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神田です。美術批評と上方落語に関心があります。コミックス「テニスの王子様」を毎日1話ず…

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神田です。美術批評と上方落語に関心があります。コミックス「テニスの王子様」を毎日1話ずつ、約1年かけて分析します。▶ZINEに参加しました(https://jodofukugoh.stores.jp/items/6434dcf2c7a8720029af5363

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    演劇に関する記事をまとめたマガジンです。

  • 「テニスの王子様」を分析する

    Genius1(第1話)からGenius379(最終話)まで、1話ずつ取り上げ「テニスの王子様」のマンガとしてのおもしろさについて考えます。毎日更新予定。

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公演評 掲載のお知らせ

ロームシアター京都のWEBマガジン「Spin-Off」で、公演評を書きました。 「太古のリズムと現在の音が重なるとき」というタイトルで、強い没入感のある音楽について考えたりなどしています。是非お読みください。 こちらは2023年6月にロームシアター京都ノースホールで行われた 打楽器とエレクトロニクスによる公演「Sound Around 003」について書いたもので、メインアーティストは日野浩志郎さん。コラボレーションアーティストとして古舘健さん、藤田正嘉さん、谷口かんなさ

    • 半径50cm以内の会話劇:努力クラブ『まぎれられてたのにね』レビュー

       舞台の中心には、なにもない――これは比喩ではなく、大道具もなければ小道具もなく、役者もいない。本作はほとんどのシーンで(と言っても動きのある場面はごくわずかなのだが)、画面としての重心が、極端に右側に寄っている。  上手側の端の方に寝そべる男がいて、その隣でへたり込むように女が座っている。冒頭のシーンでは、男は絶えず女のヒザにふれながら話していて、二人は恋人同士であるように見える。恋人同士、と書くと対等そうに思えるが「寝そべる/へたり込む」二人は横と縦、つまりクロスする位

      • 「テニスの王子様」を分析する(131):ざわめきと静けさ

        対照的なコマが、連続して並べられる。 見た目、あるいはデザイン上の違いとして、 黒色が主体のコマと白色が主体のコマであることは分かりやすい。 それだけでなく、使用されるフキダシも大きく異なる。 トゲのように鋭利なフキダシと、丸いフキダシから受ける印象は大きく異なる。 焦りと、落ち着き。 物語を知らずとも、フキダシの中の文字を読まずとも、それぞれのダブルスが置かれた状況がひと目でわかるコマだと言える。 散文と批評『5.17.32.93.203.204』に、テニプリ論考を寄

        • 「テニスの王子様」を分析する(130):文字を追うスピード

          忍足と向日が、青学の試合を見ながら言葉を発する。 関西弁で話す忍足のフキダシは、ひらがなが多く、 また、関西弁を読むという小さな「つまづき」(アニメ版の印象を差し引いたとしても)(関西弁話者であっても、そうでなくても、他のフキダシに比べるとスラスラと読めないのではないだろうか)によって、柔らかさすら感じられる。 もし、関西弁のフキダシでなかったならば。 やはりこのコマから受ける印象は、大きく変わるように思える。 散文と批評『5.17.32.93.203.204』に、テ

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        • 「テニスの王子様」を分析する
          132本

        記事

          「テニスの王子様」を分析する(129):驚きの表現

          跡部が、驚きの表情で試合を見る。 跡部の表情は大きく描かれ、 その大きさを強調するかのように、背景として描かれる人物たちは小さく描かれている。 跡部の驚きを示すものは、表情だけではない。 顔の少し遠く、このコマの端に寄せられるように内言を示すフキダシが配置され、言葉でも驚きの詳細が表現される。 顔の真横ではなく、背景としての人物を挟んで配置されるフキダシ。 このイレギュラーな配置が、驚きの感情をより強く描き出しているように見える。 散文と批評『5.17.32.93.2

