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「この街に来て、『生きていること』が表現だと思うようになった」〜岡沢じゅんと歩く松本〜

 野外音楽フェスなのに、「街」に近いフェス、りんご音楽祭。りんごをきっかけに松本を訪れる人たちに、松本の街をもっともっと楽しんでもらうための本連載「りんごよりみち」。松本在住のりんご音楽祭出演アーティストと街を歩きます。

 第二回のゲストはロックンローラーにして絵描きの岡沢じゅんさん。松本市内の「カフェマモー」の店主でもあるじゅんさんと一緒に、松本の街を歩きます。

1.早くて安くておいしい!安定の町中華「若松食堂」

岡沢じゅん 「若松食堂」は昼くらいに起きて、「どこいこうかなー」って時によく来るんだ。人を連れてくることもあるよ。おれ、ここではラーメン以外食べたことないんだよね。ソースカツ丼とかも気になるんだけど、いつもラーメン頼んじゃう。

ーーじゃあ、ラーメンにしようかな。すいません、ラーメン3つと餃子を一つ。

若松食堂のお父さん あいよ!こってり?あっさり?

岡沢じゅん こってりで!前、友だちがあっさり頼んでたからちょっともらったんだけど、おれはこってりが好きだなぁ。

ーー若松食堂さんは、松本で長くやっているお店なんですか?

若松食堂のお父さん うちは長いよ!もう50年以上になるね。おじいちゃんが始めた店で、おれは二代目なんだ。息子が二人いるんだけど、そのうちの一人も松本の市場で中華料理屋「食堂四川一よし」をやってるよ。

ーーへー!息子さんも中華料理屋さんなんですね。

若松食堂のお父さん おれとは全然似てないけどね!なんだ、今日は有名人ごっこか?大将、しょっちゅう来るもんなぁ。うちのファンなんだよ。いっつもラーメン!

ーー「りんご音楽祭」の企画なんですよ。松本に住んでるアーティストに町を案内してもらうんです。

若松食堂のお母さん りんご音楽祭?あぁ、あの丘の上でやってるやつね。なぁに、あなた歌うの?

岡沢じゅん そうなんだよ〜。このへんだとりんごのお客さんはあんまりこないかな。

若松食堂のお母さん そうねぇ。観光客の人なんかもあんまり来ないしね。うちはだいたい職人さんがお昼休憩にくるね。昔からずっとそう。ラーメンと半チャーハンのセットが一番よく出るかな。

岡沢じゅん ここは料理が出てくるのが早いからなぁ。待ち時間があんまりない。パッと出てくるんだよ。

2.松本で巻き煙草を買うなら、松本駅前の「伊勢屋商店」

岡沢じゅん 普段、市内の移動は車と歩きが半々くらいなんだけど、「伊勢屋」には運動不足解消のために歩いていくことが多いね。週に2回くらいは来てるね。巻き煙草がたくさんあるんだよ。

ーーほんとだ、いろんな種類の煙草がありますね。巻き煙草が買えるのはここだけなんですか?

岡沢じゅん そういうわけじゃないんだけど、ここは種類がたくさんあるんだよね。日本の煙草屋さんが作ったオリジナルブレンドの煙草なんかも置いてるの。伊勢屋商店ブレンドも作ればいいのに〜。

ーー伊勢屋商店さんは、松本で長くやっているお店なんですか?

伊勢屋商店の店主さん 創業110周年になります。最近カウンターを新しくしたので最近のお店だと思われがちなんですが、結構歴史が長いんですよ。元々は、雑貨や燃料を扱う商店でした。

岡沢じゅん えー、そうだったんだ。今じゃ、雑貨なんてないじゃないですか。店内でよくジャズ流してますよね、お好きなんですか?

伊勢屋商店の店主さん 詳しいわけじゃないんですが、好きですね。一日中流していても疲れないので。歌が入ると疲れちゃって。

岡沢じゅん ……僕、歌い手なんですけどね(笑)今日ね、りんご音楽祭の町歩き企画なんですよ。おすすめのお店を案内するんだけど、僕がしょっちゅう行くお店ってここぐらいだから。

伊勢屋商店の店主さん あぁ、そうだったんですね!りんご音楽祭、年々大きくなってますよね。りんごの時期だと、駅前に泊まる方も多いので立ち寄ってくれる方も多いですね。

ーー知らない土地にくると、煙草が買えるお店や吸えるお店の情報って気になりますよね。

岡沢じゅん 煙草吸えるところ、最近かなり減ってるしね。駅前だと、すぐ近くの「信濃館」って喫茶店も煙草吸えるからよく行くよ。

3.散歩をしていて見つけた「気になる建物」……?

岡沢じゅん お店以外のおすすめの場所、どこにしようか考えたんだけど……。最近気になってる建物があるから、ちょっと歩くんだけどそこでもいいかな?

ーー気になる建物……?そこでお願いします。じゅんさんはよく散歩するんですか?

