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映画『音楽』感想

予告編
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PG-12指定


 趣味で映画の感想文を書いて、一年ごとに冊子にまとめては、その冊子を「読んでみたい」なんて宣う変な方に奇特な方にお渡ししていまして。

 本項の本文中で「本誌が~」と述べているのは、その冊子のことです。


 本文中にも記載してありますが、本作の公開当時(2020年1月頃)に抱いていた懸念は、マジで余計なお世話というか何というか……笑。思っていたこと・考えていたことが記録に残るってのは恥ずかしいものです。

 今や「映画」「音楽」と検索すれば本作を見つけられるし、しかも、この感想文を投稿した頃は知る由もありませんでしたが、新宿武蔵野館などではかなり長い間上映されるほどの人気ぶりでしたし……。

 とまぁ、余談が多めではありますが、よければ読んでくださいー。


異質の皮を被った直球映画かも


 うぉぉおおおオオオッっっ!! この感動を!……ん? いや、違うな。昂揚を? 興奮を? わからん!! もうとにかく……、言葉に形容できないし、仮にそれが出来たとして「言葉にする」という行為ほど野暮で無粋なことが他にあろうか。長いこと映画の感想文ってやつを書き続けてきた自分が今さら言うべきことじゃないんでしょうけど笑。

 言語化できない魅力が存分に詰まった傑作なんじゃないでしょうか、この『音楽』は!

 ああ、しかし何ということでしょうか、年始早々にこんな作品に出逢ってしまうだなんて。その魅力を微力ながら伝えようにも本誌が読まれるのは早くても一年後。その頃には公開が終わってしまっているだなんて……。

 ……何故ここまで嘆くのか。それはこの『音楽』が、今観なければならない、今観るしかない気がしているから。だって考えてみれば、ネットで「映画」「音楽」というワードだけで検索して、果たして本作を見つけられるのか?「映画音楽」の特集ページ等がヒットするのが関の山なんじゃないかと笑。


 普段、TVアニメも観たりしますけど、映画にはそれらとは違った匂いを感じたいというのも正直な気持ち。大きくてキラキラした瞳や甲高いアニメ声に辟易している人達には尚オススメかもです。芝居に限らず、デフォルメとは正反対に、その多くが引き算的な演出で構築された作品です。

 (著名人のコメントにもありましたが)作品内に散見されるシュールな笑いに関しても、エッジの効いた独特のユーモアを用いるといった “正攻法ではない” という構築ではなく、むしろ “何もしない”。そんなユーモアの数々に笑わされる。「怖くないのか?」と感じてしまうほどの “間” の数々が、まるで非凡な者と対峙しているかのような緊張感を生み出してくれます。そしてそれらのシーン全てにおいて、背景にせよBGMにせよ、煽る演出の一切が排除されているから殊更にゾクゾクさせられる。しかも、その “何もしない間” の果てに大したことを言わない笑! めちゃくちゃトガッた、斜め上の発言を無意識のうちに予想していたのに、とてもベタなことを言うし、しかもそれを不良が口にするっていう! まるで膝カックンされたようなギャップが味わえる。

 更に言えば、温かみのある手描きアニメーションだからこそ(?)の単純な表情が面白さに拍車をかける。手を加えずに築き上げられたシンプルで美しい緊張と緩和によるユーモアの数々が醍醐味の一つだと思います。延いてはそれが本作の評価に繋がり、同時に「映画」「音楽」と検索しただけで本作がヒットするような要因になってくれないかと人知れず願うばかりだ。



 僕は、音楽の〈聴き手〉でしかありません。バンドを組むどころかギターも弾けない。ベースもドラムも。なのに「初めてバンドを組んだ時のような〇〇」と言いたくなってしまう。自身の心の奥底からそんな昂りが溢れてくる本作は、ここまで羅列した文言からは凡そ想像し得ないほど単純な絵心で描かれたアニメーション映画。それは予告編映像やティザービジュアルの画像を見て貰えればわかることでしょう。余計なものを排除したかのようなそのビジュアルは、まるで音楽に初めて没入する際の(或いは青春と呼ばれる世代が持つ特有の溢れんばかりのパワー・エネルギーによる)初期衝動を描き出す本作との相性が凄く好い。まさしく〈ロック〉と言いたくなる。

 繰り返しになりますが、僕は音楽の聴き手でしかありません。もっと言えば音楽に関する素養もない。それでも分不相応にそんなことを思わされたんです。

 いや、もしかすると “だからこそ” か? たとえ音楽のことなんか詳しくなくても、音楽にハマった瞬間・時期ってのは誰の記憶にも鮮明に残るもの。コードだ何だと理解出来なくても、ただその音に陶酔し、耽溺し、興奮し、体までが疼きだし無性に動き出したくなった学生時代——不格好にリズムを刻んでみたり、ぎこちなくも踊り出してしまったり、そして中には「バンドやらないか?」なんて言い出す奴も居たり!——。ギターとベースの違いもぼんやりとしか認識していないのにバンドを組んだ彼らも同じ。だからこんな自分でも最高に楽しめたに違いない。ああそうか、どおりで「バンドやろうぜ」的な物語には面白い作品が多いわけか。


 ——「え!あのバンド好きなの?!オレも大好きなんだよ!!」——学生の頃、性別やスクールカーストといった垣根をいとも容易く飛び越えて、まったく接点の無かった人達と、音楽の趣味が類似しているだけで一気に打ち解けられたことがある。本作でも同様の事が描かれていましたが、サブカル好きの地味な学生が不良と仲良くなったり、まるで正反対だったり、相性の合わなそうな者同士が手を取り合える “音楽” が持つ魅力・力の根源に触れた気にさせられる特異な作品だったと思います。


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