整容動作「洗顔」PT・OT・STのための動作分析と治療のヒント
こんにちは。ReHub林です。
先ほどお風呂に入ったのですが、洗顔フォームを詰め替えるのを忘れていました。
朝起きてからは水で洗いますが、夜お風呂で洗う時は洗顔フォームを使います。
あなたはいつ顔を洗いますか?
その時の身体反応をどのように捉えていますか?
顔を洗うという動作にもこれまで紹介してきた他の活動と同様に様々な課題の要素があります。
理学療法士や作業療法士は洗顔動作に関わることがあるでしょう。食事に関わっている言語聴覚士が、食事とリンクさせて洗顔動作を見ることもあるかもしれません。
課題の要素を深く理解して関われば、立ち上がり動作や食事動作など、違う動作を改善することも可能です。せっかくなのでリハビリ3職種で一緒に洗顔動作を考えましょう。
ということで、今回のテーマは「洗顔動作」です。
メイク落としなどのクレンジングは一端置いておきます。
”色んな「整容動作の要素」と治療のヒント”で要素を簡単に解説するに留めておきましたが、今回はその要素をさらに詳しく解説し、評価・治療のヒントもモリモリにしていきます。
少し似た要素がある「顔を拭く」という整容動作については、YouTubeで配信していますので、ご覧ください。
👉「PT/OT/STどの職種でも使える整容動作の反応と治療応用」
洗顔動作の要素のおさらい
器としての手の形状固定
手と顔面の相互接近
水温・ソープの粘性の検出
ソープと皮膚の二重摩擦の検出
手と顔面・頸部の洗いー洗われる関係性
頭頚部の反応に付随する骨盤・体幹の姿勢制御
清拭時のタオルとの摩擦刺激
以前の記事でこのように列挙しました。
今回は、この中でも太字の3つ深めに掘り下げていきます。
器としての手の形状固定
洗顔は、両手を互いに固定し合い、両手で協働して水を保持し、顔面を覆います。
当たり前じゃん。
と思われるかもしれませんが、生活動作の中で、両手が互いに固定し合う両手動作は少ないのです。
両手で行う洗体動作は、両手で作る洗体タオルのテンションを手がかりにする両手動作のため、近い部分があります。
しかし、洗顔は、両手を正中で押さえ合いながら保持するという点で違います。
さらに細かく考えると、完全な対称動作ではなく、片手が固定役で、反対側がそれに合わせながら安定させています。(※完全な左右対称動作なんてものはヒトにはありません)
私の場合は、どうやら左手をメインに固定・安定させており、それに右手を合わせているようです。
この両手の役割や協調性については、後日「手洗い動作」で詳しく解説します。
「器として」の点でこの両手を考える時、水の重みはごくわずかです。水の揺らぎと両手の隙間からこぼれる水の接触・水温の検出が主な手がかりとして、水を留めるために「器として」の手を作っています。
評価・治療のヒント
👉片麻痺患者の上肢課題において、洗顔動作は両手と顔を通じて縦(頭尾方向)の動きの中で正中を知るという性質があります。両手を固定・合わせることで、水を顔に運ぶ中で中枢部の姿勢調節が行われます。また、中枢部の安定性の左右差を認識しやすく麻痺の程度に応じた両手動作の反応を引き出しやすい特性もあると考えられます。
手と顔面の相互接近
洗顔動作では顔と手がお互いを目指して向かい合います。洗顔動作の中でも非常に重要な課題の特性と言えるでしょう。
顔を手に近づけるために骨盤・体幹の前傾が生じます。座位で実施する場合、立ち上がり動作の「構え」に似た反応が生じつつこの前傾運動が起こります。
そして、さらに頭頚部を屈曲し、手に接近します。
しかし、顔と手が常に同じように向かい合うかというと、必ずしもそうではありません。
●水をすくう場合
手が器として機能しなければならないため、手掌を水平に保とうとするため自由度が制限されます。それに対して、顔面が合わせに向かう反応が強く生じやすいのです。
