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大人は喧嘩しないって思っていたのに



 幼い頃は、大人はとても立派なものに思えた。喧嘩をしないからだ。小学生の頃、嫌な奴の対処に困っていた僕は、「早く大人になりたい」と思っていた。大人になれば、人間関係のトラブルは無くなると思っていたからだ。

 大人が喧嘩しているところを見たことが無かった。

 大人になりさえすれば、笑顔でみんな会話するし、嫌なことは言わないし、痛いこともしてこない。誰か特定の人を仲間はずれにする人もいない。そう、思っていた。だから、早く大人になりたかった。

 学校で何か嫌なことをされてもあまり激しくやり返したり言い返したりしなかった僕は、少々面倒くさい奴らに絡まれることが多かった。

 いじめとまでは全然いかなかったと思うけれど、毎日不快な思いを少しするくらいには嫌な奴らがいた。

 だから、羨ましかったのだ。喧嘩をしない大人達が。
「大人はかっこいいなぁ」と思っていた。

 しかし、少しずつ年を重ねるごとに雲行きが段々と怪しくなってきた。

 少しずつではあるものの、憧れの大人に近づいていっているはずなのに、中学校に上がっても、高校に上がっても、どこの集団に行っても、何らかしらの人間関係のトラブルが起きている。

 とても不思議だった。大人に近づいて行っているはずなのに、なぜ人間関係のトラブルが無くならないんだろう。完全に無くならないにしても、少しずつでも減るものだと思っていた。

 ただ、絶えず周りで起こっている人間関係のトラブルを見ながら、薄々勘づき始めた。人間関係のトラブルは、きっと無くならない。

 どうやら大人は喧嘩を隠すのが上手かっただけらしい。それどころか、表に出てこない分、水面下でじっくりねちねちと陰湿な争いをしているようだ。人間関係のトラブルがどんどん陰湿になっていくことは、小学校から大学に上がっていく過程でも感じた。

 表面上に見えなくなっていくにつれてどんどん陰湿になっていく嫌がらせを見ながら、背筋が凍る感覚がした。

 そこまでして人を傷つけて、いったい何がしたいのだろうか。何の得があるというのだ。

「人間関係のトラブルは無くならないのか……」と幼いながらにとても傷ついた。「成人式を境に、人間関係のトラブルは無くなります」みたいな都合のいいことは起こるはずもなく、僕の希望は打ち砕かれた。


 高校生の頃に、人間関係が嫌になってしまったことがある。いっとき誰とも関わりたくないなと思っている時期があった。

 人間不信とまではいかないけれど、人間に対して懐疑的ではあった。交流を持ったとしても、気の許せる人は本当に極わずかで、それ以外の人達と過ごす時間は全て無駄に思えてしまったのだ。

 仲が良かったとしても、信頼関係は直ぐに壊れてしまうものだ。

 無条件の信頼を置きあえる関係は、そうそう滅多にできるものではない。だからこそ、お金で買えないものとして「信頼のおける友人」というものが挙がるのだろうが、少なすぎはしないだろうか。

「人間関係のトラブルは無くならないのか」と考えている人がいたら、恐らく「綺麗事言ってんじゃねぇよ」と思う人が大半だと思う。

 でも、無くなるのだとしたらそれに越したことはないではないか。僕は、人間関係のトラブルが無くなる方法を、ずっと探している。

 どうやらこの世界では「明るい人」というのが存在できないらしい。明るくあろうとすることはできる。でも、純粋すぎる人は壊れてしまうこの世の中はどうにかならないのかな、とつくづく思う。

 人間関係のトラブルはどうして起こるのだろうか。

 僕は究極的に言えば、全員が自分の人生に夢中になっていないからと、傷ついたことがないからだと思っている。



 人に優しくなるためには、強くならなくちゃいけない。

 大人は背負っているものが大きい。そして、それは子供には分からないものだ。みんな、自分のことで手一杯なのだ。

 喧嘩をしないためには、相手を許すためには、自分に力がいる。自分が折れてあげたり、相手の意見を素直に聞いたり、どうしようもないものを受け入れたりするには、自分にそれだけ力がいるのだ。

 人間関係の争いは無くならない。人が未熟だからだ。
 強くあらなくちゃいけない。人に優しくなるために。


 自分は人に、優しくなれる人になりたい。






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