晴天・尾長鶏

毎日散文を投稿していきます(休止中)。文芸サークル「葬送系ロボトミーδ3021」主催。

晴天・尾長鶏

毎日散文を投稿していきます(休止中)。文芸サークル「葬送系ロボトミーδ3021」主催。

マガジン

最近の記事

文芸誌に載りました。

お久しぶりです。文芸誌「文芸ラジオ7号」に、以前noteで続けていた「毎日散文」の一部も含めた作品を掲載していただけることになりました。 「双眸」という題名をつけました。散文を観察していると、予想だにしなかったところで文脈がつながったり、どんでん返しがおきたり、知らない風景がひろがったりします。そんなかんじのことを、みてもらえたら。 いくつかの新作とあわせて掲載しておりますので、書店で見かけた際は、よろしければお手にとってご覧ください。 遅い告知。

    • 再生

      The Buildings - Ride On

      私が参加しているバンドの初MVです。

      • 100「パンゲアをはこぶ龍」

         林檎をかじる。雨の湿気が腐食をすすめてゆく。林檎を出してくれた男は、自転車屋の息子で、わたしの幼なじみである。口数はすくなく、一本の錆びついた刀を持ち、果物屋の未亡人を愛している。趣味であつめている赤い花は、珍しいものばかりである。刀とならべられるほどの痩身をゆらし、そのうちに、激しさとせわしなさを秘めている。  街から、人が消えてゆく。大陸が、分離してゆく前からそうであったように、1匹の龍が、公営団地に稲妻を落とし、ちいさな火事をひきおこす。それが、龍の最後の稲妻となり

        • 099「洗濯機のなかで」

           青い闇に満ちた洗濯機のなかで、馬術にあこがれる幼い少年が殺される。すべてが静止する11月の某日に、少年は、ねじれたまま、月のように、ふくれあがってゆく。くりかえし青い夢をみる。少年は、盲目のまま生まれ、海の香りだけを知っている。  母たちが、猿のように笑っている。不具の子を洗濯機に押しこむ様子が、母たちに中継されている。乳房から一滴の母乳がこぼれ、少年の家の庭に、蛇苺に似た植物が生いしげりはじめている。  叩きこわされた高層ビルに、熱水噴出孔が接続され、巨大な上昇気流を

        文芸誌に載りました。

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        • 毎日散文
          99本
        • 散文
          22本
        • 音楽レビュー
          3本
        • 2本

        記事

          098「魔境の春」

           火山の麓の村で、呉服屋を見つける日は、人々の消える、静かな春の日だ。紺色の反物ばかりがならぶ、せまい店の奥で、白髪の男が、ちいさな盤を弄んでいる。どこで見かけたこともない、銀色の盤に、畳針のようなものが、林のように、群れをなして立っている。呉服屋の窓から、葬列が見える。ふるい活気の香りが、黒ずんだ壁や床に染みている。  魔境と呼ばれる村で、わたしの両親が生まれたのだということを、羊皮紙の手紙が、知らせたのだ。無名の科学雑誌によれば、まもなく、噴火にのまれ、村は燃えつきると

          098「魔境の春」

          096「聖火」

           灰皿におとされた聖火を、貪るものはなく、あなたは、わたしの鳥の首を締めている。それが遠い昔からつづく、団欒のひとかけらであるかのように。鳥はオルガンのような声をしぼりだし、床板のしたで、赤い服を着た幼女が、毒のある蛙に変化してゆく。  磁場に睾丸をくわえこまれたまま、わたしは学童保育所で、氷を食べたことをおもいだす。金色の紙を独楽に貼りつける、回転のうつくしさを、わたしは、薔薇の孤独にすりかえて、ひとり、ほほえんでいる。暗黒の夕立。稲妻が、青白い電柱に落下する。あなたは、

          【いつもみてくださっている方へ】 いつもありがとうございます。「スキ」にはいつも励まされております。 突然ですが、「毎日散文」につきまして、長編の制作のため、一旦「100」で更新をストップさせていただきます。何卒ご理解いただければと思います。

          【いつもみてくださっている方へ】 いつもありがとうございます。「スキ」にはいつも励まされております。 突然ですが、「毎日散文」につきまして、長編の制作のため、一旦「100」で更新をストップさせていただきます。何卒ご理解いただければと思います。

          093「かたなと姉」

           片栗粉をまぶされた姉は、口のまわりの粉をはらってあくびをする。彫刻家ばかりの家で、姉だけは、彫刻刀を持たない。矢が好きで、弓のことはよく知らない。電灯を見かけた昼に、砂のような姉は、あらゆる人の靴によりそっているのだ。フライパンの上に、一匹の海老がいる。これから料理されるのか、ただ単に、そこに置かれているだけなのか。料理されれば、よいのにとおもう。だが、わたしがそれを決めても、仕方のないことなのだろう。彼の、銃身のような足が、フライパンの外まで突きだされている。  死霊の

