082「鬼と縁日」

 数人の鬼とともに、縁日をめぐる。鬼たちは、金魚すくいの出店を眺め、なぜあの紙は破れるのかとわたしに聞く。出目金は、自らの命を弄ぶように、悠々と泳ぎながら、水槽の壁でその身を削っている。神社までつづく提灯の列を、首をかたむけ、避けてゆく鬼がいれば、わたしよりもちいさな鬼もいる。はるか遠くまでつづく出店の、鮮やかな屋根と人々の顔色が、もの悲しい夏の処刑台を照らしている。


 1匹の鬼が、火炙りにされる。猛暑に見舞われた村において、それは、暗黙のうちに決定される、ありふれた伝統である。すでに、田畑はひび割れ、水は腐敗し、村人たちは皮膚病におかされている。彼の死を、鬼たちも、見とどけなければならないという。乾杯の音頭がとられる。太い柱に、背のひくい鬼が、縛りつけられている。松明から、薪に火がうつされ、無数の手のような、火炎が立ちあがる。人々が、周囲で白々しく両手をあわせている。わたしと鬼たちは、少し離れた丘から、彼を見つめる。天災は、生贄によってのみおさめられると、今でも、信じられている。焼かれてゆく鬼の角の影が、ぼんやりと浮かびあがって見える。鬼たちは、静かに、笑っている。笑うことが、鬼の弔いなのだ。本当は、誰も、笑いたくはないのかもしれない。生贄になるのは、いつでも、鬼ばかりである。


 火柱は高々とあがり、鬼たちは、わたしに、綿飴を買ってほしいという。いくつも綿飴を注文すると、出店の男が、黙ったまま、金を、受けとろうとしない。誰もが、鬼に、敬意に似た同情ばかりを向けている。鬼の瞳は、ひどく乾いている。秋はやってこない。わたしは、次の縁日の日まで、病室にうずくまっている。

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