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率先して他人のものを使ってやろうとする姿勢はどうなのだろう。無断で他人のものを勝手に使う行為は許容されるべきなのか?

この世の中は人間とそうでないものによって構成されている。
誰が何と言おうとこの事実は覆えらない。
そして人間は悪いヤツとそうでないヤツによって構成されている。
言いたくはないが、これもまた事実である。

さて、書道教室はチャツウッドの駅の傍のオフィスビルの中にある。
立派なビルとはお世辞にも言えないが、立地条件は悪くない。
立地がいいのにどうして俺はリッチにならないのか。
答えが分かったら是非教えてほしい。謹んで承りたいと思う。

いや、そんな話ではない。

ビルの5Fに教室はある。
そして教室の隣には共同のキッチンがある。

うちも含め5社のオフィスが入っているこのフロアで、それらに出入りする外部からの人間も含めると、そのキッチンを利用する人はまあまあいる。

日本人の俺がちょっと驚いたことがあった。
プラスかマイナスかと言えばマイナスの驚きだ。

食器洗いのために「RENCLUB」のと銘打ってスポンジと洗剤を置いておいたのだが、洗剤はともかく、スポンジまでを無断使用している輩がいたのだ。誰だかは分からないが、誰かである。

RENCLUBと言っても基本的には食器を洗うのは俺一人だから、俺以外の誰かが使ったのはすぐに気づく。

日本人ならピクッとしてしまわないだろうか。
どうして自分たちのものでもない食器用スポンジを自らの食器を洗うのに使うことができるのか、一体どういう神経をしているのか、と。
もちろん日本人の中にもそんなの気にしないという方もおられようが、潔癖症の人たちがあんなに沢山いる日本人である。気にする人の方が多かろうと思う。正直俺は嫌である。

洗剤に関しては、ちょっと拝借、っていうのもまあ理解できる。お醤油貸して、のニュアンスと似ているのか、似ていないのか分からないが、その液体は使い捨ててしまうわけだから構わない。

しかしスポンジはそうはいかない。
何を食ったのか分からない誰かが、どうやって使ったか分からないスポンジだ。何となく使いたくないと思うのが日本人ではなかろうか、と個人的にはそう思う。しかしそれが平気できる人たちがこのフロアにいる。それで俺はびっくりしたのだ。

ただRENCLUBのスポンジに彼らの魔の手が伸びる理由の一つに、分からなくもないものがある。

そのキッチンには長い間、「共同でどうぞ」とは言ってはいないものの、誰が置いているのか分からないスポンジが一つと、いつのまにか補充されている食器用洗剤が存在する。洗剤はともかく、そのスポンジ…。貧乏な家の中学生男子が2年間履き潰したスニーカーのような様相と言ったら分かるのか、それとも貧乏な書家が2年間履き続けているスニーカーのような状態と言った方が分かりやすいのか分かりにくいのか。買って貰った当時の新品の色が全く想像できないほどの変貌ぶりなのだ。躊躇なく手に取る感じではない、と思う。

食器を洗おうとしている輩がキッチンにスポンジを持参しなかった場合、彼または彼女の選択肢は何があるだろう。

1、そのスニーカーを使って洗う。
2、RENCLUBのを無断で使う。
3、洗わない。

まともな神経の輩ではないとはいえ、この中なら2を選ぶのが人情ではなかろうか。ゆえに分からなくもないと言ったのだ。

だからといって許容はできないからスポンジも洗剤も「RENCLUBのだから誰も使うなよ」という貼り紙をしてレンジの向こう側の隅中の隅に隠すように置いていた。

それにしても、だ。
自分の食器を洗うという行為を遂行するためにどうして自分(たち)の食器洗いグッズを持ってこないのか(持ってくるのが嫌なら置いておかないのか)? 率先して他人のものを使ってやろうとする姿勢はどうなのだろう。無断で他人のものを勝手に使う行為は許容されるべきなのか?

あれあれあれ、それが悪人の話かって?
おやおやおや、いつからそんな早とちりさんになってしまったのだ。
スポンジや洗剤を使う無神経な輩を悪人と言っているわけではない。

さてさて、我々RENCLUBはそのキッチンで硯や筆を洗わせてもらっている(使った後は掃除をしているつもりだが、行き届いてない場合はごめんなさい)。

硯を洗うのには食器洗用のと同形状のスポンジを利用している。
そのスポンジは硯についた墨を洗い流すわけだから、当然のように薄黒くなっている(ちなみにウチは大人も子供も墨は水から磨墨させている)。
このスポンジは食器用のスポンジとは別に、電子レンジの裏にちょこんと置いている。

察しの良い方はもうお分かりだろう。そうなのである。

RENCLUBのは使うなよ、と書かれているからそっちは使わずに、なんとその硯洗用のスポンジを食器を洗うのに使っている輩がいる。スポンジに洗いカスが付着しているのでそうに違いないのだ。

しかし、だ。
しかし、である。

俺は何も言わない。何もしない。
誰だか分からないが探しもしない。
ただスポンジを見えにくいところに置いてあげるだけだ。

時は流れ物事が幾度繰り返されようと俺は過ちに気づくようにただ祈るだけである。

ああ、嫌な感じだ。
非難の声が聞こえてきそうだ。
でも俺は何もしない。

悪い奴というのは確実に存在するのである。



※写真はカモメ。

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