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脳卒中の感覚障害は良くなるの?②〜記憶と判断を考慮した戦略の提案〜

前回のnoteでは、脳卒中により生じる感覚障害を改善するための、『注意』と『知覚』を中心とした戦略について書きました。

→前回のnote

その中で『認知過程』というものに触れましたが、『認知過程』には『知覚』『注意』の他に『記憶』『判断』『言語』があります。

今回はこのうち、『記憶』と『判断』にフォーカスし、感覚障害を改善するための戦略について考えたいと思います。

結論を書いてしまうと、複数の体性感覚を『比較』するという課題をクライアントに課すことになります。


認知過程

運動療法とは,認知過程(知覚,注意,記憶,判断,言語)を働かせ,新しく発達した運動行動を患者に獲得させることにより病理の克服を目指すものである.(C.Perfettiら著: 認知運動療法, p232)

前回のnoteでも引用しましたが、認知過程とは『知覚』『注意』『記憶』『判断』『言語』からなります。

人が何かを学習しようとしたとき、この認知過程を繰り返し回すことで学習がなされます。

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学習しようとする対象、運動学習の場合には運動時に生じる体性感覚(触圧覚や運動覚)に注意を向けて知覚する必要があることは前回のnoteで論じてきました。

今回はこの認知過程のうち、知覚と注意に続く要素、『記憶』と『判断』を中心に考えていきたいと思います。


記憶

ここでいう『記憶』とは一般的に『記憶』としてイメージされるもの、勉強や暗記をする際に行われる『長期記憶』とは異なります。

どちらかというと『短期記憶』であり、『ワーキングメモリー』と書いた方がわかりやすいかもしれません。

人は何かに意識を向け、認知し、それについて思考したりする場合、一時的に記憶しておく必要があります。

そうでなければ、見たもの、聴いたもの、感じたもの(接触や運動)について頭の中で考えることができません。

ここでの『記憶』は、そういった意味合いでの『記憶』を指しています。

そして、続く認知過程の要素である『判断』を行うためにも、『記憶』しておくことは必要です。


判断

ここでの『判断』は、一般的にイメージされる『判断』と大きく違いがないものと思います。

人は毎日、数多くの『判断』を行います。

例えば、朝起きるとき。「眠いなぁ」と思いながらも、それでも仕事の予定や乗らなければならない電車の時間などを記憶しているため、最終的には『起きる』という判断を行うからこそ、仕事に間に合うように起床して行動することができます。

『判断』とはこういうものですが、脳卒中の感覚障害に対する介入としての『判断』としてはイメージしづらいかもしれません。

具体的な流れで考えたいと思います。

ここまで見てきたように、身体が動いた感覚に注意を向けて知覚します。

知覚された内容は一時的に記憶されます。

そのときの感覚が目的に合致する良い感覚だったのか、もしくは目的にそぐわない悪い感覚だったのか。

ここで必要となるのが『判断』です。

ボールを2回投げたとしましょう。

2回目は1回目よりも遠くまでボールを飛ばせたとします。

このとき、肩の動きを自身の課題だと考えて練習していたため、『注意』は肩の運動覚に向き、肩の運動覚が『知覚』されていました。

1回目と2回目では2回目の方が高いパフォーマンスを発揮できたことから、続く3回目の投球で再現すべきは2回目で『知覚』された肩の運動覚です。

これは、1回目と2回目で生じた両方の感覚を『記憶』しており、パフォーマンスの善し悪しからどちらを選択すべきか『判断』するからこそ可能となるのです。


記憶と判断を利用して感覚を改善する

では、『記憶』と『判断』を考慮して感覚障害に立ち向かうには、どのような戦略が考えられるのでしょうか。

前回のnoteでは、注意を向けることが得意な感覚と苦手な感覚を評価し、得意なところから苦手なところへ注意を誘導するという戦略を提案しました。

今回はその応用となる方法を提案します。

クライアントが注意の操作をできるようになり、これまで苦手だった感覚に注意を向けることが可能となってきたとします。

次は、2つの感覚を『比較』してもらいます。

具体的には、2つ連続して触った物体の感触を『比較』する、2回連続して行った関節運動(他動)を『比較』する、といったものです。

この『比較』というものは、先述の『記憶』と『判断』がなければできません。

2つの体性感覚を『比較』することによって、認知過程における『知覚』『注意』『記憶』『判断』までが活性化されることになります。

実際の介入場面においては、運動を学習して欲しい、学習できるようになって欲しい体性感覚について、複数の体性感覚を『比較』してもらうことになります。

■2つの素材で足底に触れ、「どちらの方が柔らかいですか?」「どちらの方が滑りそうですか?」といった質問を行う(足底の触圧覚を比較する課題)

■座位のクライアントの足元に目印を用意し、他動的に足部を移動させ、「足はどこまで移動しましたか?」「1回目と2回目ではどちらの方が遠くまで移動しましたか?」といった質問を行う(下肢の運動覚を比較する課題)

これらの課題は、質問に答えるために手がかりとする必要のある感覚の種類、動く関節の数、記憶して比較しなければならない感覚の数などによって、難易度を様々に設定することが可能です。


まとめ

今回は前回に続き、脳卒中の感覚障害を改善する方法について考えました。

前回は『知覚』と『注意』を利用する方法でしたが、今回は『記憶』と『判断』を利用して『比較』する方法を提案しています。

人は何かを学習するため、『認知過程』というものを繰り返し回す必要があります。

『認知過程』のうち、『知覚』『注意』『記憶』『判断』まで考えてきましたが、『言語』が残っています。

『言語』については、次回のnoteで考えていきたいと思います。


→続きのnote


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