岡沢じゅん 「カフェマモー」を始めてから、みんなが遊びにきてくれるから自分が出ていく機会が減っちゃったんだよね。だから、さっきの「伊勢屋」みたいに外に出る機会は意識的に作るようにしてるかなぁ。

ーー「若松食堂」から「伊勢屋商店」さんも、地図上だと遠く感じましたが歩くと案外近いですね。松本の街並みをみるのも楽しいし。

岡沢じゅん そうそう。案外歩けちゃうんだよね。あっ着いた、ここだ。上手に改装したら、お店になると思うんだよなぁ。「賃貸」って紙が貼ってあるの。場所は秘密にして!おれが目をつけてるから。まぁ、文字通り目をつけてるだけなんだけどね(笑)

ーーじゅんさんは、こういう場所を見つけるために街を歩いているんですか?

岡沢じゅん いや、そういう目的はないけど……。でも歩いてて気になる建物があると「いいなぁ」と思って近づいていっちゃうな。でも、「ここでお店やればいいのに〜!」って思うだけ。だけど、今おれがやってる「カフェマモー」はそう言ってたら「じゃあやる?」って言われて始めたの。

4.岡沢じゅんさんの松本の拠点:「カフェマモー」

ーー「カフェマモー」は、基本は知人友人が遊びにくるお店なんですか?

岡沢じゅん そうだね〜。でも、一応Google Mapにも載ってるから年に10人くらいは全然知らない人がふらっとやってくることもあるよ。よく見つけてくれるよねぇ。

ーーじゅんさんが「カフェマモー」を始めたのは、「ここでお店やったらいいのに」が実現したからだったんですね。

岡沢じゅん もともと、「カフェマモー」が入ってる「marsmoo」って事務所の屋根裏に住まわせてもらってたんだ。そこが友だちたちの溜まり場になってて。「お店やってもいいよ」って言われたのを聞き流してたら、当時乗っていたハイエースが、事故で廃車になって保険金がおりて。お金もあるし、じゃあやるか〜って感じだね。

ーー事故がきっかけで……!お店を始める前は、飲食店での勤務経験があったんですか?

岡沢じゅん なかったね。ずっと音楽してたから。でも、おれの作るパスタはすっごくおいしいよ〜。

ーーカフェマモーは今年で6周年になるんですね。このポスターの絵はじゅんさんが描いたんですか?

岡沢じゅん そうだよ〜。絵は、描いたりやめたりしてるね。「ちゃんとやってたまるか」って気持ちがあって。ここ数年は「ワチャ〜!」って勢いで描くのが好きだったんだけど、この絵は丁寧めに描いてみたら「いいじゃん」って好評だったな。

 大学進学を機に愛媛から長野にやってきたじゅんさん。学生の頃から長野を拠点に音楽活動を行ってきました。松本の街と音楽についてもお話を聞きました。

同棲解消を経て、失恋の中泣きながら松本へ戻ってきた

ーーじゅんさんのご出身はどちらなんですか?音楽活動はいつから?

岡沢じゅん 出身は愛媛だよ。地元を出て信州大学に進学してから、大学を辞めてイギリスに一年留学してた。そのあと、大学時代の友達が結構長野市に住んでたから、自分も長野に戻ってきたんだ。そこでバンドを組んだのが音楽活動の一番初めだね。

ーー最初は長野市にいたんですね。そこからどうして松本に?

岡沢じゅん いろいろあったね〜。しばらく長野市でバンドをしてたんだけど、2011年の震災をきっかけにホームレスみたいになって。友だちの家を転々としながらライブをして全国を周って、そのとき出会った子と神奈川で同棲してたの。それでその子と別れて行き場がなくなって松本にきたね。あの頃は失恋でずっと泣いてたなぁ。

ーー気になるエピソードばかりなんですが、ホームレスみたいな生活というのは……?

岡沢じゅん ちょうどツアーで全国を回りはじめた頃だったんだよね。家がなかったらさ、帰らなくていいから旅費が片道で済むでしょ?そんな時に震災が起きて、大きな災害が起きた時に、おれは身動きが取れるのかなって思って家を捨てたんだよね。そのあとに彼女ができて同棲を始めたんだけど、別れることになって、お金もないし行き場もないって時に松本の「marsmoo」に住まわせてもらうことになって、松本に戻ってきた。

「一人じゃ自分の壁を超えられない」バンドと弾き語り、音楽性の違い

ーーそこから、「ここお店にしたらいいじゃん」で今につながるんですね。

岡沢じゅん うん、それからもう6年になるね。でも、完全に「お店」としてやってく気はないんだよね。おれはやっぱりバンドでやっていきたいなって思ってるから。

ーー今は一人で音楽活動をされているんですか?

岡沢じゅん そうだね。最後にバンドをしてたのはもう3年くらい前になるかな。今は弾き語りをしてるよ。でも、自分から動くというよりは友達に誘われたらイベントにでる、くらいになっちゃったなぁ。

ーーじゅんさんにとって、一人で歌うのとバンドを組むのではどういう違いがありますか?

