけで、夜の新幹線に乗って家まで猛進してきて、明け方まで話を聞き続けてくれた。

あの日からもう既にひと月が経ち、季節は秋になってしまったというのに、あの夏の夜の新幹線代を無駄にさせるわけにはいかなかった。

彼女らに会う前に、ちゃんとしよう。

そうやって思った。

辛くても、間違ってると分かりながら続ける辛さなんかエゴだ。



♢♢♢




彼女たちの元へ向かう新幹線の中で私は、どこまでも飛んでいけそうなほど、心が軽かった。

彼女たちの顔を思い浮かべるだけで会えるのが嬉しくて、マスカラ下地までちゃんと塗ってまつ毛グルングルンに上向きにした。

涙は、流さない。


『アイツらに胸張って言えないようなことだけはしない』


ただ一つの、私の教訓。
心からそう思える親友がいるということ。
それが、私が私の人生を生きてきた中で手に入れた一番の財産で、これからの私の人生を生きていく上での、一番の希望だ。


JR長野駅の改札を抜けると、一通のLINE。

「君たちに会うの嬉しすぎてアイシャドウ濃くなりすぎて取り返しつかない。キラキラしてるから見つけやすいよ。」

同じことしてて笑う。

類は友を呼ぶ。

いつまでも、アイツらにとっての、かけがえのない類でいたいと思った。


だから、私は自分のした選択に、後悔はしない。

恋とか愛とかこの先どうなってくかは全然分かんないけど、でも、まずは出会えたことに心から感謝している人をちゃんと大切に想う、そんな生き方をしていこうと思っている。


この間、100歳の人に言われたよ。
「自分の葬式で泣いてくれる人がいるのがその人の人生の価値みたいに言われてきたけれど、自分が100歳まで生きてみて分かった。本当は自分の葬式に来て欲しかった人達を、最後まで見送り続けるのも悪くないなって。寂しい思い、させないもの。見送られる側は幸せよ。老いってね、別離なのよ。別れはくるの。もうここまで生きたら、毎日が誰かのお通夜よ。それでもね、大切な人が、どうやってその人生を生ききるのか、その物語をすべて見届けさせてもらえて、それから最後に自分の人生を終えられるなんて、そんなのいちばん豊かな人生なんじゃないかしらって、今ではそんなふうに思うわね。」

最高だなと思ったよ。

そして私も絶対に100歳まで生きて、大切な人の葬式片っ端から参列するって決めたんだよ。
親友らの葬式ではバカみたいに号泣しきった後で、火葬場の骸骨に投げキッスしてやるんだ。いつもバイバイする時に私にしてくるあのちょっとキモいやつをさ。

だから、生きて生きて生きていこうね。

これからも、よろしくね。



【愛】

【罠】

【美】

【with 】

【優】

I wanna be with you.


(あなたと一緒にいたい)


最後まで読んでいただき、ありがとうございました。 このnoteが、あなたの人生のどこか一部になれたなら。