          「テニスの王子様」を分析する(129):驚きの表現

          自分とフィクションがつながるとき:第32次笑の内閣『12人の生まない日本人』劇評

           人間の脳というものは、どうにも不安なことを次から次へと見つけ出そうとしてしまうものらしい。とはいえ、そんな性質があってもなくても、物価高、進まない復興、戦争、止められない虐殺……不安になるようなことは探さずとも見つけられてしまう。そんな世界で、論理的に「反出生主義」について説く人物が現れたらどうなるだろう。  『12人の生まない日本人』は、進行役と書記、そして10人の匿名参加者が集まる会議室が舞台だ。堂島町という名の、架空の、とある地方の町で検討されている小学校の統廃合に

          自分とフィクションがつながるとき:第32次笑の内閣『12人の生まない日本人』劇評

          「テニスの王子様」を分析する(128):異なるふたり

          顔(表情)に陰影が書き込まれず、あっさりとした線で描写される乾。 その乾と会話をしている海堂は、1コマ目の乾とは対照的に 陰影がよく分かるように描写され、かつ汗も複数描かれている。 さらに海堂のフキダシは、コマの枠を超え 乾のフキダシに重なるように、つまり乾の言葉を遮るような形でせり出している。 ここでは絵の重みと、フキダシの重み、その両方で乾と海堂の違いが明確に描かれている。 散文と批評『5.17.32.93.203.204』に、テニプリ論考を寄稿しました。 📚WE

          「テニスの王子様」を分析する(128):異なるふたり

          「テニスの王子様」を分析する(127):不一致が示すもの

          忍足によって発声された「セリフ」はないものの、 跡部の言葉と、忍足本人の内言により心情が描かれる。 うっすらと笑みを浮かべるかのような跡部の表情と、目元の奥行が強調される忍足の表情は対照的だ。 そして「!?」や「!!」という差し迫った状況を感じさせる記号とは対照的に、「ヤロウ」「やれるモン」といったカタカナ表記は軽やかにも見える。 ちぐはぐにも思えるような、緊迫感とゆるさの落差が、忍足の追い詰められた状況をより強く感じさせているのかもしれない。 散文と批評『5.17.

          「テニスの王子様」を分析する(127):不一致が示すもの

          「テニスの王子様」を分析する(126):意識を向けさせる

          「スッ」という効果音を手掛かりに、読者は 桃城が上げた腕の先に目を遣る。 次のコマと、さらにその次のコマでは 同じ構図の絵が続き、 「サラ…」という音から、髪が風で流れるわずかに上向きの風の流れを感じることができる。 この3コマにおいて、菊丸の瞳の動きが もっとも目を引くが、それ以外の動き(桃城の腕が向かう先、風の吹き方)もすべて同じ方向に向かっていることが分かる。 次に起こる出来事への補助線が、何重にも引かれているようだ。 散文と批評『5.17.32.93.203.

          「テニスの王子様」を分析する(126):意識を向けさせる

          マンガの中で駆け回る、自由な身体――『北極百貨店のコンシェルジュさん』論

           「百貨店」と聞いて思い浮かべるのは、どのような景色だろうか。入口すぐにあるきらびやかなジュエリー売り場、花束のようにさまざまな匂いがまじりあうコスメカウンター、いくつも扉が並ぶ大きなエレベーター、長いながいエスカレーター、明るい婦人服売り場、シックな紳士服売り場……。きらびやかな内装、セルフレジとは異なる丁寧な接客……。こういった買い物客としての目線とは別の、百貨店の印象がある。街のランドマークともなるような、大きな「建築物」としての百貨店だ。  西村ツチカのマンガ『北極