●洗顔フォームで洗う場合
水を保持する必要が無いため、水に比べて両手の自由度が高い状態になります。すると、ヒトは顔面に対して手を合わせていくパターンを取りやすくなります。
このように、一言に「向かい合う」と言っても環境設定によって反応が異なることも面白いポイントですね。
評価・治療のヒント
👉手と顔が向かい合う反応が乏しい原因がどこにあるか?が重要です。「構え」の反応が難しくて立ち上がりもパワーで立つような患者の場合、下肢のアライメントを整えて床反力を受け取りやすい状態にした上で、体幹・骨盤の制御を補助しつつ洗顔動作に向かわせるというのも一つの選択肢です。これは、単純に「洗顔動作をできるようにする」だけでなく、手と顔が向かい合っていく反応を活用して座位のコントロールを変え、「立ち上がり動作を変える」視点で関わることも可能であるということですね。
👉食事動作で体幹・頭頚部が向かっていく反応が乏しい場合、水での洗顔課題を活用し、手に対して顔面が接近していく反応を引き出すことができるかもしれませんね。もちろん、そういった反応ができるようにアライメントなど姿勢制御の援助は必要な場合が多いでしょう。
手と顔面・頸部の洗いー洗われる関係性
「手と顔面の相互接近」の話から、言いたいことの半分以上は予想されているかもしれませんね。
洗顔動作で顔面を擦る時、手は顔面と、顔面は手との接触刺激をお互いに探索しながら擦り合います。どちらがメインとなって動くかは、上で述べたように手に溜めた水か、引き伸ばした洗顔フォームかによって、変化しやすいです。
ちなみに、私は手を固定し、顔面が向かっていく反応が優位に出やすいようです。(※下図参照)
この擦りー擦られる関係性において、もう一つ重要な点は皮膚の緊張状態です。摩擦刺激と皮膚の反応については「“脱がしー脱がされる”排泄動作」と若干重複しますので、簡単にお伝えします。
皮膚は摩擦の接触刺激に対して、通過させようと緊張を高めます。逆に通過させずに留めて深層を動かそうとする時は、緊張を緩めます。
洗顔で顔面を両手で擦るということは、顔面や両手掌の皮膚の緊張を高める反応が生じやすいということです。
評価・治療のヒント
👉末梢性顔面神経麻痺の場合は顔面半分、中枢性顔面神経麻痺の場合は下顔面筋優位に麻痺が生じますね。その点を理解した上で擦りー擦られる関係性が成立しているのか?皮膚の緊張状態の変化が生じるのか?などを評価します。
食事動作の中で、顔面麻痺によって口唇やその周辺の緊張が高まりにくく食べこぼしが多いとか、頭頚部が向かっていく反応が得られにくい場合。洗顔動作の中でそれらの反応を引き出すことで顔面の緊張が変化し、問題が解決することがあります。また、洗いー洗われる反応の中で頸部・体幹のコントロール能が向上し、口周辺や舌の反応が改善することで食事動作や嚥下機能が改善することもあります。
まとめ
今回は、
「器としての手の形状固定」
「手と顔面の相互接近」
「手と顔面・頸部の洗いー洗われる関係性」
に焦点を当てて解説しました。
評価・治療のヒントも盛り込んであるので、参考にして頂けたら嬉しいです。
その他の生活動作についての解説は以下のリンクからご覧ください。
・「食事動作の要素」を知ってリハビリ専門職みんなでコラボしよう!
・「排泄動作の要素」PT・OTが人としての尊厳を守るための動作分析
・”脱がしー脱がされる”排泄動作 PT・OTのための動作分析
・排泄動作 vs バランス練習~ PT・OTのための評価・治療のヒント
・PT/OTのための更衣動作3つのプロセス
・PT・OTのための動作分析「更衣動作の本質と要素」
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