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映画『ロスバンド』感想

予告編
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PG-12指定


小声なら愚痴……叫べば “ロック”!!


 いやぁ、なんで「バンドやろうぜ!」的な青春映画にはこんなにアタリが多いのでしょうか笑。急繕いのメンバーでバンドを結成し、音楽大会への出場を目指すドタバタ珍道中に、劇場中がウケていました。若者だからこその無双感もあるけれど、所々で見受けられるコンプラ違反は、フィクションの中だからこそ許される若気の至りという大義名分(?)によって中和され、もっと言えばそのやらかし具合のおかげで「もっとやっちゃえ!」とすら思えてきてしまう。ユーモアがいっぱいで、色んなトラブルも起こって、あれもこれもと詰め込んでいるように見えて、実はメンバー一人一人のこともしっかりと描かれている。とても面白かったです。

……2018年に作られたノルウェー発のバンドムービー……っておいおい、日本に来るのが遅いぜ!



 ところで、「ロックとは」なんて言われてもピンと来ないし、っていうか調べてもよくわからなかったし、ましてや僕は音楽の素養がある人間じゃないし……。でも、はっきり述べておこう。本作には紛うことなき “ロック” が詰まっている。バンドメンバーそれぞれが様々な不満や葛藤を抱え、ずっと縛られたままのようだったその魂が、最期の最後、クライマックスになって解き放たれる。


 両親から意見を求められても上手く答えられなかったり、ボーカルのアクセル(ヤコブ・ディールード)の音痴を指摘できずに、こっそりと音程調整をしていたり、相手を傷つけたくないばかりに何も言えなかったグリム(ターゲ・ホグネス)……。

 自身の夢を我慢して父親の敷いたレールに嫌々従うマッティン(ヨナス・ホフ・オフテブロー)……。

 同級生らのくだらない冷やかしに辟易しているティルダ(ティリル・マリエ・ホイスタ・バルゲル)……。

 自信のあったことを否定され、プライベートも上手くいかないことが連続していたアクセル……。


 そんな若者たちのフラストレーションが音楽になったあの瞬間にこそ、正真正銘の “ロック” があった! そう思わされたんです。……というわけで、ネタバレ注意です。



 実は物語の中盤で、主人公グリムが長年憧れ続けていた伝説的ドラマーのハンマーに会いに行くシーンがある。しかしそこでハンマーが語ったのは、夢を追う若者たちへの激励ではなく、音楽業界への憂いであった。音の調整などが可能になった今、もはやそこにはロックの精神は存在せず、「音楽業界は死んだ」とまで口にしていたハンマー。アクセルの音痴を誤魔化すために機械を使って音程調整をしていたグリムにとっては耳の痛い話だ。しかしそんな彼が、クライマックスのロスバンド・イモターレのライブ配信をスマホで観ていた。それも、前述のシーンとは打って変わって満足そうな笑顔で。この表情の変化だけでも、彼らのバンド演奏にロックが宿っていたことがわかる

また、そのスマホを眺める姿が、本作の冒頭で、パソコン画面に映るハンマーのライブ映像を憧れの眼差しで観ていたグリムの姿との対比になっているようにも見えて、それもまた素敵に感じられます。



 バンドメンバーそれぞれがお互いに支え合っている感じがあるのも魅力の一つ。様々な障壁やトラブルを乗り越え、どうにかしてライブ会場を目指すという展開も然ることながら、何よりも心の部分で支え合っている感じが、青春っぽくて良い。まるで彼らの旅路そのものを指し示しているかのような「人生は計画通りにはいかない」というマッティンのセリフからは、「だからこその仲間」という存在を意識させられる。

バランスの良さもあるのかな? 皆を引っ張っていくお兄ちゃん的存在でありながらも、家が車を扱う家業なのにまだ免許を取得できない年齢のため、家族からは半人前扱いされていたマッティン。バンドのベースを支えるチェロを担う存在でありながらも、やはり突出して幼さが際立つティルダ等々……。先ほどは「若者たちのフラストレーション」「解放する瞬間の “ロック”」という観点で述べた各々の満たされていない部分が、バンドメンバー全体の相互補完を彩る良い隠し味になっています



 本作の締め括りも、凄く俗っぽい言い方をしちゃうけど、めちゃくちゃエモくて良かったです。忙しい両親に構って貰えず、その反動もあってか9歳のわりにどこか大人びていたティルダがある時「いつか行ってみたい」と語っていたゴーストタウン——もう誰も居ない町——の話。それは「一人になりたい」という、少女の悲しい望み。しかし、問題山積みの中、全力を出し切ったライブを終えた彼らが、次に目指す場所を語らい、そして終幕した本作のエンドロールには、ティルダ一人だけではなく、メンバー全員と一緒に笑顔で写っているゴーストタウンでの写真が映される……。もぉ最高の後味でした。


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