100「パンゲアをはこぶ龍」
林檎をかじる。雨の湿気が腐食をすすめてゆく。林檎を出してくれた男は、自転車屋の息子で、わたしの幼なじみである。口数はすくなく、一本の錆びついた刀を持ち、果物屋の未亡人を愛している。趣味であつめている赤い花は、珍しいものばかりである。刀とならべられるほどの痩身をゆらし、そのうちに、激しさとせわしなさを秘めている。
街から、人が消えてゆく。大陸が、分離してゆく前からそうであったように、1匹の龍が、公営団地に稲妻を落とし、ちいさな火事をひきおこす。それが、龍の最後の稲妻となり