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映画『AWAKE』感想

予告編
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 今月末までのアマプラ月替わりセールの中から一本。

 実は同名タイトルの映画が他にもあって、そっちとごっちゃになってしまうかもしれませんが、本日投稿するのは、
この『AWAKE』です。
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よければ読んでくださいー。


将棋は...


 本作は、実際に行われたAI×人間による対局から着想を得た物語。僕は将棋に関しては駒の動かし方を知っている程度で、家族や友人など、将棋を指す知り合いが周りに居なかったから特に遊んだ記憶はありませんでした。……将棋崩しくらいはやったことあるかな? 要するに何が言いたいかってーと、僕は将棋に関する基本的知識がほぼ無く、そんな奴の個人的意見として、本作は将棋を知らなくても楽しめる映画だったということ。



 将棋サークルの学生たちがプロの対局を見るため、かじりつくようにTVの前に集まる様子が描かれる。そして彼らは終盤、AI(AWAKE/アウェイク)vsプロ棋士の対局(電王戦)の放送も同様に、かじりつくように見ていた。当時、こういったイベントに将棋ファンがどれくらい興味を持っていたのか、という物差しにもなるし、AWAKE開発途中の模擬戦時に、AWAKEとの対局に然して興味を示していなかった彼らが食いついているという変化も相俟ってとても良かったです。そんな世紀の一局が今まさに始まろうとしている、というクライマックスの雰囲気をチラ見せしてから本編(主人公の幼少期から電王戦に至るまでの物語)に入ることで、描かれるドラマの全てがちゃんとクライマックスに向かっていくような気がする面白さがあります。


 将棋という競技(遊戯?伝統?何と形容すべきなのでしょうか?)の性質を上手く利用されていた印象です。盤面に視線を落とし、戦況を把握し続け、何手先までも読み合う静謐な戦いのカッコ良さ自体も悪くないけど、この “下を向く” という体の姿勢から、将棋プログラムAIを作り上げるためにPC画面を見る……つまり “前を向く” という体の姿勢の変化が、主人公・英一(吉沢亮)の心の有り様とリンクしているように見えて面白かった。

幼少期、棋譜なのか指南書なのか、奨励会の行き帰りの時も、家に帰ってからもずっと将棋の本を読んでいた主人公は、下を向いたままだった。そんな彼が将棋プログラムという新しい可能性に出逢ったことで、前を向けた。奨励会に通っていた頃、懐中電灯で照らしながら将棋の本を読んでいた姿は、将棋しか視界に入っていなかったことを表しているよう。「友達を作りに行っているわけじゃない」と言っていた彼は、大学に入っても上手く人付き合いができていなかったけど、PCと睨めっこすることで前を向くことができ、懐中電灯を使っていた頃とは異なり、PC画面のライトのおかげで彼の顔に光が当たるようにもなった。表情まではあまり変わらなかったけど、こういった小さな見え方の変化のおかげで、彼自身の変化までもが窺い知れた気にさせられます。逆にこの表情の暗さとか陰の雰囲気は主演の吉沢亮さんとの相性も好いから、彼の魅力までも活かされていた印象です。



 将棋の性質で言うと、駒の指し方にも意味が含まれていたよう。一つずつ前に進む、前にしか進めないという「歩」の動きと、登場人物たちの心情や状況がリンクしている瞬間が度々見られたし、「と金」に “成る” 瞬間も同様に、AWAKEの覚醒と重ねているかのような表現にも見えた。物語中盤、英一が入る人工知能研究会の磯野(落合モトキ)が「進歩」と口にすることでその意図を示してくれていたけど、セリフとして言語化される前からもそういった工夫が用いられていたのは個人的に良いと思います。あと対局の一手目。定跡の一手(7六歩? 2六歩? 間違ってるかもゴメン)が指される瞬間の「お、始まったぞ!」感も良かったね。



 この物語の着想にもなった2015年に行われた電王戦。その結果を知らずに観ていたからこそ、クライマックスの決着には驚かされました。勝敗を受け入れ、前を向く姿……。「“勝ちたい” と思わなくなったらプロを辞める」とまで言っていた浅川(若葉竜也)のプライド……。色んな想いが錯綜する中で、将棋、或いはプロ棋士について、二人のことをよく知る “某棋士” が語ったコメントが本作のテーマなのかもしれません。AWAKEの実力を評価した浅川は、電王戦の後も “プロとして” 将棋を続けていく。某棋士のコメントや浅川のセリフによって、僕は英一と浅川の最初の出会いでの言葉を思い出した——「強い相手とやった方が “楽しい”」——。伝統として受け継がれていくことも、エンターテイメントとして普及していくことも、娯楽の一つであり続けることも、全てが将棋にとって大切な価値。でも某棋士が言っていたように、“将棋って楽しいよ” という想いが人々に伝わり、残っていくことが一番なんじゃないかな。そう思わせてくれたラストシ ーンはとても良かったです。対局に臨んだ二人の棋士を肯定してくれた締め括り。作品全体を通して、暗転の使い方が上手かったり、音楽も素敵だったし、とても面白い一本でした。


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