          マンガの中で駆け回る、自由な身体――『北極百貨店のコンシェルジュさん』論

          「テニスの王子様」を分析する(125):目と目を合わせる

          菊丸と桃城が、目を合わせる。 そしてフキダシではない方法で、ことばを掛け合う。 清潔さ(あるいは爽やかさ)を示すかのように、輝く歯がはっきりと見える。 つまり、口が開かれている。 しかし歯は閉じたままだ。 フキダシがなく、口も閉じているこのコマでの会話は、実際に音として交わされた言葉なのだろうか。 お互いの心の内をそれぞれが読み取ることで成立している、目と目で交わされた会話のようにも読み取れる。 このことはダブルスの試合に挑むペアとして、以心伝心の萌芽を感じさせる。

          「テニスの王子様」を分析する(125):目と目を合わせる

          「テニスの王子様」を分析する(124):ボールが辿りつく先

          向日が返した球が、菊丸の手と足の間を通り抜けていく。 ともにアクロバティックなプレーを得意とする向日(1コマ目)と菊丸(2コマ目)が、ここでは鏡で反転させたかのように描かれている。特に向日の右手と菊丸の左手は、指の曲げ方までもが同じような形だ。 しかし、余裕そうな向日とは対照的に、菊丸の表情は少し慌てているようにも見える。 1コマ目で打たれた球は、2コマ目(菊丸の焦り)を貫通し、3コマ目のフキダシ(氷帝の1ゲーム取得)に到達する。 球の軌跡を目で追うことで、自然にゲー

          「テニスの王子様」を分析する(124):ボールが辿りつく先

          「テニスの王子様」を分析する(123):言葉と顔

          「こっちの奴」という言葉とともに、目の前で本人に向かって指をさす。 向日は、意図的に挑発するかのような態度をとりつつも、 菊丸の名前を知っているし、アクロバティックで「有名である」ことも受け入れるかのような言葉を続ける。 忍足の表情は描かれず、文字のみで表現される菊丸と向日の対比が印象的なコマだ。 散文と批評『5.17.32.93.203.204』に、テニプリ論考を寄稿しました。 📚WEBショップにてお買い求めいただけます📚

          「テニスの王子様」を分析する(123):言葉と顔

          「テニスの王子様」を分析する(122):大きく描かれる

          ハチマキを巻いた桃城が、大きな学校旗を振る。 その姿は後ろからも、前からも描かれている。 正面の桃城はキリリとした表情ではあるが、よく見ると目の下にクマが書き込まれている。 前夜に応援のためのハチマキを自作するシーンがあり、その寝不足によるクマだとも読み取れるのだが、 この「応援に徹する」という態度に至るまでの葛藤も同時に感じられる。 レギュラーとして大会に出場したい気持ち、 しかしそれがかなわず、とはいえ受け入れるしかないという状況……。 眠れない夜であっても不思議

          「テニスの王子様」を分析する(122):大きく描かれる

          「テニスの王子様」を分析する(121):視覚的な間(ま)

          手塚のフキダシの「不二は」という言葉のあとに、空白が続いている。 コマの左端にはチャイムの音があり このことからも、わずかな時間の経過が感じられる。 さらに、話しかけられた不二も、 手塚への呼びかけの直前に「――」という無言の時間がある。 これらの間(ま)は、果たして不二は、本当に「弟想い」なのだろうか?と読者が一瞬立ち止まる時間を与えている。 と同時に、このコマの続きへの わずかなためらいも感じられる。 散文と批評『5.17.32.93.203.204』に、テニプリ

          「テニスの王子様」を分析する(121):視覚的な間(ま)

          「テニスの王子様」を分析する(120):気になる存在

          コマの外から、リョーマの言葉がせり出してくる。 読者にとってはまだ馴染みが薄いであろう「跡部」が、どの登場人物を指すのかを端的に説明するという「機能性」があるセリフだ。 しかし、それと同時に。 桃城のフキダシより大きく、文字も多く、装飾的な小さな文字までも伴って話すリョーマが、跡部を大きく意識しているようにも読み取れる。 散文と批評『5.17.32.93.203.204』に、テニプリ論考を寄稿しました。 📚WEBショップにてお買い求めいただけます📚

          「テニスの王子様」を分析する(120):気になる存在