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映画『犬王』感想

予告編
 ↓


 明日5月19日(金)よりアマプラにて配信予定の本作の感想文です。

 公開当時はまだまだコロナ禍だったので、声を出したり等々がなかなか難しい頃の想いも混ざった感想ではございますが、よければ読んでくださいー。


ライブ


 室町時代に実在した能楽師・犬王(いぬおう)を主人公にした物語。実在していたけど、どんな楽曲だったとか、どんな演目・舞だったとかの資料は現代に一つも残っていないだとか何だとか……。あんまりハッキリ覚えてないけど、学校で習ったことがある気がする観阿弥・世阿弥(学校で習った記憶はほぼ無いけど笑、『風姿花伝』の著者という認識はあります)とも人気を二分したんだそうで。正直、あらすじやら設定を知った時点では「?」って感じでしたけど、個人的には湯浅政明作品ってだけでヒャッホー!笑

南北朝~室町時代の風俗やら文化については正直よく知らないのですが、とはいえその当時にあったとは思えないような音楽や舞をアニメーションで拝める映画です


 ——“犬王が描いた名作は現代に一つも残されていない”——これを残念な事実ではなく、逆に自由度の高さと捉え作られたかのような音楽の数々が本当に素晴らしい。だからこそ湯浅政明監督らしい自由なアニメーション表現がより一層映えるでしょうしね。劇場の大音響で楽しめて本当に良かったです。ライブやコンサートを観に行った感覚に近い興奮があります。

 中でも個人的に特に好きなのは、清水の舞台で披露された『鯨』という演目。(一部だけですがYouTUBEに乗っていたので、よければどうぞ↓)

Queenの 『We Will Rock You』を彷彿とさせる手拍子と足踏みのビートから始まり、そしてこれまた同曲のように観衆を巻き込むコール&レスポンス。高揚しないわけがないよ笑。

 ここで行われる犬王による舞台演出が、「そんなわけない」と言いたくなるようなものばかりなんですけど、実は理屈だけで言えば技術的にギリギリ出来ないこともないくらいなのも面白い。けれど逆に、そんな塩梅の演出とは異なり、イントロからしばらく経った、曲の中盤辺りからはエレキギターのような音色が混ざり始めることもある。この演目に限らずですが、ぶっ飛んだ舞台演出や、およそ有り得ない音色が混ざることで、“実際にはどんな音だったのか” ではなく、“当時の人にはどう聞こえていたか、どう見えていたか”という衝撃の度合いが窺い知れるのも面白い。そういった要素をいきなり入れ込むのではなく、途中から織り交ぜていくことで違和感を感じさせないようにしているのもすごい。

 また、楽曲そのものも然ることながら、それを別の視点でも視覚的に表現してくれているかのような映像も見どころの一つ。犬王に魅せられ集まった観衆たちの姿は、歌詞にある「千ものイルカ」が果ては「でっかい鯨」となること、そして彼らが巻き起こすウェーブのうごめきは、鯨が「迫り来る」ことを容易にイメージさせてくれる海の波のようでもある。歌詞と映像のリンク、これだけでめちゃくちゃアガります。暗い中での演目、そして舞台演出によるライトアップとの対比で観衆の姿が暗く映っているのも、夜の波のうねりのようで、個人的に好きなポイントです。



 異形の姿で生まれた犬王は、面で素顔を隠して暮らしている。当時の政権によって歴史から消され、無かったものとされてしまった当人を象徴しているかのような姿で、一見すると暗い印象を受けてしまいかねないのに、本作からはそういった気配があまり感じられない。湯浅監督の作品の特徴なのかもしれませんが、この明るさ……というか、湿っぽくない感じと、犬王を演じるアヴちゃんの雰囲気がとてもよく合っている印象です。アヴちゃんに決まってからキャラクターをそれに寄せていった、と監督がインタビューで仰っていましたが、それも納得。もうアヴちゃん以外には考えられないくらいにハマっています。


 犬王が友魚(森山未來)と初めて曲と踊りを合わせるシーンは、アニメ映画『音楽』(感想文リンク)でメインの3人が初めて一緒に演奏した時のような昂りを感じました。「うわぁ!何だ、この感じ!」という、うまく言語化できない興奮を、二人の表現でもって見せてくれる。そして異形の犬王、全盲の友魚という、マイノリティ、或いは時代的には弱者として周囲から見られていたであろう二人が、型や常識などの壁を飛び越え、潮流を変えていく。世界を、人々を震わせていく……、まさしく「We Will Rock You」をその身で体現してくるような熱い展開(ちょっと “こじつけ” が過ぎるかな?笑)と、二人が生み出すバディ感が、先述のライブ・コンサートを観に行った時のような興奮に拍車をかけてくれる


 『鯨』のシーンに限らず、彼らのパフォーマンスに盛り上がっているオーディエンスも同時に描かれているのも良い。それだけでとても楽しい気分になれます。コロナ禍なので応援上映などは難しく、上映中も大人しく鑑賞していましたが、マスクの中で声を出さずに口を動かしてコール&レスポンスに参加していたのは、きっと、僕だけじゃないはず。


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