ハラスメント 彼女が飛ぶ一歩前 ギリギリの心
その日は
風の強い朝でした。
ジリジリ肌を刺すような日差し、
暑さを煽る蝉の声
時折強く吹く風に、体を持っていかれそうになる
あぁ、このまま風に乗って飛んでいけたらいい
地上から離れる度に、しがらみや、怒り、憎しみ、哀しみから逃れ、高く飛べば飛ぶほどに地上のそれらと繋がっていた糸がプチプチと音を立てて千切れさらに離れていく。
なんて快感なんでしょう。なんて自由なんでしょう!
しばらく風を感じたあと、メールの着信音で我に返った。
開くと「今日は来れないと」いうメッセージ
別に、約束していたわけではないし
急に思い立って誘っただけだから当然想定内だし、
ただ、なんども謝られると余計に惨めに思えてくる。なんて私は身勝手なのだろう。
今日は、心がギリギリだった。
今朝は気持ちが追い詰められたまま、切り替えることが出来ずに引きずっていた。ただ時間に流されて操られるように出勤の支度をしていた。
そのままいつもの時間に家を出られたら間に合う筈だった。間に合えば、たぶんいつも通りに笑顔でおはようと挨拶をし、
落ち込んでる者には声をかけ、気遣い、仕事が滞らないように自分よりも他者を優先的に考え働いただろう。それは出勤することで、これまで揺らいでいた選択肢から解放されるからだ。もう迷うことはない、だって会社に着けばあとは仕事すれば良いだけだから。
そして朝の苦しい気持ちは、もはやどうってことないと思えただろう。
しかし、今朝は違った。
どうしても誰かに話を聞いて欲しくなった
そうでないと、自分がどうにかなりそうだった。
このまま会社に行ったら私は今後一生自分の気持ちを素直に表現出来なくなると思った。
他人から私は悪くないと言って欲しかった。
だからそう言ってくれそうな人にメールした。
メールを打ちながら、私はすでに思いが叶ったような気分になり、それからのことを想像していた。するとふわりと気持ちが軽くなり、それまで閉ざされていた思考がキラキラと閃き始めた。楽しいこと,行きたい場所、やりたい仕事、自由な未来、ものすごいスピードで閃く。
すっかりその気になった頃、話を聞いてくれる筈だった人から「今日は行けない」と断りのメールが届いた。
私は、「分かった、ありがとう」とだけ返した。
私の一方的な思いだから,仕方がないのだけど、なんだか腹が立って、それから見捨てられたようで悲しくなって涙目になる。
カフェに入り、トールサイズのカフェラテとアップルパイを頼んだ。アップルパイは温めますか?と聞かれたので温めで欲しいとお願いした。
カフェラテを飲みながら、今の哀しみがどこから来ていて、それは正しい判断だったのか考えた。
自分の思いを正当化する為にハラスメントの一部始終を時系列にまとめ、当時の感情も書き残した。夢中で書いているうちに、その時の情景と気持ちを思い出し、もう涙が溢れて止まらなくなった。周りの客に気づかれないように、わざとコンタクトがずれたフリをして涙を拭った。
アップルパイはすっかり冷めてしまっていた。
添えてあったステンレスの冷たいナイフとフォークを掴み一定のリズムで手を動かす。
すでに固くなったアップルパイはなかなか切り離せない。強く握ると切った弾みで飛んでいきそうな気がするから,力を入れることが出来ない。
少しずつ少しずつ、左右に引き離すように切り込みを入れる。パイは何層も畳まれて焼いてある。一番下のバターが染みた層は思ったより固く中々切れない。
ナイフを差し込みながら、なんだか自分の優柔不断な心のように思えて、また涙が溢れてきた。
離れたくても離れられない、思い切って突き放したくても弾みで飛んでいきそうで怖くて思い切れない。
こんなに辛いのに、会社を辞められない弱い人間と自分で自分を卑下して落ち込んだり、いや悪いのは私じゃない、悪いのは相手だと怒りが込み上げてきたり、感情のコントロールが効かず頭がおかしくなりそうだった
冷静になった時、悪いのはハラスメントをした相手であり、それを注意し改めない会社だ。私が会社を辞める必要は無いという結論に至った。
でも,どうやったらこの状況を改善させることが出来るのだろうか。
それから、ネットでハラスメントの相談ができそうな窓口がないかを調べてみる。
会社の内部では揉み消されてしまうだろう。
それでなくても、居た堪れない状況になるだろう。
調べていくと、そこに書かれていたのは
まずは相手にその行為を止めるように言う。
時系列で記録しておき、上司に相談する
転職を考える、などだった。
悩み続けて身体を壊す前に転職をして環境を変えることを勧めているのだ。
何故私が?悪いのは私じゃないのに何故私が辞めなくてはならないの?
転職と一口に言うけどこのご時世では難しいし、今以上の条件に出会える保証はない。
さらに、転職をすることによるストレスは大きい。
これでは何のための相談窓口なのか?
続
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ハラスメントはあってはならないことです。
今や企業のリスクマネジメントにおいて欠かすことの出来ないものとされています。
SNSコミュニケーションの現在は、レピュテーションリスクに備えることも必須となってきました。
まずは、当事者を作らない努力をすること。
そのためには、企業、経営者がまずハラスメントは許さないと言う姿勢をしっかりと公言してください。その上で、ハラスメント、メンタルヘルスの相談窓口を設けきちんと稼働させることです。さらにそれを従業者にわかりやすく告知すること。そしてハラスメントとは何かを教育することです。
これらを行うことで、経済的な損失も人材の損失も防ぐことができます。これが出来れば、従業者からの信頼を得、それは社会からの信頼に繋がります。今も昔も優れた経営者に共通するのは、「企業価値を上げる為には、まず人を大切にすること」です。
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