岡沢じゅん 一人ってね、やっぱり一人だよ。いい意味でも悪い意味でも、自分を超えられない。一人で100メートルを走るのってつらいでしょ?でも、サッカーとかみんなでやるスポーツだったら、負けても「がんばったね」って言い合えるというか。スポーツで例えるのは違うかもしれないけど……、料理ってする?

ーー料理ですか?たまにします。

岡沢じゅん 自分の味、飽きたなぁって思う時ない?全部おれの味だなぁって。おれ一人で音楽をするのは、調味料一個で挑んでるって感じなの。自分で、「また自分のこと歌ってる!うるせぇ!」って思っちゃう時があるんだよね。おれの味が好きだって言ってくれる人はいるんだけどね。

松本での出会いで「歌」だけが表現じゃないと気がついた

ーーアーティストとして、松本の街で暮らすことについても聞きたいです。じゅんさんは、全国各地を周った経験もある中で、松本から他の土地に行こうとは思わなかったんですか?

岡沢じゅん 思わなかったよ。当時はバンドをしていたのもあるけど、住んでいるうちに音楽の拠点はもう松本になっていたから。神奈川にいたこともあるけど、あっちではみんな音楽を「売れるための通過点」にしている感じがしてあんまり楽しくなかったなぁ。ライブの打ち上げも終電で帰っちゃうの。夜に飲まれる感じがなくて、遊べなかったんだよね。

ーー松本は、じゅんさんにとって「遊べる」街なんですね。

岡沢じゅん そうだね。おれはね、もともとパーティーとか行く人間じゃなかったの。行くようになったのは松本にきてからだね。音楽は、歌詞とか表現が大事だと思ってたから、DJとかも「意味ないじゃん、なにが楽しいの?」って思ってたんだよね。でも今はそうは思わなくなった。

ーーどうして意識の変化が出てきたんですか?

岡沢じゅん マサくんとミキちゃん(marsmooの持ち主の二人)に出会ってからかな。パーティーとかイベントを企画して、人を集めてワチャッとしてるのが、「表現」の一つだと思えたのかも。ステージの上で歌う以上に、人に与えてるものが大きいんじゃないかなって。

ーー松本の人に出会って、「歌」以外の表現を知ったんですね。

岡沢じゅん そうだね。人を集めて場を作る人たちと出会ってから、「いい歌を歌えばいい」って考え方はしなくなったなぁ。あとは、ホームレスをしていたからこそ「場所の力」を感じるようになったんだよね。その場所とか、そこにいる人の空気が出来上がっていると、何を歌ってもいい感じになるんだよ。でも「場」がしらけているとこっちががんばらないといけない。だから自分の場を作ることに興味が湧いて「カフェマモー」も始めたのかも。

アートとは、自分の感覚でいいと思うものが作り続けていられるかどうか

2022年のりんご音楽祭でのじゅんさん。

ーーその意識の変化は、じゅんさんが作る歌や音楽活動にも影響がありましたか?

岡沢じゅん うーん、最近は逆に歌わなくなってきちゃった。「生きていることが表現」みたいな人たちに触れたことで、歌う必要を感じなくなってきたんだと思う。りんご音楽祭でもステージに立つけど、ステージの上にいる時よりドリンカーをしている時の方が気持ちが入るんだ。アーティストって呼ばれるのも最近はあんまりしっくりこなくて。

ーー「生きていることが表現」だと。

岡沢じゅん アーティストとして食ってくのが大変だっていうのは、時代のせいだと思う。もっと景気が良ければ、投げ銭もバンバン集まるかもしれない。だから、無理して時代に争って稼ごうとせずに、時代と共に死のうかなぁって考えてるよ。ゴッホの絵はさ、生前一枚しか売れていなかったって言うでしょ?最近はそういうことばっかり考えちゃう。歴史研究家とかが、後世でおれの音楽を見つけてくれたらいいな。今世に縛られる必要はないのかも。

岡沢じゅん 音楽って、誰に届けたらいいんだろうって考えた時に、おれが届けたいのはおれなんだよね。おれが死んでも、ちゃんとアーカイブされたら音楽って残るじゃん。生まれ変わったおれが聴いて、「ハッ」とする音楽だったらいいなぁって思ってる。自分の感覚でいいって思うものが作り続けていられるかどうか。「若松食堂」のラーメンと一緒で、結局そういう「おれの味」を作り続けるのが好きなのかなぁ。……とはいえ、やっぱりバンドは楽しいから、今世でバンドをやれたらいいなぁとも思ってるよ。今のおれはそんな感じ!また考え方は変わるかもね〜。

ーーじゅんさん、今日はありがとうございました。また松本の街で会いましょう!

じゅんさんのおすすめスポット
・若松食堂
・伊勢屋商店
・信濃館
・カフェマモー

▽「りんごよりみち」オススメマップはこちら!
https://goo.gl/maps/9mZRSz8qCBxFL9SHA

▽岡沢じゅんさんのHP



取材・執筆:風音
撮影:Naka Hashimoto



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