          093「かたなと姉」

          090「老境」

           いつか、貝をひろいに、山をのぼらなければならない日に、わたしは、折れた風見鳥のころがっている木陰をながめながら、生姜焼きを食べる。ならんですわっている老婆は、その腕よりも厚そうな、書類の束に、すばやく、目をとおしてゆく。老婆は、書類の内容を、ほとんど、おぼえていない。ある書類に、黄金比、という言葉が、たくさんでてきたので、黄金比、という漢字だけは、たしかにおぼえている。  測量士の男が、1枚の書類に涙をおとす。マイクロプラスチックが、彼の体内に侵入してゆく。彗星が地球から

          089「ニヒル・パフェ」

           チョコレート・パフェの頂上から、さらに高く盛られたホイップ・クリームに指をしずめる。まわりに誰もいないとき、わたしは手で物を食べる。一族の風習や、伝統や、食器との確執があるわけではない。舌だけでなく、指でも味を堪能したい、というだけのことだ。舌先で感じるような甘みや苦味とは、まったく別の、唾液を放出させる、痛みや支配、安堵、興奮にも似た、激しい味覚を察知する機能が指にはある。  クリームをすくった指ごと口にはこぶ。おもっていたよりも甘くない。ケーキにも使われるようなクリー

          089「ニヒル・パフェ」

          088「塩の瓶」

           寝て起きると、いつも、掛布団が左によっている。そしてときどき、めくれあがった布団の下に、塩がちらばっている朝がある。日によっては、量も多く、ちくちくする結晶が、背中にまで、いくらかはりついていたりする。ぼくは、それを、小さな箒ではきあつめ、小さな酒瓶につめて保存している。色とりどりの塩が堆積し、瓶は、色彩にあふれている。  話すほどでもないことばかりが重なって、午後は、死のように、怠惰である。祖父が植えた椿のうえに、ぼくの拾った歯車ばかり、並んでいる。六年九ヶ月後、椿に落

          088「塩の瓶」

          086「硝子の子」

           ある硝子職人が、ひどく長引いた梅雨の小屋で、風鈴を作りつづけている。ただれた手で、吹き竿をささえ、彩色するのは、妹にまかせている。安全靴には、落としきれなかった精液がこびりついている。国境沿いの工業地帯に、異様に細い煙が、悪夢のようにのぼりつづけるのを、ひどく、忌みきらう人々がいる。その人々をまた、排除しようとする人々がいて、紛争と工場の対比の写真を撮りにくる写真家はあとをたたない。対立する群衆どうしのなかで、時折、恋に落ちる若者がいて、街を逃げ出すこともある。  夏のた

          086「硝子の子」

          084「霊歌」

           合唱団と戦闘機が、海岸に打ちあげられる。実用されているはずのない古い時代のものらしく、各分野の専門家がやってきて、調査がおこなわれている。海洋学者や、地質学者もやってきて、しきりに、写真を撮っている。だが、実際に海岸まで来てみると、学者は、どこにもいない。そこには、ただ、男たちが集まって、思いおもいに、遊んでいるだけなのである。  わたしが、いくら喉がかわいて、飲むものがなくとも、街の喫茶店にゆくわけにはいかないのも、いわば、遊びである。しかし、道中に見える街灯の数を、覚

          083「コガネムシ」

           保育園の屋根を、コガネムシがのぼってゆく。園児らは、瞳のように、せわしなくうごく。滑り台の頂上に、春にしか咲かない花が分解され、捨てられている。空き缶と、トカゲと、白い画用紙は、思いがけない日差しをあびて、ひとつ、またひとつと、よみがえる。  世紀末の空港に、木の根が、入りこんでゆく。小さく、漢字のように見える場所が、いくつかあるが、木の根は、漢字を作ろうとしているわけではない。明朝の朝礼。社訓を暗唱しつづける壮年の男の群れは、みな左手に、板麹のような受話器をにぎっている

          083「コガネムシ」

          082「鬼と縁日」

           数人の鬼とともに、縁日をめぐる。鬼たちは、金魚すくいの出店を眺め、なぜあの紙は破れるのかとわたしに聞く。出目金は、自らの命を弄ぶように、悠々と泳ぎながら、水槽の壁でその身を削っている。神社までつづく提灯の列を、首をかたむけ、避けてゆく鬼がいれば、わたしよりもちいさな鬼もいる。はるか遠くまでつづく出店の、鮮やかな屋根と人々の顔色が、もの悲しい夏の処刑台を照らしている。  1匹の鬼が、火炙りにされる。猛暑に見舞われた村において、それは、暗黙のうちに決定される、ありふれた伝統で

          082「鬼と縁日」

          081「人参」

           花瓶のような寝室で、電球を割った夜は、しんしんと、笛の響く、痛ましい、祭りの夜だ。主催者が、老人の集団から、大酒飲みの若い男に変わり、年に一度しかない祭りのはずなのに、もう何ヶ月も繰りかえし開催されている。あらゆる家は、踊りのための太鼓と称して、はげしく殴打される。もはや一切は、誰にも、予測できないのだ。祭りによって、わたしたちは、櫓を組み、笑いつづけなければならなくなる。  林檎の香りのする虫が、よく、階段の手すりに、とまっている。雑然とした、影ばかりのしめった廊下だ。