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「花火」と「幽霊」で、「未練」をどう表現するのか?

――「未練」というテーマを「花火」や「幽霊」をモチーフに作詞していくとき、僕のすることはその掛け算をすることでしか生まれない言葉選びをすること。とっておきのフレーズをつくること。


人生は物語。
どうも横山黎です。

作家、木の家ゲストハウスマネージャー、FMぱるるんのラジオ番組「Dream Dream Dream」のパーソナリティーとして活動しています。

今回は「『花火』と『幽霊』で、『未練』をどう表現するのか?」というテーマで話していこうと思います。


🏨「花火の幽霊」の歌詞が…

僕は今度、泊まれる演劇「花火の幽霊~木の家ゲストハウスからの脱出~」という謎解きイベントを開催するんです。僕の職場の木の家ゲストハウスを舞台に、体験型の謎解きコンテンツを提供することを試みます。

僕は主にそのシナリオを担当しているんですが、他にも、運営やテーマソングの作詞も手掛けています。今回は、そんなテーマソングについての話をしていこうと思います。

「花火の幽霊」は、未練にまつわる物語です。謎解きサークルの合宿中に現れた花火の幽霊と名乗る”声”から出題される謎を解いていくんですが、その目的は、その幽霊を無事にあの世へ送り届けることなんです。

生前やり残したことがあって成し遂げられぬまま命を落として、強い未練が残っていたから幽霊になって現世に留まっている。それが今回の幽霊の設定です。ここに関しては、あまり異なったイメージを持った人はいないと思います。

で、その幽霊が無事に成仏するためには、その未練を解かなければいけません。作中ではその未練のことを「夢」と言い表しているんですが、夢を叶える必要があるんです。その夢を叶えるまでの過程が謎解きになっていて、イベントの参加者はそれを解いていくという建付けというわけです。

物語に触れるのはこれくらいにしておきます。そんな物語が展開されるイベントのテーマソングをつくっていて、その歌詞が確定したので、ここにそれを報告します。


🏨「花火の幽霊」確定版

以前に記事でも触れたんですが、「花火の幽霊」の歌詞は一度書き上げたんです。ただ、時間を置いてもう一度見直したときに首をかしげてしまう部分があったので、書き直すことにしました。

元々は↓のような歌詞でした。

夏が来る度に あなたのことを思い出す
遠くの記憶 轟く夜

線香花火に ひとりきり火をつけると
消えそうな声がした
振り返るも そこには誰もいない

ずっと心の背後で 微笑みを咲かせている
あなたは花火の幽霊 早く消えていなくなれ
そんな願いをかけるくせ また姿を探している
燻る未練の行方 誰か教えてほしくて

夏が来る度にあなたのことを思い出す
遠くの記憶 轟く夜

バケツのなかは 燃え殻ばかりで
そぞろな嘘で濁すの
ねえ 消えて ねえ いなくなれ
焦がされた胸から

やっと弾け消えた声 新たな未来の方へ
季節は巡り巡って 夏の果に蘇る

ずっと心の背後で 微笑みを咲かせている
あなたは花火の幽霊 早く消えていなくなれ
そんな願いをかけるくせ また姿を探している
燻る未練の行方 誰か教えてほしくて

夏が来る度にあなたのことを思い出す
そんな季節も終わるはず いつかは

しかし、この度歌詞を書き変えまして、このような歌詞に変わりました。多分、これで確定です。太字にした部分が変更部分です。

夏が来る度に あなたのことを思い出す
また思い出のそばにしゃがむ

線香花火に ひとりきり火をつけると
消えそうな声がした
振り返るも そこには誰もいない

ずっと心の背後で 微笑みを咲かせている
あなたは花火の幽霊 早く消えていなくなれ
そんな願いをかけるくせ また姿を探している
燻る未練の行方 誰か教えてほしくて

夏が来る度にあなたのことを思い出す
また思い出のそばにしゃがむ

煙る記憶に恋い焦がれすぎて
バケツのなかに焦げ跡

ねえ 消えて ねえ いなくなれ
全部忘れさせて

やっと弾け消えた声 押し殺した思い出
季節は巡り巡って 夏の果に蘇る

ずっと心の背後で 微笑みを咲かせている
あなたは花火の幽霊 早く消えていなくなれ
そんな願いをかけるくせ また姿を探している
燻る未練の行方 誰か教えてほしくて

夏が来る度にあなたのことを思い出す
もうやめにしよう 頭では分かってる

🏨言葉の旅

「遠くの記憶 轟く夜」を変更した理由に関しては以前の記事でも触れた通りで、「花火の幽霊」の「花火」は打ち上げ花火ではなくて、線香花火だから、「轟く」という表現が合っていないことを理由に削除しました。代わりに、線香花火から連想される「しゃがむ」という言葉を取り入れて、過去を回想することを比喩的に表現しました。

Cメロにあたる冒頭部分「バケツのなかは燃え殻ばかりで/そぞろな嘘で濁すの」を「煙る記憶に恋い焦がれすぎて/バケツのなかに焦げ跡」にした理由は、より線香花火に依存した歌詞になるからです。個人的には「そぞろな嘘」という部分がしっくり来ていなくて、花火っぽくはないなと。そこで、注目したのが「焦がれる」という言葉。

「焦がれる」には、「強く思う」という意味があります。また、「恋に胸を焦がす」という表現があり、かつ「焦げる」や「焦がす」には「線香花火」から距離の近い言葉ですので、打ってつけだと判断しました。

落ちサビの「新しい未来の方へ」を「押し殺した思い出」に変えた理由も似たようなもので、後に「夏の果に蘇る」という表現があるから、一度「殺し」ておいた方がいいなという判断です。「花火の幽霊」の「幽霊」に引っかかっているから、無くても十分成立する表現なんだけど、あるに越したことはありません。「感情を押し殺す」という表現が思い付いたので、そこから派生して、かつ脚韻を意識して、「押し殺した思い出」というフレーズに変わったというわけです。

「未練」というテーマを「花火」や「幽霊」をモチーフに作詞していくとき、僕のすることはその掛け算をすることでしか生まれない言葉選びをすること。とっておきのフレーズをつくること。そこにオリジナリティが生まれるし、普遍性が生まれるし、きっと感動も生まれる。そんなことを信じています。

別にプロの作詞家でもなんでもないけれど、少なくとも僕が良いなと思う歌詞は僕がいちばん書けるという自負があります。これを読む人にどう響くかは分からないけれど、ひとつ歌詞をつくるだけでもかなり言葉選びに気を付けているという話でした。最後まで読んで下さり、ありがとうございました。

20240806 横山黎



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