『科学文明の起源』:世界は“一つの実験室”だった! 壮大なスケールで描く、グローバル科学史の叙事詩
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2023年12月、東洋経済新報社から刊行された『科学文明の起源―近代世界を生んだグローバルな科学の歴史』は、科学史という学問分野に新たな地平を切り開く、画期的な一冊と言えると思います。
著者のジェイムズ・ポスケット氏は、ウォーリック大学で科学技術史を教える新進気鋭の研究者であり、本書は彼の長年の研究成果を惜しみなく注ぎ込んだ、まさにライフワークと呼ぶべき作品です。
科学史の常識を覆す、大胆な問題提起
私たちが学校で習い、また一般的に語られてきた科学史は、コペルニクス、ガリレオ、ニュートン、ダーウィンといったヨーロッパの偉大な科学者たちの物語を中心に展開されてきました。彼らの功績が積み重なり、16世紀から18世紀にかけてヨーロッパで「科学革命」が起こり、近代科学が誕生したというストーリーは、あまりにも有名です。
しかし、ポスケット氏は、この「ヨーロッパ中心主義的な科学史観」は、ある種の「神話」であり、歴史的事実を歪曲していると真っ向から異議を唱えます。近代科学の発展は、ヨーロッパのみならず、アメリカ、アジア、アフリカなど、世界中の科学者たちのたゆまぬ努力と、国境を越えた知識の交流によって成し遂げられたものだと、熱のこもった筆致で訴えかけるのです。
忘れられた科学者たち、そして知られざる貢献
本書の魅力の一つは、これまで正当に評価されてこなかった世界各地の科学者たちの業績に光を当て、彼らの貢献がいかに近代科学の発展に不可欠であったかを、豊富な史料と詳細な分析に基づいて解き明かしている点にあります。
例えば、イスラム世界の科学者たちは、数学、天文学、医学などの分野で目覚ましい発展を遂げ、ヨーロッパのルネサンス期に多大な影響を与えました。また、中国の科学者たちは、火薬、羅針盤、印刷技術などの重要な発明を行い、世界の歴史の流れを大きく変えました。さらに、ネイティブアメリカンの知識は、ヨーロッパの植物学や薬学の発展に貢献し、新大陸の発見と植民地化にも深く関わっていたのです。
世界は“一つの実験室”だった
本書は、科学史における「忘れられた巨人たち」の存在を明らかにするだけでなく、大陸間をまたぐ壮大な知識の伝播と交流の歴史も、まるで冒険小説を読んでいるかのような臨場感あふれる筆致で描き出します。シルクロードや大航海時代を通じて、様々な知識や技術が世界各地を駆け巡り、互いに影響を与え合いながら発展していった様子は、まさに圧巻の一言です。
例えば、インドで生まれた数字の概念がアラビア世界に伝わり、さらにヨーロッパへと広まったことで、数学の発展が飛躍的に加速しました。また、中国で発明された羅針盤は、ヨーロッパの航海技術を飛躍的に向上させ、大航海時代を切り開く原動力となったのです。
ポスケット氏は、こうした知識の伝播と交流の歴史を、「世界は“一つの実験室”だった」という言葉で表現しています。世界各地の科学者たちは、互いの成果を吸収し、時には競い合いながら、人類全体の知識のフロンティアを拡大していったのです。
グローバルな視点が拓く、科学の未来
ポスケット氏は、科学史を紐解くことで、現代社会における科学のあり方についても重要な示唆を与えてくれます。グローバリゼーションとナショナリズムのはざまで揺れる現代において、科学の未来は、国際協力と知識の共有にかかっていると力説します。科学は、人類共通の財産であり、特定の国や地域に独占されるべきものではないのです。
人類の英知と未来への希望を謳う、感動の叙事詩
『科学文明の起源』は、科学史というプリズムを通して、現代文明の成り立ちと未来への展望を提示する、壮大なスケールを持つ作品です。歴史好きの方はもちろん、科学に興味のある方、そしてグローバル社会における知識の重要性に関心のある方にも、ぜひ手に取っていただきたい一冊です。
ポスケット氏の筆致は、時にユーモラスで、時に詩情豊かであり、読者を飽きさせません。
本書は、単なる科学史の解説書ではなく、人類の英知と探究心が織りなす感動の叙事詩として、私たちの心に深く刻まれることでしょう。
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