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きらわれリコちゃん

リコちゃんの日課は、朝起きたら赤いチューリップにお水をあげ、お昼には自分の顔よりも大きなホットケーキを食べることです。
誰にでも優しく、赤いスカートがよく似合う可愛いらしい女の子です。

そんなリコちゃんは嫌われています。

なぜならリコちゃんは人間ではなく、トマトだからです。
それが理由で、リコちゃんはトマト嫌いな子どもたちから嫌がらせをされていました。

トマト嫌いな子どもたちがいつもやって来ては、リコちゃんの赤いスカートを端を引っ張って破いてしまうのです。
リコちゃんは自分がおいしくないから悪いんだと思って、いつも「ごめんね」と謝りますが、子どもたちは許してくれません。
夜にリコちゃんは破れたスカートの端を針でチクチクと縫って直し、それから眠ります。
こんな日がほぼ毎日続いていました。

そんなある日。
この日も子どもたちが嫌がらせにやって来ました。
いつものようにリコちゃんは、スカートの端を引っ張られ、昨夜縫ったばかりのところを破かれてしまいました。
いつもならこれで子どもたちは帰っていくのですが、その日はそれだけでは済みませんでした。
その日の子どもたちは、お母さんから「好き嫌いしないで食べなさい!」と怒られたので虫の居所がひどく悪かったのです。
その結果、スカートを破くばかりでは気が済まず、リコちゃんの髪を引っ張り、挙げ句になんとリコちゃんが毎朝お水をあげて大切に育ててきたチューリップを勢いよく踏みつけたのです。

「うわぁぁぁぁん!!」

潰れたチューリップを見てリコちゃんは大声で泣き出しました。
それを見た子どもたちはびっくりして、まずいと思ったのか慌てて帰っていきました。
その夜、リコちゃんはスカートも直さずに踏まれてくしゃくしゃになったチューリップを握りしめて一晩中泣いていました。

朝方にようやく泣き止んだリコちゃんは、子どもたちに好きになってもらうためにおいしくなろうと決めました。
さっそくリコちゃんは、友達においしくなる秘密を聞くことにしました。

まず美人で有名なニンジンのキャロルちゃんに「ねぇ、キャロルちゃん。どうしたらおいしくなれるの?」と聞いてみましたが、
「何言ってるのよ。リコちゃんは今でも十分おいしいわよ」
そう言って、キャロルちゃんはおいしくなる秘密を教えてくれません。

そこでリコちゃんは、子どもたちから人気のジャガイモのテトくんのところへ行きました。「ねぇ、テトくん。どうしたらおいしくなれるの?」
「どうしたらって、リコちゃんは今でもおいしいじゃないか」
そう言って、テトくんもおいしくなる秘密を教えてくれません。

次にリコちゃんは、占い師である大根のマダムに聞いてみました。
「ねぇ、マダム。どうしたらおいしくなれるの?」
「あら、おかしなことを言うのね。リコちゃんはいつもおいしいじゃないの。」
そう言ってマダムもおいしくなる秘密を教えてくれません。

リコちゃんはソラマメのビンくんやキャベツのミドリちゃんにも聞いてみましたが、みんな「リコちゃんはおいしいよ」と言って、誰もおいしくなる秘密を教えてくれません。

すっかり困ってしまったリコちゃんは、トマトが好きな女の子のミツコちゃんのところへ行ってみることにしました。
「ねぇ、ミツコちゃん。どうしたらおいしくなれるかな?」
「どうしておいしくなりたいの?」
ミツコちゃんは聞きました。
「おいしくなったら、子どもたちが私を好きになってくれると思うから」
「リコちゃんはいつでもおいしいよ」
「みんなそうやって言ってくれるの。でも、子どもたちは私を嫌うの」
「リコちゃん、きっとリコちゃんが今よりももっともっとおいしくなっても、多分子どもたちはリコちゃんのことは嫌いなままだと思うよ」「え、そうなの?」
リコちゃんはミツコちゃんの話を聞いて落ちこんでしまいました。
けど、それを見てミツコちゃんは言いました。「どうしておいしくなりたいの?」
「だから、それは」
「リコちゃんはどうしておいしいって言ってくれてる人たちのことを見ないの?」
「え?」
「リコちゃんはとってもおいしいのに、どうしておいしいって言ってくれてる人じゃなくて、自分を嫌う人たちばかりに目を向けるの?」
ミツコちゃんの言葉にリコちゃんは何も言えませんでした。
「わたしはリコちゃんのこと大好きだよ」
その言葉を聞いたとたん、リコちゃんの目から自然に涙がポロポロと落ちました。
ミツコちゃんはリコちゃんが泣き止むまで、よしよしと優しく頭を撫で続けました。

次の日の朝、リコちゃんは新しいチューリップの球根を植え、お水をたっぷりあげました。
そして、いつものようにトマト嫌いな子どもたちがやってきました。
「おいしくなくてごめんね」と、いつものようにリコちゃんは謝ります。
しかし、トマト嫌いな子どもたちはいつもと違い、
「昨日はごめん」
そう言ったのです。
リコちゃんは驚いて何も言えませんでした。
さらに子どもたちは、
「これ、よかったら」
そう言って、リコちゃんに両手いっぱいのチューリップの球根を差し出し、続けてこう言いました。
「トマト頑張って食べれるようになるから。リコちゃんのこと好きになりたい」
この時、リコちゃんは初めて笑顔を見せました。

リコちゃんの日課は朝起きたら色んな色のチューリップたちにお水をあげ、お昼には子どもたちとみんなでホットケーキを食べることです。
誰にでも優しく、笑顔がよく似合う可愛いらしい女の子です。

そんなリコちゃんはみんなのことがとっても大好きです。


#創作大賞2022

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